写真左:干場義雅(ファッションディレクター)●東京都生まれ。『LEON(レオン)』『OCEANS(オーシャンズ)』などのライフスタイル誌の編集者を経て、ファッションディレクターとして独立。ウェブマガジン『FORZA STYLE』の編集長も務める。写真右:山崎聡(ネオロジムズ代表取締役、オーナーバーテンダー)●大阪府生まれ。ヨコハマ グランド インターコンチネンタル ホテル勤務を経て、大阪・北新地のバー「Serpent」の店長に就任。2009年より同店を継承し独立開業する。
バー「Serpent」を訪れた干場さんを出迎えたのは、オーナーバーテンダーの山崎聡さん。「いらっしゃいませ」と穏やかな声でカウンター席に誘います。バックバーはシックな格子扉で閉ざされ、お酒の品揃えがひと目でわからないつくり。ならば、と腰かけた干場さんは店のお薦めメニューを探るべく、山崎さんに話しかけます。
干場義雅(以下、干場) 知り合いに勧められて、今日は寄らせてもらいました。こちらのお店はどのようなお酒が多いのですか?
山崎 聡(以下、山崎) シャンパーニュとシングルモルト、そしてカクテルに力を入れています。それぞれの販売比率は同じくらいですね。だから全員シャンパーニュという日もありますが、基本的にはお客さまが好みでいろいろなものを飲まれています。
干場 シャンパーニュですか、いいですね。どれくらい揃えているのですか?
山崎 だいたい1000本くらいでしょうか。専用の倉庫を借りていて、店内には300本くらいご用意しております。
干場 それはすごい! どんな銘柄が人気なのですか?
山崎 いまは自然派のシャンパーニュがよく出ますね。ジャック・セロスとか、そのお弟子さんがつくっているものとか。生産本数が少ないのであまり市場に出回らないのですが、毎年フランスに行くなど努力を重ね、然るべきルートから仕入れてストックしています。
干場 スター生産者のシャンパーニュですか。ファンにはたまらないですね。
写真左は、ジャクソン社が1975年にリリースしたヴィンテージシャンパーニュ。右はゴードン&マクファイル社のシングルモルトウイスキーで、世界に61本しかない希少品。ファン垂涎のお宝級の銘柄をストックする。
写真左のカクテルは、シャインマスカットでアレンジした「フレンチ75ツイスト」。右は仕上げに薔薇の香りを添えた、薔薇と白桃の「ベリーニ」。季節ごとに用意するカクテルも工夫を凝らしている。
シャンパーニュ専門店ならともかく、通常のバースタイルにもかかわらず1000本のシャンパーニュをストックしているという話に、干場さんは度肝を抜かれた様子。他のお酒の品揃えにも、俄然興味が湧いてきます。
干場 シングルモルトはどのようなものがあるのですか?
山崎 主にスコットランドのシングルモルトを揃えています。ストックは800本くらいですね。
干場 皆さん、シングルモルトはどのように飲んでいるのでしょう。やはりストレートがお薦めですか?
山崎 ある程度値が張るものは、「もったいない!」からとストレートで飲まれる方が多いですね。でも個人的には、水割りやソーダ割りで飲んでもおいしいものがあると思っています。やはりカジュアルなウイスキーと比べると、水やソーダを加えた時の香りの開き方が違ったりして……。おいしいものはどう飲んでもおいしかったりするんですよね。
干場 確かに、そうかもしれません。カクテルはどのような感じですか?
山崎 クラシックなレシピだけでなく、斬新な組み合わせもご用意しています。たとえばいまの時期でしたら、旬のフルーツであるシャインマスカットを使ったものとか。
干場 その斬新なカクテル、気になりますね。一杯いただけますか?
山崎 承知しました。ベースのお酒は、抹茶をジンで抽出したものです。そこに皮ごとすり潰したシャインマスカットを合わせて、シャンパーニュを注ぎます。「フレンチ75」のツイストですね。
干場 ツイストとは?
山崎 ジンとレモンとシャンパーニュのカクテルがあって、それが「フレンチ75」という名前なのですが、もともとあるカクテルにヒネリを加えたものを“ツイスト”って呼ぶのです。さあ、どうぞ。
干場 あぁ、これはおいしい! シャインマスカットの甘みと煎茶の苦味と香り、そしてシャンパーニュの爽やかさが見事なハーモニーを奏でていますね。これ、“気絶するやつ”じゃないですか(笑)。
チャームとして出すことが多いカヌレは、こだわりの自家製。生ハムもイタリア・パルマ産の希少部位を用意するなど、フードメニューも吟味したものを提供する。
おいしいお酒を口にして、ほっとひと息つく干場さん。その様子を静かに見守りつつ、山崎さんは新たな会話の糸口を探ります。
山崎 普段はどのようなお酒を飲むことが多いのですか?
干場 その時の気分だったり、シーンだったりで変わりますね。シングルモルトは好きですが、カリブ海のリゾートだったらラムも飲みますし、イタリアのカプリ島だったらリモンチェッロをオーダーしたり……。やはり、その場所で楽しめるものが違ってきますから。飲む時はできれば優雅にグラスを傾けたいのですが、いかんせん時間がない。でも一杯だけ飲みたい、ということもある。そんなわがままなお客さん、いませんか(笑)。
山崎 それでいいんです。わがままを言っていただいて、それを叶えるのがバーテンダーの仕事だと思っていますから。店に来ていただくというのは、お客さまの時間を頂戴するということ。可能なかぎりご要望に合わせた場の提供を心がけています。たとえば会話の中で「こんな曲が好き」という話があれば、次回いらした時にその曲をスッと流してみたり。
干場 それは素敵ですね。やはり記憶力がすごいんですね、きっと。
山崎 私自身もバーに行くのが好きで、客として素晴らしいサービスをたくさん受けてきたからでしょうか。諸先輩方に、そういうふうに接客していただいた経験が活きているのだと思います。