【ザネラート クリエイターに寄り添うバッグ】Vol.4 “クリエイション”を賛美する、平野啓一郎の美学。

  • 写真:森山将人(mili)
  • 文:飴李花

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モノやコトの本質に向き合い表現をするクリエイターと、デザイン性と機能性を追求するザネラートのバッグは、さまざまな部分でシンクロします。そこで、各分野のトップランナーに密着し、“ザネラートがある日常”を観察。そのリアルな魅力に迫ります。

いい仕事の現場に上質なバッグは欠かせません。京都大学在学中に華々しく文壇デビューし、「三島由紀夫の再来」とまで謳われた平野啓一郎さんは、普段持ち歩く荷物が決して多くないタイプ。しかし、バッグがなくても事足りる日もある、でも手ぶら男のどこか間の抜けた雰囲気をよしとしないという、高い美意識をもっています。そんな平野さんがバッグを選ぶ際に重視するのは、持ったときの佇まいや、クリエイションとしての完成度。ザネラートのアイコンでありマスターピースでもある「ポスティーナ」は、平野さんの目にどのように映ったのでしょうか。

きれいめでカジュアルという、自分のスタイルにフィット

平野啓一郎。1975年、愛知県生まれ。99年、京都大学在学中に文芸誌へ投稿した『日蝕』が、第120回芥川賞を受賞。以後『葬送』『滴り落ちる時計たちの波紋』『決壊』など数々の著作が人気を博し、世界各国で翻訳紹介されている。2008年からは三島由紀夫文学賞選考委員を務め、16年刊行の『マチネの終わりに』(渡辺淳一文学賞受賞)は、17万部を超えるベストセラーに。芸術や音楽にも造詣が深く、幅広いジャンルで批評を執筆。14年にフランス芸術文化勲章シュヴァリエを受章。17年からは木村伊兵衛写真賞の審査員を務めている。18年5月、「文學界」6月号におよそ2年ぶりとなる長編小説『ある男』が、一挙掲載されたばかり。

京都大学法学部に在学中、弱冠23歳にして純文学の新人文学賞である芥川龍之介賞を受賞。あの三島由紀夫が引き合いに出されるほどの才能や熱い想いを、惜しむことなく注入した作品や批評を発信し続ける平野さんに、「新作の長編小説を脱稿したばかり」というタイミングでお会いすることができました。美しい日本文学を生み出すだけでなく、芸術や政治、思想といった分野においても独自の主張を繰り広げ、強い存在感を発揮する平野さん。個人(Individual)よりも小さな、複数の異なる人格である分人(Dividual)の集合体である「自分」は、状況や相手次第で異なる「自分」になる方がむしろ自然であるという“分人主義”を提唱するなど、現代人の多重人格性をポジティブに評する、深く優しい人間観の持ち主でもあります。

メディア取材に対応する平野さんの衣装は、すべて自前。「春夏の取材はありがたいですね。秋冬だと、衣装代が何倍もかかってしまうんですよ」と笑う。

ファッションにも精通しており、カジュアルでありながらも上品で、ベーシックでありながらも個性が光る、そんなスタイルを信条とする平野さん。洒脱なルックを形作っているアイテムは、ほとんどがデザイナーズブランドのものだといいます。しかしこだわっているのはそのレーベルではなく、クリエイションに対しての真摯な姿勢。トップデザイナーならではの世界観や研ぎ澄まされた美意識、なによりプロダクトとしての完成度の高さこそが、平野さんを惹きつける要素なのです。
「話題性を競うようなラグジュアリーブランドの動向には興味がないんです。やっぱりモノが良くないと。あと、あんまりストリートに寄りすぎるのもどうかなと……。このポスティーナは、きれいめなのにカジュアルという雰囲気が、普段の自分のスタイルにとても合っています。精緻なものづくりを続けるイタリアブランドというのもいいですね。機能的であることが絶対条件であるかのような、世の中の趨勢とも合致しています」

購入したその日から手によく馴染み、持ったときのシルエットやボリューム感が絶妙な「ポスティーナ」。内容量が多くても少なくても、その美しさは変わらない

バッグというツールに対し、ファッションアイテムとしてのアクセサリー的な役割も求めるという平野さん。だからこそ、デザイン性の高さは欠かすことのできない要素です。
「普段の荷物は多くないので、正直バッグが不要なくらいの日もあるのですが、大人の男が手ぶらだと所在なさげで格好がつきませんから(笑)。ポスティーナのやわらかなシルエットと適度なボリューム感は、男の立ち姿を美しく見せてくれますね。見た目重視でその日のバッグを選ぶことも多いのですが、これなら才色兼備でいうことはありません」

“表裏一体”を実現する、高次元のクリエイション

取材対応や移動の合間のちょっとした時間も、多忙な平野さんにとっては貴重な読書タイム。この日は稲垣達郎の名著『角鹿の蟹』を、文庫で読み耽っていた

品があってインテリジェントなのに、ほどよくリラックスしていてカジュアル。そんな印象の「ポスティーナ」なら、どんな場所に連れ出しても平野さんらしいスタイルが維持できます。
「これからの季節に大活躍してくれそうな、明るい色みがいいですね。革製なのにとても軽くてしなやかで、長時間持って歩くのも苦になりません。自分のスタイルに合わせやすいレザーバッグはいくつか持っているのですが、やっぱりバッグ自体が重いと持つのを躊躇してしまいます。軽くて丈夫というのは、重要なポイントだと思います」

間仕切りや豊富なポケット類などによって、徹底的に実用性を追求した「ポスティーナ」。一枚革でアンライニングの「プーラ」素材だからこその、軽快さや素朴さもポイント

以前はクルマを所有していたものの、利用頻度のあまりの低さから手放し、「移動はもっぱら地下鉄かタクシーですね」という平野さん。合理的でスマートなライフスタイルを実践するクリエイターゆえ、バッグという道具の選択にも決して妥協はありません。
「財布やスマートフォン、手帳、キーケースに読みかけの本程度」と、毎日持ち歩く“エッセンシャルズ”は少なめ。しかし時期によっては、原稿執筆のためのノートPCや著書の草稿を出力した紙の束、選考委員を務める文学賞のノミネート作品など、荷物量は大幅に増大するそう。収納力が高くハンドリングもいいポスティーナは、豊富で荷物を整理整頓しやすく、きわめて合理的な選択肢といえそうです。

置いているだけで絵になる、“It”な2WAYバッグの「ポスティーナ」。従来のレザーに比べ約20%の軽量化に成功したリッチな質感の「プーラ」素材は、日焼けや摩擦に強い耐性をもつ優れもの。今回はプーラシリーズの「カシミアプーラ」をフィーチャー。「ポスティーナ(Lサイズ)」(W40×H26×D20cm)¥138,240/ザネラート(アマン)

1950年代のイタリアで、郵便局員が実際に使用していたバッグがベースとなっている「ポスティーナ」。プロダクトの背景にあるストーリーや合理性、実用から生まれた高度なデザイン性に惹かれる平野さんは、イタリア郵政省から正式な認可を得たモデルであるというエピソードを知り、「なるほど、だからポスティーナという名前なんですね」と見事に腑に落ちた様子です。ボディと同素材のストラップが付属し、コンパクトに見えてノートPCもらくらく収納可能。リッチで繊細に見えてタフで頑強という“表裏一体”を実現するモノづくりが、ザネラートの真骨頂なのです。

より深く多彩に、革新し続ける創造力を知る。

通常の「ポスティーナ」とは異なり、「プーラ」素材のものにはボディと同色、トーン・オン・トーンのアクセサリーパーツが採用されている。

フラップ正面にあしらわれた2つのターンロック、サイドのスタッズといった「ポスティーナ」の象徴的メタルパーツが、すべてボディと同色となっているのが、「プーラ」素材の最大の特徴。これによりデザインはよりミニマルに、落ち着いた印象に仕上がっています。従来のタンニング(なめし)工程は重金属を使用するところ、金属を一切使用しないため約20%の軽量化も同時に実現。革本来の風合いと美しい色み、うっとりするような肌触り、強力な耐傷性、鼻孔をくすぐるタルク香など、多彩なメリットを享受できる、文字通りの「名品」です。化学物質を一切使用しないエクスクルーシブなナチュラルタンニング製法だからこそ、このプレミアムでリッチな質感、鮮やかな発色が実現したといいます。

「プーラ」素材を証明するマークは、目を凝らさなければわからないほど自然に刻印されている。ヒートスタンプによるエンボスで、ロータスフラワー(蓮の花)の花びらを模したグラフィックを表現した。イタリア語でピュアを意味する“PURA(プーラ)”だけに、レザーのピュアな印象をより引き立てる。

しっとりとしたマットな質感のフルグレインレザーは、革本来の魅力を再認識させてくれるもの。この「プーラ」素材は、デザイナー兼CEOであるフランコ・ザネラート自らが長年にわたる試行錯誤の末、ようやく開発にたどり着いたエクスクルーシブなものです。地球環境や製造に携わる職人に一切の悪影響を及ぼさない、新開発のナチュラルタンニング製法によるものであり、2017年にファッションブランドとして世界で初めてエコテックス(スイス・チューリヒに本拠を置く、繊維や皮革製品に関する有害物質の検査認証機関)のレザー規格認証を取得。これは、ザネラートによるレザー革命といっても過言ではありません。プーラのタンニングでは、食品業界で不要となったヒマワリやアーモンド、大豆などを由来とする成分を再利用しています。ロータスフラワーの紋様は、まさに自然との共生を象徴するものなのです。

シックでエレガントなデザインと上質なタッチ、そしてビジネスマンにもぴったりなブラックカラーが秀逸な、「カシミアブランディーン」シリーズの小物類。(上から時計回りに)2つ折り財布¥27,000、ジップ付きカードケース¥21,600、スナップ付きコインケース¥22,680、ジップ付きミニ財布¥27,000、(中央)カードケース¥12,960/すべてザネラート(アマン)

ザネラートの魅力は、なにも「ポスティーナ」に代表される美しく機能的なバッグだけではありません。サイズやデザイン、機能違いで豊富にラインアップされる、スモールレザーグッズもお薦めです。ブランドの代表的なモチーフである波柄の「ブランディーン」を型押しで表現したシリーズは、堅牢なブルハイドレザーを使用しつつもシルクのようなしっとりとした光沢をたたえ、触り心地も実になめらか。長年にわたって飽きることなく、徐々に深みを増していく経年変化を含めて愛用できること間違いなしです。
古きよき伝統と革新的な技術やアイデアを融合し、たゆまぬ努力でバッグとレザーの未来を切り拓き続けるザネラート。“クリエイション”と呼ぶにふさわしいそのモノづくりのフィロソフィーは、さまざまなプロダクトとして結晶化し、平野さんのような一流クリエイターの美学とも共鳴します。歴史ある「ポスティーナ」に最先端のナチュラルタンニングレザー「プーラ」を載せたクラシカルモダンな名品こそ、その典型といえるものでしょう。

問い合わせ先/アマン TEL:03-6805-0527
http://www.zanellato.com
http://zanellatojapan.tumblr.com