次世代コート、「ノルウェージャン・レイン」を徹底解説。

  • 写真:永井泰史
  • 文:高橋一史

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語れる服 Vol.9: 北欧ノルウェーで暮らす二人のクリエイターが生み出した、スタイリッシュなコートブランド「ノルウェージャン・レイン」。そのアイディアの数々を、来日した本人たちが解き明かします。

スタイリッシュなルックスの奥にあるもの。

襟端には黒いカシミア。タブ下の正方形レザーは、型押しされたブランドロゴ。着ても脱いでも洒落たデザイン。
ボタンの留め方により、様々な着こなしを楽しめます。各ポケットはファスナーつき。コート ¥156,000
ディテールを解説するのは、本国ノルウェーで自身のテーラリングブランドを展開し、ビスポークスーツも手掛けるT-マイケルです。フィッティングモデルを務めてくれたのは、ディレクターのアレクサンダー。まず最初に取り上げるのは、着こなしの幅が広いシンプルなコートです。表地はツイードのような風合いのヘリンボーン織り生地。彼らが表地に用いる生地には共通する機能がありますが、詳しくは次ページ以降でご説明します。ディテールにも多くの共通項があり、襟に高級な黒いカシミア生地を配しているのもその1つ。「ボタンを上まで留めて首を覆ったときに、肌に優しいアタリにするために使っています」とT-マイケル。裏地が光沢感のある滑りのいいサテン生地になっているのも、テーラリングを本職とする彼ならではのデザインです。
フロントをすべて留めた状態。サイドのアジャスタ・タブで、シルエットの微調整が可能。
フードを取り付けたままでも、丸めてコンパクトにできます。
ドレッシーな服装と相性がいいコートといえるでしょう。ダブルブレステッドの前合わせは、シングルコートのフロントに大きなフラップを取り付けたような独特の仕様。下のボタンだけを留めて襟元を開ければ、トレンチコートふうに着られます。そして、上までぴったりとボタンを留めたときにこそ、ノルウェージャン・レインが真価を発揮! 「強い雨が降り注いでも、肩から下までスムーズに水を流すことができます。ハンドウォームポケットが高い位置についている理由は、下ポケットに手を入れると、雨が侵入して濡れてしまうから」とアレクサンダー。立体裁断で頭に馴染むフードは取り外し可能で、クルクルと丸めてレザーストラップで固定させることもできます。首のうしろにキャンプ用毛布のミニチェアがくっついているようにも見えて、ユーモラスな印象です。

雨風を寄せ付けず、侵入させない巧みな工夫。

ミリタリーコートのような防寒アウター「モスクワ」¥205,200
革新的な機能を有するノルウェージャン・レインのコンセプトは3点に集約されます。T-マイケルが語ります。「どの服にも共通している要素は、ウォーター・プルーフ、ブリザーブ・プルーフ、エコ・フレンドリーであること。表の生地は、雨風を防げるリサイクル素材でできています。さらに重要なのは、これらの生地がエコと気付かないほど高級感がある点です」。
厳しい条件を満たす生地を世界中から探した彼らが出会ったのは、日本のメーカーの製品でした。リサイクル・ポリエステル繊維でできており、撥水加工を施し、裏面には蒸気を通す防水フィルムが貼られています。パーツの繋ぎ目もシール加工されているので、見た目はシンプルでも中身は本格アウトドアウェアそのもの。
軽やかに水を弾く、撥水加工された表地。
エッジの折り返しは雨の侵入を防ぐディテール。
どのコートも裾をめくると、縫い目に施された防水のシール加工を見られます。表面にはレザーのブランドロゴが。
「私たちは3日のうち1日は雨が降る、ヨーロッパでもっとも降水量が多い街、ベルゲン(Bergen)に住んでいます。ファッションとして優れていながら、雨対策ができるコートが必要でした」とアレクサンダー。何気ないディテールにも、すべて深い意味があります。このページに掲載しているのはブランドを代表する防寒コートですが、フロントの端をまっすぐ折り返しているのは、雨を内部に侵入させないため。「胸から流れ落ちてきた水をここでシャットアウトして、雨どいのごとく下に落とすディテールです。北海の油田で働く人の作業着に着想を得ました」とT-マイケル。このアイディアは、ほかのコートにも採用されています。美しさと実用性とを満たす服づくりが彼らのポリシーなのです。

マイナス25℃の中で5時間過ごせる防寒コート。

フードと口を覆うフラップで、雨風を防ぎます。
アレクサンダーが着ているコートは「モスクワ」と名付けられた防寒服です。「ウォータープルーフだけでなく、暖かさをどうキープするかに挑戦しました」とT-マイケル。彼らのテストではマイナス25℃の環境の中で5時間過ごせる性能をもち、北欧生活の必需品といえる一着に仕上がっています。表地はほかと同様のポリエステル素材で、ライナーに天然素材を用いることで防寒性を高めています。
「襟と胸周りに、保温力が高いアイスランド製のシープスキン・ボアを配しました。パネル切り返しでカーブをつくり頭にフィットさせたフードの内側にも使っています。ただし頭が熱くならないよう、全面でなく部分的に用いています」。自分たちで着て製品を完成させていく、T-マイケルとアレクサンダーらしい工夫です。
伝統的な衣服を彷彿とさせる、シープスキンのライナー。
どのコートも、裾をめくると中の様子を見ることができます。キルティングライナーの白い中綿はポリエステル混ウール。
立体的な構造のフード内側にもシープスキンボアが。
黒いキルティングのライナーも、一般の防寒製品とは異なる上質な逸品。「軍モノで通常用いられるのは、ポリエステル100%の中綿。ですが、このコートでは、ウール90%、ポリエステル10%の中綿にして保温性をアップ」。ウールは羊の毛ですから、体から出る蒸気の吸収発散にも優れています。肌が感じる心地よさまでも計算された服であり、こうした様々な要素が、ノルウェージャン・レインを特別な服にしています。
彼らは言います。「目指しているのは、毎日いつでも着られる、世界中で一番機能的なアウトドアウェア。常に革新的でありながらも極力シンプルに見えるコート、それが我々が掲げるデザインのフィロソフィーです」

北欧での生活から生まれた発想。

裾が動きやすく優雅なラウンドカットで、背中の紐でカタチを変えられるポンチョ「レインチョ」。¥95,040
1サイズ展開で、袖の長さをタブで変更可能。
ノルウェージャン・レインは現在、イタリアで開催されている世界有数のメンズ展示会「ピッティ・ウォモ」に出展しています。「会場でこの服を着てると、たくさんスナップ写真を撮られてしまう」と笑いながら話すT-マイケル。彼自身がデイリーに愛用しているのは、グレーのポンチョです。バックパックを背負った上から羽織れるほどたっぷりとした分量があり、袖つきなので自転車に乗るにも便利です。「とても実用的でデザインの工夫が詰まったこのアウターは“ポンチョ”じゃありません、“レインチョ”です(笑)」と彼。いつもピシッとスーツを着こなすT-マイケルにとって、動きやすく手放せない愛用品のようです。
ビジネスパーソンも着やすい、スリムで都会的なチェスターフィールドコート¥124,200
ジョーク好きで常に大笑いするT-マイケルと、穏やかなアレクサンダー。
ブランドの構想は、経営学修士(MBA)を取得していたアレクサンダーが、2007年にまったく新しいファッションアイテムを創造すべく、T-マイケルのアトリエを尋ねたことからスタートしました。ガーナ共和国出身のT-マイケルは、ロンドンでファッションデザインの仕事に従事したのち、24年前にノルウェーに渡って学校でテーラリングを学びました。温かみがありシンプルな北欧の家具が日本で人気なように、ノルウェージャン・レインにも、どこか私たちの琴線に触れる味わい深さがあります。彼らいわく「スカンジナビア半島のセンシティブな要素が、日本人の繊細さと近いのではないでしょうか」。初来日となった今回ですが、取材スタッフに対しても旧知の間柄のようにフレンドリーに、ジェントルに接してくれた二人。彼らの良好なパートナーシップから生まれるノルウェージャン・レインが今後どのように発展していくか、大いに楽しみです。

ノルウェージャン・レイン
北欧ノルウェーでディレクターAlexander HelleとデザイナーT-Michaelを中心とした「レインプロジェクト」が発足し、2009年にブランドスタート。エココンシャスな姿勢もあり、すべてのモデルに採用している日本製リサイクル生地は、裏面に貼るフィルムの製造過程で溶剤を未使用にするなどの工夫により、CO2排出量をおよそ80%削減。日本で輸入代理店が決まったのは2014年春夏シーズンから。2014-15年秋冬より、国内有数のセレクトショップで取り扱いが拡大中。



問い合わせ先/ユニット&ゲスト TEL : 03-3710-3107
http://www.unit-and-guest.com/
http://norwegianrain.com/