コンスタンティン・グルチッチは、なぜ丸眼鏡だけで8つものモデルをデザインしたのか?

  • 写真:宇田川 淳
  • 文:高野智宏 スタイリング(モデル):井藤 成一
  • ヘア&メイク(モデル):ミホハマヤ

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ジンズから、世界的なプロダクト・デザイナーであるコンスタンティン・グルチッチさんがデザインした眼鏡が発売されます。ラウンドタイプで8種類ものデザインを手がけた本人が、その魅力を語ります。

自身がデザインしたスポーティなモデル「タイプ バイク」を掛けるグルチッチさん。「私にはクラシックなモデルのほうがマッチするのでしょうが、デザイナーたるもの常に冒険に挑まなければ」と、その矜持を語ります。

デザイン界の第一線で活躍するクリエイターとともに、眼鏡の本質を多角的な視点で探り、これからの時代にふさわしい価値のある眼鏡を創出する、ジンズの画期的な試み「ジンズ デザインプロジェクト」。第1弾のジャスパー・モリソンさんに続き、今回の第2弾に招聘されたのが、ドイツを拠点に活動する世界的なプロダクト・デザイナー、コンスタンティン・グルチッチさんです。
そして、このたび発表されたコレクションは、実に全8モデルのすべてがラウンドタイプという異例のコレクションでした。なぜ、すべてのモデルをラウンドタイプとし、なぜ8種類ものモデルをラインアップしたのでしょうか? 代官山で行われたトークイベントで、自身が手がけた展示を前にグルチッチさんがその理由を語ります。

眼鏡は、人のイメージを左右する特別なプロダクト。

展示の構成も手がけたグルチッチさんは「この会場にある展示物は、ジンズ渋谷店に移設されます。デザインに至るまでの過程をご覧ください」とコメント。

去る6月14日、ジンズ デザインプロジェクト第2弾のプレス発表イベント「JINS×Konstantin Grcic Talk Event」が開催されました。会場にはグルチッチさんがデザインした全8モデルの眼鏡がお披露目されるとともに、スケッチ原画や設計図、そして3Dプリンターで出力されたモックアップなど、デザインから製品化までの過程がわかる貴重な資料も展示され、多くの注目を集めました。そしてこの展示は、ジンズ渋谷店の2階に移され、7月16日まで見ることができます。

グルチッチさんは数多の著名ブランドにて、家具を中心に多くのプロダクトをデザインしていますが、実は眼鏡のデザインは初めての試みだと言います。
「とても貴重な体験ができました。顔の上に載せる眼鏡は、家具と比べ身体との関係性がより深いプロダクトなので、私自身がより人間の身体へと親密に迫り、本当に深くまで入り込むという作業が必要でした」

また、顔の印象を決定づけ、人間性を決定する眼鏡というプロダクトならではの性質も、彼のクリエイティビティを刺激したようです。
「眼鏡は、その人がどう見せたいのかというアイデンティティを明確に定義し、人のイメージを左右するプロダクトです。そうした意味でも、これまでとは別次元の仕事であり、大きな責任を負っていることを自覚しました」

各モデルを展示するスタンドもグルチッチさんのデザインによるもの。スタンドは既に発表した作品ですが、眼鏡を固定するため窪みを設けるなど新たな工夫が施されています。
それぞれのモデルの上部には、デザイン画が掲げられています。この展示はジンズ渋谷店でも同様のディスプレイで展開されます。

そして彼にとって初めての取り組みとなった眼鏡のデザインで、8タイプすべてのモデルをラウンドスタイルとしたのは、なぜなのでしょうか。
「経験のない眼鏡のデザインを手がけるにあたり、原点に立ち返ることにしました。ラウンドという形は眼鏡のアーキタイプ(原型)であり、最も純粋でアノニマス(匿名的)な要素を内包すると同時に、強いステイトメント(表現力)を秘めた形です。たとえば、ル・コルビュジエやジョン・レノン、さらにはガンジーやスティーブ・ジョブズといった、歴史上の人物の多くがラウンドタイプの眼鏡を愛用するなど、アイコニックな要素でもあるのです。それらの理由から今回のプロジェクトで‶ラウンドの眼鏡をつくる”という、ひとつの芯となるルールを、このプロジェクトに設けることにしたのです」

原寸大にプリントした目の上に、さまざまなラウンド眼鏡を描いたスケッチ原画。普段、こうした原本を展示することはほとんどないと言います。
同様に展示された、3Dプリンターで出力された初期段階のモックアップ。デザインの後、立体化させることで細部をブラッシュアップし、製品としての精度を高めていきました。

なにより驚かされたのは8つものモデルが展開されたことです。しかし、そのルールが8つものデザインを生み出す足かせとはならなかったのでしょうか。
「実は、とても楽しく遊び心をもって取り組むことができました。ラウンドに統一することでより考察が深まり、ラウンドのあらゆる側面や可能性を探っていくことで、自然と8つのデザインに行き着くことができたのです」
なるほど、同じラウンドスタイルとはいえ、ラインアップされたモデルは、クラシックな趣をもつものにファッション性の高いモデル、さらには、スポーティなタイプなど、それぞれが個性を主張する多彩なバリエーションです。
「多くの方に似合うこともラウンドを選んだ大きな理由です。自然に、本来の自分を表現してくれる眼鏡を選び、日常的に使っていただければ嬉しいです」

こちらも展示されたテクニカル・ドローイング。「これをもとに、なにが可能でどこが不可能なのかを、ジンズのスタッフと詰めていったのです」と、彼は振り返ります。

さまざまキャラクターを彩る、ラウンドスタイル8種をすべて見せます。

「タイプ リンク」¥12,960(税込)。プラスティックフレームとメタルパーツが絶妙なバランスで‶LINK”する、知的な雰囲気を演出するモダンな一本。ブリッジとフレームのスマートな接続部同様に、丁番を智に内蔵することで統一感を演出し、しなやかなフィット感も生み出すことにも成功。ノーズパットにもフレームとの一体感を考慮し、丸形のパッドを採用しました。

「タイプ バイク」¥5,400(税込)。自転車のタイヤチューブを思わせる円筒フレームに、フロントの円を丸棒のブリッジでつないだ様子も、その名の通り自転車のように見える、軽やかでスポーティなモデル。日本人にフィットする高めの鼻盛りでありながら、スッキリと目立たない外観としブリッジが高い位置にあることで、鼻筋が長くスラッと見える嬉しい効果も。

「タイプ ニードル」¥12,960(税込)。チタンの1枚板から切り出された、丁番もないきわめてシンプルで軽量なモデル。βチタン特有のバネ性により、顔の形や大きさにかかわらず美しいテンプルラインを描いています。シンプルなデザインに干渉しないよう、ノーズパッドも小さな丸形を採用し、また、モダン先の角を取り丸く成形することで、ソフトな耳裏の当たりを実現しました。

「タイプ サファリ」¥8,640(税込)。軽快なフォルムとマットな質感が、まさしく乾いた大地にふさわしい雰囲気を表現している。カラーバリエーションも、写真のダークカーキのほかブラウンにグレーなど、サファリの世界観をイメージしたアースカラーで構成。また、テンプルカーブを日本人に合った角度に調整することで、ストレスのない自然なフィット感を提供している。

「タイプ プレッツェル」¥5,400(税込)。1本のプラスティック製チューブからつくられたようなソフトでオーガニックなスタイルは、名前の通りドイツの焼き菓子を思わせます。ビッグシェイプのフレームは強度数のレンズを入れた場合、厚みが目立ってしまうが、フレームに厚みがあることでレンズの存在感も抑えられる。自己を表現したい人にうってつけの一本です。

「タイプ  カートゥーン」¥5,400(税込)。フェルトペンで描かれたような均一の太さと輪郭で構成された、シンプルでいてどこかファニーな雰囲気をもつモデル。それもそのはず、その均一なラインやあえてフロントと重なるようにデザインされたブリッジ、そして、サイドに張り出したヨロイも、漫画やアニメの(カートゥーン)のスケッチ画をイメージしていると言います。

「タイプ  ブレース」¥8,640(税込)。古典的なメタルフレーム眼鏡をイメージしたモデル。当時は各パーツが別々に成形され組み合わされていたように、ブリッジとフレーム、フレームとテンプルをあえてつなぎ合わせたようなデザインで、古典へのオマージュが込められています。なお、陽光がフレームに当たった際にまぶしくないよう、内側にはマットコーティングが施されています。

「タイプ  インレイ」¥5,400(税込)。こちらも古典的な眼鏡の構造を再解釈した、クラシックな趣をもつモデル。パーツごとのつなぎ目という古のクラフツマンシップを、先進のプラスティック成形技術を用いて溝という洗練のデザインで表現した。クラシックなデザインに先進の技術が内包されています。

トークイベントでは、建築家の永山祐子さんと対談。

「8つすべてのデザインが製品化されるとは思わなかった」というグルチッチさんに対し、永山さんは「建築ではありえないので、うらましいですね。敷地はひとつなので」と、笑う。

さて、今回イベントのメインはグルチッチさんを招いたトークショー。ゲストに「LOUIS VUITTON 京都大丸店」や横尾忠則氏の美術館「豊島横尾館」などの建築をはじめ、過去にはJINSのサングラスデザインも手がけた気鋭の女性建築家、永山祐子さんを招き、眼鏡をはじめとするプロダクト・デザインと建築デザインの関係性をテーマにした対談が繰り広げられました。

今回のプロジェクトで永山さんの興味を引いたのは、グルチッチさんが最初にラウンドに統一するというルールを設けたことだと語ります。「そのルールが非常に面白いと思いました。絞り込むことで、逆に8種類もの広がりが生まれた。デザインのプロセスとして興味深く、とても魅力的ですよね」。

そしてフォトシューティングでは、ジンズ デザインプロジェクト第1弾のデザイナーを務めた、ジャスパー・モリソンさんもサプライズ登場。多くのフラッシュを浴びながらイベントに華を添え、盛り上がりのうちにイベントは幕を閉じました。

最後のフォトシューティング。左より、田中仁社長、永山祐子さん、コンスタンティン・グルチッチさん、ジャスパー・モリソンさん、対談で司会を務めたキュレーターの保坂健二朗さん。
サプライズで登場したジャスパー・モリソンさん(右)。世界を舞台に活躍するプロダクト・デザイン界のトップランナー同士が並ぶ光景に、多くのフラッシュが焚かれた。

今回発表された8つのモデルのうち4モデルは全国のジンズの店舗とオンラインショップで、ほか4モデルは一部の店舗とオンラインショップで購入可能です。さらにこのデザインに至るまでの過程は、ジンズ渋谷店2階のエキシビションで7月16日まで展示されます。ぜひ渋谷店で、デザインを神髄に触れてみてはいかがでしょうか。

ジンズ渋谷店

東京都渋谷区宇田川町31-1
TEL:03-3464-8070
営業時間:11時~21時(月~木、日、祝)
11時~22時(金、土)
※エキシビションはジンズ渋谷店2階にて、7/16まで開催中
https://designproject.jins.com/jp/ja/allround