シルバー素材のフレームがついに実現! 伝説の眼鏡デザイナー、ゲルノット・リンドナーが語る新ブランドの魅力とは。

  • 写真:宇田川 淳
  • 構成・文:高橋一史

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クラシックな眼鏡の世界において、尊敬を集めているデザイナーがゲルノット・リンドナーです。世界有数のヴィンテージコレクターでもある彼が、自身の名を冠した新ブランドを立ち上げました。お披露目のため来日したリンドナーが語った、モノづくりの裏側とは?

クラシックな眼鏡に精通するデザイナー、ゲルノット・リンドナー。

個性や差別化は、眼鏡ブランドにとって永遠のテーマです。顔の印象を決める重要なアクセサリーですから、奇抜なデザインが多くの人に好まれるとは限りません。誰をも魅了するオリジナリティを生み出すのは、困難を極める仕事なのです。この難問に果敢に挑戦したのが、オーストリア人のベテラン眼鏡デザイナー、ゲルノット・リンドナーです。2017年にスタートさせた、自身の名を冠した「ゲルノット・リンドナー」には、革新的ともいえる大きな特長があります。それは、「スターリングシルバー製のフレーム」であること。

素材に活路を見出し、ジュエリーに匹敵する価値を眼鏡に与えた新ブランドについて、来日したリンドナーに話を聞きました。彼が日本に持参した、博物館レベルのヴィテージ眼鏡も併せてご紹介します。

2年をかけて開発した、納得のシルバーフレーム

来日したリンドナー夫妻。「ゲルノット・リンドナー」の主な取扱い先となる「グローブ スペックス 渋谷」にて。
「ゲルノット・リンドナー」のメタルフレームはどれもスターリングシルバー製。ゴールドメッキなど、カラーバリエーションはさまざま。
ノーズパッドなしの代表的なデザインをかけてみせたリンドナー。

ゲルノット・リンドナーは、日本でもファンが多い「ルノア」の創業者です。博物館ですら一目置く、生粋のヴィンテージ眼鏡コレクターでもあります。特権階級しか所有できなかった高価なクラシック眼鏡には、高度な職人技による “味” があります。リンドナーは長年、そのエッセンスを自身がデザインする眼鏡に注入してきました。眼鏡愛が深いからこそ、実用の道具として機能させることにもこだわってきました。

新たにスタートさせた「ゲルノット・リンドナー」でも、彼が考える眼鏡の理想形が追求されています。最大の特長は、スターリングシルバー(銀の含有率が92.5%の金属)のフレームが使われていること。一般の眼鏡とは一線を画す風格があり、大人の愛用品にふさわしい仕上がりです。シルバーのフレーム自体は既に世に存在しますが、それらはリンドナーを満足させるクオリティではありませんでした。今回、納得のいく製品を生み出せたことについて、彼が語りました。

「開発に2年を費やした自信作です。シルバーという素材は金属の中でもやわらかく、バネ性や剛性に欠けるため、眼鏡に適していませんでした。独自の金属プレス加工を行うなどの工夫により、満足できるフレームをつくることに成功したので、私の名前のブランドとして発表することにしました。すべての部品は、ドイツのひとつの工場でつくられています。工場と一緒に、機械の開発から行いました。ただし、非常に苦労したので、製造方法の詳細は秘密にさせてください(笑)」

キャリアを積んだいま、シルバーフレームに着手した理由はなぜでしょうか。
「実は昔からやりたかったんです。でもいろんな事情があり、実現できなかった。ルノアを人に譲って時間ができたからこそ、開発に集中できました」

フレームのバネ性や剛性の確かさをアピールするリンドナー。

「ゲルノット・リンドナー」の豊富なバリエーション

上:パラジウムメッキされた「150」シリーズのオーバル型。「150」はアジア人仕様で、日本人の顔にフィットします。¥90,720(税込)、中:鼻パッドつきの「200」シリーズのスクエア型。ローズゴールドメッキ仕上げ。¥90,720(税込)、下:シルバーの色が際立つ、「150」シリーズのラウンド型。¥90,720(税込)
テンプルをスライドさせて短くできるギミックを活かした、小振りな大きさの木材メガネケース。¥9,720(税込)
アセテートフレームを組み合わせたラインアップ。上:「500」シリーズのボストン型。カラーはダークブルー。¥82,620(税込)、中:「600」シリーズのラウンド型。カラーは、マットダークハバナ。¥82,620(税込)、下:「500」シリーズのスクエア型。カラーは、マットブラック。¥82,620(税込)

「シルバーは比重でいえば重い金属ですが、極限まで削ぎ落とすことで軽量にしました。前よりも後ろ(耳部分)に重さがかかるようにバランスを工夫し、鼻に負担を掛けないようにしています」と、リンドナー。実際に手に持つと意外なほど軽く、かけ心地が良好なのは、さすがベテランデザイナーの仕事です。所有する満足に加え、毎日を快適に過ごせる喜びも得られるのです。さらに、いぶし銀として好きな人も多い、シルバー特有のエイジングによる黒い変色にも配慮されています。

「フレームにコーティングを施しているため、色が変わりにくくなっています。眼鏡の型ひとつにつき、シルバーの自然の色から、パラジウム、ゴールドなど8種類の仕上げがあり、自由に選んでいただけます。使い方にもよりますが、およそ3年くらいは黒くならないでしょう。その後にコーティングやメッキが落ちてくると、シルバーならではの経年変化がおきます。それがお好きでない方のために、ドイツにて再度コーティングするオプションも用意しています」

多くの型には、長さを調整できるスライド式のテンプルが採用されています。アクションを愉しめるギミックであり、さまざまな大きさの顔に対応し、コンパクトに収納することもできます。リンドナーは「ルノア」でもこのギミックを好んで使っていました。「ゲルノット・リンドナー」では、長さを固定したタイプや彫金付きのテンプルも選べます。眼鏡全体の大きさも、大小の異なるサイズが用意されています。同一の型でも、バリエーションが豊富なのです。

セルフレームタイプでは、サイドのテンプル、ノーズパッド、留め金がスターリングシルバー製。

約3000本にのぼる、ヴィンテージのコレクション

リンドナーが所有する、1760年ごろの鉄製のフレーム(中央やや左に重ねた2点)から、1970年代のドライビンググラス(右のイエローレンズ)まで年代モノのコレクション。
1880年頃の金素材の手持ち眼鏡。貴族がオペラ鑑賞するときなどに使われたもの。中央のブリッジを折り畳んでレンズ部分を重ね、内部に収納する仕組み。装飾品としての役割も兼ね備えた贅沢な品です。
手持ち眼鏡を使ってみせる、愛嬌たっぷりのリンドナー。

最後に、リンドナーが個人所有するクラシック眼鏡とともに、彼の経歴を振り返ってみましょう。貴重なコレクションからは、彼のデザイン発想の源泉も伺えます。

取材の時、リンドナーは珍しい眼鏡でも日用品のごとく気軽に扱い、スタッフにも積極的にかけさせてくれました。彼にとってこれらは、生活の一部としてごく身近な存在なのです。ここに登場するのは、主に18世紀から20世紀初頭のものです。

「一点一点に複雑なギミックや繊細な彫刻が施されているのが魅力です。私は現在、約3000本ほどのビンテージを持っています。コレクションを始めたのは1952年の14歳のとき。母から贈られた一本の眼鏡がきっかけでした」

本国オーストリアの眼鏡技術大学を卒業し、ドイツで眼鏡のマイスター資格も得た彼が「ルノア」を立ち上げたのは90年のこと。ネオクラシックなデザインは世界中で評判となり、「アップル」の故スティーブ・ジョブズが愛用したことでも名が知れわたりました。多忙を極めた彼は、近年になりルノアを手放し、いったんは引退を考えました。しかし念願だった新しいフレームの開発を進め、76歳にして新たなブランドをスタート。こうして誕生したのが、「ゲルノット・リンドナー」です。使い続ければ「自分ビンテージ」になる、デニムのように育てがいのある品。毎日愛用する必需品だからこそ、リンドナーの深い知見が信頼の証になるでしょう。

年代不詳の、フィンチと呼ばれる鼻眼鏡。テンプルがなく、鼻に挟んで使われました。19世紀から20世紀初頭にポピュラーだった型です。これはフランス製で、ケースはベルギーのブリュッセルの眼鏡店のもの。

問い合わせ先/グローブスペックス エージェント
TEL:03-5459-8326
www.globespecs.co.jp