春の軽快な靴──いま、選ぶべきスリッポンは?(後編)

  • 写真:尾鷲陽介
  • 文:小暮昌弘

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ドレスにもカジュアルにも履け、しかも足元を目立たたせることができる、ドレスローファーの特集です。

タッセルローファーの元祖、「オールデン」

「タッセルローファー」は、実はアメリカの名靴として名高い「オールデン」がデザインしました。アカデミー賞を授賞したこともある俳優ポール・ルーカスが、ハリウッドのふたつの靴店にこの靴をオーダーしたのが始まりです。偶然にもその2店が靴の生産を依頼したのが1884年にマサチューセッツで創業された老舗シューメーカーであるオールデンだったのです。オールデンは見事に彼の要望を満たす靴をデザインし、その後、この靴を老舗「ブルックス ブラザーズ」が自社の靴としてラインナップしたことで有名になりました。ルーカスが靴をオーダーしたのは、第二次世界大戦後のことで、タッセルローファーは靴としては比較的新しいデザインともいえます。このオールデンの靴のアッパーに使われている革は、「シェルコードバン」という希少な馬革で、一頭の馬から多くても2足しか作れません。革はシカゴの名タンナー、ホーウィン社のもので、昔から優先的にオールデンに提供されています。「アバディーン」という細身の木型が使われ、アッパーのモカ縫いにクラフツマンシップが香ります。グッドイヤーウエルト製法ですので、ソールの張り替えも利きますし、まさに一生モノといえるタッセルローファーの元祖です。
ポール・ルーカスは、稀代の伊達男、ウィンザー公が履いていた靴を見て、この靴を注文したという説もあります。
レザーソールの中央には「HORWEEN GENUINE SHELL CORDOVAN」の刻印が入っています。履くほどに足に馴染み、磨くほどに光り輝く革です。

タッセルローファー¥110,250/オールデン

問い合わせ先/ラコタTEL:03-3545-3322

英米のセンスがコラボした「クロケット&ジョーンズ」の美靴

1879年、ドレスシューズの本場、英国のノーザンプトンで創業された老舗が「クロケット&ジョーンズ」です。伝統的な靴づくりの手法を守り続けており、一足の靴を仕上げるのに職人が8週間もかけて、まるで工芸品のような靴をつくり上げます。このタッセルローファーは、「GURNSEY(ガンジー)」という細身の木型を採用したモデルで「バーニーズ ニューヨーク」のエクスクルーシブカラーの一足。スエードのアッパーで、タッセルやパイピング部分に表革を配してコンビネーションにしたもので、他には販売されていない美しいタッセルローファーです。モカステッチも白で、これも特徴的なディテールといえます。シャープさが際立つフォルムで、細身のパンツのアクセントに打ってつけのスリッポンといえます。ブラウンの色もいわゆる“金茶”といわれる明るめのもので、春夏のスエード靴としては最高の色といえます。他にもスエードのオリーブグリーンなども揃っています。
スエードのアッパーに表革のタッセルの組み合わせは、バーニーズ ニューヨーク・エクスクルーシブのもの。白のステッチも清潔感を感じさせます。
英国靴の聖地、ノーザンプトンを代表するシューズメーカーとして知られるクロケット&ジョーンズ。自社ブランド以外にも、多くのトラッドブランドが靴の生産を依頼し、世界的にも知られる老舗です。

タッセルローファー¥66,150/クロケット&ジョーンズ

問い合わせ先/バーニーズ ニューヨーク カスタマーセンター TEL:0120-137-007

伊アルティジャーノの精神が宿る「エンツォ ボナフェ」

「エンツォ ボナフェ」は、1963年に創業されたイタリア・ボローニャのシューズブランドです。創業者はブランド名にもなっているエンツォ・ボナフェ。イタリア靴の名門である「ア テストーニ」などでキャリアを積んだ靴職人(アルティジャーノ)で、ハンドソーンウエルト製法など、靴に対する卓越したテクニックで定評あるブランドといえます。1986年には、イタリア文化に寄与したことでイタリア大統領から表彰されました。この「アンジェリコ」という靴は「ビームス」のエクスクルーシブモデルで、スエードと表革をコンビにした個性的なデザイン。ハンドソーンウエルト製法とマッケイ製法を組み合わせた非常に凝った製法を採用したアルティジャーノらしい靴で、トウがややスクエア気味になった、いかにもこのブランドらしいデザインです。アッパーのモカ色の革は撥水加工されたカーフスエードが使われています。ビームスでは木型から別注し、日本人の足形に合うように踵を小さくした木型を採用しているので、履きやすさも抜群です。
イタリア靴らしいトウのデザインが特徴的です。撥水加工されたスエードのアッパーに付いた表革のタッセルの組み合わせも洒落ています。
エンツォ ボナフェの靴はインソールに一足一足、手書きでブランド名などが書かれているのが特色です。職人靴の暖かみとこだわりが香ります。

タッセルローファー¥101,850/エンツォ ボナフェ

問い合わせ先/ビームスF TEL:03-3470-3946

モード靴の重鎮「マックス ヴェッレ」がつくった、キルト靴

「マックス ヴェッレ」は2001年に立ち上げられた比較的新しいシューズブランドですが、デザイナーのマックス・ヴェッレはイタリアのシューズ業界で知らぬ人がいないほどの有名な人物。「プレミアータ」などのブランドを手掛け、イタリアのシューズトレンドを常にリードし、現在は「トム フォード」などのシューズデザインも手掛けています。クリエーション豊かなデザインとセクシーなテイストが、このブランドの特徴といえます。この靴はタッセルの代わりに、アッパーにクラシックなキルトとストラップを付けたモデルで、色もオフホワイトとブラックをコンビにした個性派。しかもオフホワイトはわざとアンティーク風に加工、トウ部分が短めで、履き口が大きく開いたフォルムは、サイズダウンすれば女性用とも思えるエレガントなデザインが特徴です。トウとサイドに並んだメダリオン(穴飾り)はクラシックなディテールですが、全体から見ると、かなりモダンなテイストに仕上がっているのも同ブランドならでは。エッジィなスリッポンをお探しの方にぜひお薦めしたい靴です。
メダリオンやキルトなど、英国的なディテールをよりエレガントに見せるデザインに、マックスヴェッレらしいセンスを感じさせます。
アンティーク加工を施した独得のオフホワイト。それでも古びて見えないどころか、モダンに見えるのが、トレンドを牽引するブランドの凄さでしょう。

キルトスリッポン¥115,500/マックスヴェッレ

問い合わせ先/ユナイテッドアローズ 六本木 メンズストア TEL:03-5772-5501