知名度がグングンと上昇中の新定番服、「オーラリー」の実力に迫った。

  • 写真:江森康之
  • 構成・文:高橋一史

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語れる服 Vol.14 : ショップバイヤーらのプロにも愛用者が多い新鋭ブランドの2016年秋冬コレクションを、デザインする岩井良太さんに解説していただきました。

「オーラリー」デザイナー、岩井良太さん。

さらっと袖を通せる日常着で、上品で洒落て見える服。時代のトレンドに寄り添いながらも、決して浮ついた印象のない服。そんなファッションが大人の新定番ワードローブとして広がりを見せています。ブランド名を例に挙げると、ニュートラルな色彩とヴィンテージ感覚のある「ヤエカ」、どこか和風でストイックな「コモリ」などが該当するでしょう。日本で暮らすデザイナーが手がける、西洋人とは異なる自分たちの精神性に合う服が求められているのです。

2016-17年秋冬で、デビューからまだ4シーズン目となる「AURALEE(オーラリー)」も、この系譜に即したブランド。大きな特長は、ラグジュアリーともいえる高級布地で仕立てられていること。さらに、リラックスした着心地の中にも、シャープな緊張感とモードの旬なエッセンスが感じられることです。この、優しくもありクールでもある独自のテイストの虜になったのは、「ユナイテッドアローズ」「シップス」「エディフィス」「ビショップ」「ブルーム&ブランチ」などの有力なセレクトショップ。オーラリーはあらゆる店を席巻する勢いで快進撃を続けています。

今回、Pen Onlineイチ押しの秋冬アイテムを、デザイナーの岩井良太さんに解説していただきました。既に持っている人も、これから入手する予定の人も、一読の価値アリです!

ミリタリーが品良くスタイリッシュに。

ベビーキャメルのジャケット。 ¥58,320

岩井さんにまず解説していただいたのは、70年代調のサファリジャケットをアレンジさせたアウター。
ディテールは、軍モノのM65にも通じる男性的なものですが、手に取ったとき、実際に着たとき、そのソフトな風合いに驚かされる一着です。本体布地は、とろけるようになめらかなベビーキャメルヘアを100%使用。染色を加えず、キャメル本来の色を活かした布地です。岩井さんによると、
「生後5カ月までのラクダの毛の原料が手に入ったんです。これを布にして活かすならなにがいいか考えて、この服にしました」
最初に素材を探すことから始めて、同時進行で仕立てる服を思い描いていくのが彼のデザイン手法です。このアウターは光沢があり、表面起毛の効果もあってかなりドレッシーなムード。デニムやチノパンの上にさらっと羽織って、どうぞ大人の着こなしを。

ジャケットと同素材のイージーパンツ。 ¥42,120

ジャケットとセットアップコーデもできるイージーパンツも優れもの。スウェットパンツの気楽さと、どこにでも穿いていけるエレガントさが巧みに融合しています。
「実はウエストのドローコードも、化繊でなくウールなんです」
と、岩井さん。ウールにすることで、上質な風合いの演出はもちろん、紐を縛ったときに緩みにくいメリットもあります。着て生活する上での機能性が考えられている点も、オーラリーが服好きの人に支持される理由のひとつでしょう。

フライトパーカ。 ¥74,520、ワイドパンツ。 ¥41,040
サイドの縫い目が後ろに寄っているため、横から見た印象がすっきり。ポケットに手が入れやすい特長も。

これらも一見すると固そうに見えて、実はとてもしなやかで身体に馴染む服です。「スーパー130's」という、テーラードスーツに採用する高級な、細くやわらかい糸で織られた二重織りメルトンをたっぷりと使用。2枚の布を重ね合わせた構造であり、表も裏も質感が同じ。二重ですから冷たい外気を通しにくく、保温性もばっちりです。ただし、布分量を単純計算すると、通常の服の約2倍ですから、そのぶん高価になります。なお「メルトン」とは、ピーコートやダッフルコートによく用いられる、ワークウエアになる丈夫さのある布地のことです。
ジャケットはボックスシルエットで、オーバーサイズな仕立て。ダボッとゆったりとさせる着方が想定されています。パンツも腰回りはすっきりとしながら、裾に向かって豊かな布の流れが出るワイドシルエット。タック入りのパンツは近頃のマストアイテムといえるでしょう。オーラリーは、サイズ感のバランスがデザインの大きなカギになっています。さりげなく時代性を込めるのが岩井さん流の服づくりスタイル。デザイン哲学や現代の男のお洒落についてのお話は、次ページと最終ページにて。

今季マストの茶系アイテム

ベルト付きコート。 ¥91,800、ブルゾン。 ¥84,240

メルトンのなめらかな風合いと、ブラウンの色の深みが際立つアウター2着も、手に入れれば毎日着てしまうこと間違いなしの逸品。これも二重織りの布地で、カジュアルさもあり肌に馴染みますから、つい袖を通してしまう魅力があります。デイリーウエアとして、ワードローブに揃えておきたい服です。

ブルゾンの襟の美しさには製造の秘密が。
スーパー100'sのカシミアタッチのやわらかい布を、職人が手まつりで縫った軽量ブルゾン。

各ショップバイヤーにも評価が高かったブルゾンは、製造の仕方にも工夫あり。シャープな印象を出すために襟の内部に芯を貼り、さらに縫い代を職人が手でまつって縫い合わせています。襟がきれいに立ち上がりつつ、本体と一体化してスムーズな見た目になりました。本体も手仕事による縫製です。ブルゾンなのにテーラードジャケットのごとき手間が掛けられているのです。「カジュアル」「フォーマル」といった区別をせずに、どのアイテムにも全力を注ぐのが岩井さんの流儀です。
「男性のワードローブは、Tシャツ、ジーンズ、コートなどに分かれますが、僕はどれも同じ価値観で見るし、同じ価値観でつくっています。価格の高い安いも関係ありません」
服装のカジュアル化が進行した現代では、「Tシャツはラフでいい」といった従来の服の捉え方を見直す必要があるのかもしれません。モダンな大人の装いには、新しい概念が必須なのです。

高級ニットと見間違うほど、超薄手のスウェットシャツ。 ¥18,360

スウェット素材とは思えないほどの光沢感と、ぬめっとしたなめらかさのあるプルオーバーも、カジュアルとドレスの境界線を曖昧にする服。専門的な言い方だと、「超長綿のスーピマコットンを高密度に編み、起毛加工したクラシックなリバースウィーブ型スウェットシャツ」です。着た時の気分はスポーティなプルオーバーというより、高級セーターに近い感覚。コットン100%でタフな仕立てですから、気負わず気軽に着られます。

マニアック、されどお洒落。

極太のシルク糸で織り上げたムラ布地は……。
極太シルエットのデニム風パンツに! ¥35,640

糸から素材にこだわるファッションデザイナーの中には、細部にのめり込むあまりに、  “お洒落さ” や “カッコよさ” とは別のベクトルの服づくりに向かう人が多くいます。マニアックな追求心に満ちた岩井さんが、ヨーロッパのモードと棚を並べても違和感のない服を実現させているのは特筆すべき点です。上写真のシルク糸のパンツも、誰もがスタイリッシュと感じる旬のアイテム。デニムに近い色目で、白く浮き上がったムラの風合いもデニム風。ワイドパンツに挑戦するなら、身近で最適な一本ではないでしょうか。しかもインディゴ染色ではないので色落ちが少ないメリットもあります。保温性が高い繊維のシルクは、コットンのデニムにはない肌馴染みのよさも味わえます。

ゆったりと着る太いバルキーなウールのセーター。 右 ¥38,880、左 ¥39,960
究極の固さを目指したスウェットパンツ。風を通さず、膝も抜けにくく冬にぴったり。 ¥25,920

デリケートな中間調のトーンを多用する色合いの素晴らしさも、オーラリーと他ブランドとの違いを浮き彫りにする大きな優位点です。上写真のニットもスウェットパンツも、男心をくすぐるモノづくりがありながら、着ると穏やかなイメージが出現します。こうした多面性こそが、オーラリーがファッションのプロを中心に大きな支持を集める理由のひとつといえます。では、岩井さんが考える男の装いとはどのようなものでしょうか?

「他人が決めたルールではない、自分の価値観で着ている人がいいですね。古着でもモードでも、自由に組み合わせて着ることを楽しめるかどうか。アイテム選びでは、いまだとサイズ感が重要だと考えています。たとえばこれまでMサイズを選んでいた人なら、Lサイズに変えてみるだけでも新しい着こなしができます。同じベーシックでも違いを出せるんですね。オーラリーでも、形とサイズ感はすごく考えてあります。色に関しては、今季秋冬はアースカラーや茶系が多いです。最近までメンズではネイビーとベージュが主流でしたから、その反動の気分を反映させています」

オーラリーは “旬” のデザインであり、さらに長く着続けられる服でもあります。残念ながら直営店はなく、取り扱いショップでも人気が高いためすぐに売り切れることが多いですが、ご紹介した中で気に入ったアイテムがあったなら、ぜひお早めに探して袖を通してみてください。きっと、内包する奥深い魅力に気づくことでしょう。(高橋一史)

問い合わせ先/CLIP CLOP TEL:03-5793-8588

auralee.jp/

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