いまが旬の“90年代スタイル”が手に入る店はここ! 気鋭のファッションデザイナー二人が、青春時代をプレイバック

  • 写真:杉田裕一、野口佳那子
  • 構成・文:高橋一史

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ファッションの世界ではいま、多くのブランドが1990年代テイストを取り入れています。そんな90年代を追体験できるスポットを探すべく、次世代ファッションをリードする「アンリアレイジ」の森永邦彦さん、「ダブレット」の井野将之さんが、当時のファッションシーンを振り返りました。

新しいファッションに夢中だった頃を語り合う、森永邦彦さん(写真左)と、井野将之さん。

インターネットが普及し始めた90年代は、新しいファッションが次々と生まれてきた時代です。サブカルチャー好きの若者は、雑誌を読みあさり、個性的な服装でファッションタウンに集まりました。この頃の先端シーンにどっぷりと浸かった人たちが、いまや30〜40歳代の年齢となり、クリエイティブの第一線で活躍しています。ファッション周辺において90年代がリバイバルしている現象は、この時代への郷愁と無関係ではないでしょう。
パリコレに参加するモードなブランド「アンリアレイジ」の森永邦彦さんと、勢いに乗るストリート感覚の「ダブレット」の井野将之さんも、ともに90年代に学生時代を過ごした者同士。旧知の仲の二人が、影響を受けてきた当時のファッションを振り返りました。そのエピソードともリンクする90年代スポットと合わせてご紹介します。

90年代は、デザイナーズの時代。

自身が所有する大量の雑誌で、当時の記憶をたどる森永さん。
森永さんは、古書店を巡って過去に出版された雑誌を購入しています。

井野 僕らにとっての90年代は、中期から後期。僕はちょうど、高校からファッション専門学校(モード学園)に通ってた頃。森永さんは大学に行ってたんだよね。

森永 そうですね。高校生の時に衝撃を受けた「ケイスケカンダ」の神田恵介さんと同じ大学に行くことを決め、早稲田大学に通った頃です。

井野 90年代を総括すると、「デザイナーズの時代」というイメージがある。僕の場合はもともと古着が好きで、そのあと日本のデザイナーズが好きになり、また古着に戻り、パンクスになったり、スケートボードのブームに乗ったり。ファッションのカルチャーは好きでも、写真やアート系にはあまり興味をもたず、日本の枠組みの中にいた感じ。“オシャレ” な人間じゃなかったんだよね。

森永 僕はまず日本ブランドを好きになり、「マルタン マルジェラ」などの海外モードに関心をもつようになりました。フォトグラファーのマーク・ボスウィックのファッション写真を「ヤバい!」と思う方向に向かっていました。

井野 世界のモードでは、ミニマリズムの流れも影響力があったね。デザイナーでは、マルジェラが洋服をカビさせたり。

森永 フセイン・チャラヤンが、服を土に埋めたりも。90年代半ばで印象的だったのは、「コム デ ギャルソン」の青山店。こぶドレス(1997年春夏コレクション)が発表された時の店内に、すごく大きな花がディスプレイされていたことを覚えています。


1. 価値のあるデザイナーズを扱う、渋谷の「ライラ・トウキョウ」

「マルタン マルジェラ」の98年「フラット・ガーメント・コレクション」のジャケット。¥626,400(税込)。
マルタン マルジェラをはじめ、「ワイズフォーメン」などもラインアップ。
店内はアートギャラリーのような白く明るい空間。

色彩が豊かで装飾的なパーティウエアが目立った80年代を経た90年代は、ファッションとアートが結びついた時代です。世界各地で実力のあるデザイナーが出現し、個性を競い合うようにクリエイティブな服を送り出していきました。

「ライラ・トウキョウ」は、価値あるデザイナーズのビンテージを独自の観点で再編集して販売するコンセプトショップ。「マルタン マルジェラ」、「ヘルムート ラング」、「ラフ シモンズ」といった90年代に大活躍したデザイナーのアーカイブコレクションが、当時の創造性をいまに伝えています。

東京都渋谷区渋谷1-5-11
TEL:03-6427-6325
営業時間:12時~20時
無休
http://laila-tokio.com


2. ファッション写真集を揃えた古書店、渋谷の「東塔堂」

「6+ アントワープ・ファッション」より。「ラフ シモンズ」のファッションビジュアル。
2009年に「東京オペラシティアートギャラリー」で開催された、「6+ アントワープ・ファッション」の展覧会カタログ。¥21,600(税込)
店内ではアート展覧会も開催。場所は、渋谷駅より徒歩6分、代官山駅より徒歩15分。

アートとファッションが相互に作用し合った90年代は、多くの人がファッション写真に興味をもつようになり、また写真に大きな影響力があった時代でもあります。マーク・ボスウィック、スティーブン・マイゼル、ユルゲン・テラー、エレン・フォン・アンワース、デヴィッド・シムズ、グレン・ルックフォードなど、現在も話題を集めるフォトグラファーは、この時期にシーンに躍り出てきました。

美術書の古書店「東塔堂」では、写真家の作品集、ファッションブランドのカタログ、雑誌に至るまで、優れたビジュアルの本が数多く取り揃えられています。現在人気が高い90年代の本は、入荷してすぐに売り切れることも。

東京都渋谷区鶯谷町5-7 第2ヴィラ青山1F
TEL:03-3770-7387
営業:12時~20時
定休日:日曜

http://totodo.jp

日本ブランドに夢中になった、あの頃。

森永さん所有の90年代ファッション誌を開く井野さん。
井野さんが興味深く見ているのは、「20471120」を大特集した、98年の『装苑』。「これ、一生読んでられるかもしれない (笑)」。

井野 森永さんは最初からギャルソン(コム デ ギャルソン)が好きだった?

森永 いえ、ギャルソンの店に行くようになる前に、「20471120」とか、「ビューティビースト」とかをよく見に行ってました。

井野 20471120は、僕もよく店に行ったよ。ヘリポートでやったショーも見に行ったし。チケットぴあでチケットを販売してたんだよね。ショーを見るのに有料でチケットを買ってた。ファッションに対する熱気がハンパない時代だったから。学生の自己アピールの場は、原宿だった。「お洒落でしょ」と服装を人に見せ、服が一種のコミュニケーションツールになってた。雑誌の「フルーツ」にスナップされるために、「見せるためのファッション」を着て。僕も当時は「ラフォーレ原宿」の前でたむろしてたよ。とりあえずラフォーレに行けば知り合いに会えた。

森永 まだ歩行者天国がありましたもんね。

井野 あった、あった! 日曜日はあそこに行ったねー。

森永 ショップ「ノーウェア」で即完してしまう、「アンダーカバー」のTシャツを転売する人もいました。店のすぐ裏のストリートで3、4倍の値段で売られていて、それでも欲しい人がいた時代です。その状況を、「ファッションを超えたカルチャー」だと感じていました。


3. 古書店街のファッション誌専門店、神保町の「マグニフ」

最寄り駅は、神保町。イエローのポップな外観が目印。
『フルーツ』、『キューティ』、『スマート』、『ブーン』といった、当時の人気雑誌がずらり。裏原宿ブームの解説本なども見つかります。
誰もがカルチャーを追い求めた90年代のバイブル、『スタジオ ボイス』。

ファッション誌、サブカルチャー誌が次々に生まれ、皆がこぞって読んでいた90年代。ネット情報が一般化する以前に勢いがあったのは、雑誌メディアでした。ファッション、アート、ライフスタイルの新しい結びつきを人々に伝え、流行を大きく広めたのも雑誌の役割でした。

「マグニフ」は、消費されてきたファッション雑誌にスポットを当てた、珍しい古書店です。カルチャーの目線において、その時代の様子が映し出された貴重なアーカイブに出合えます。買い取りを行っているため、客の持ち込み大歓迎です。

東京都千代田区神田神保町1-17
TEL:03-5280-5911
営業時間:11時~19時
不定休
www.magnif.jp

サブカルチャー、古着も見逃せない。

二人が履くスニーカーは、自身がデザインしたもの。右が井野さん、左が森永さん。

井野 ファッション専門学校の1年生の時は、夏休みはただ何もせずに原宿に行ってた。でも休み明けくらいからカルチャー寄りの志向になり、あまりデザイナーズ系の服を買わなくなってた。お金がなくなり、もってる服を売って生活費にして。それで古着ばかり買うようになると、「バンドをやろう!」ってなってくる。「雰囲気で勝負」みたいな。

森永 井野さんはバンドやってたんですか?

井野 ライブとかやらずにスタジオに集まるだけだったけど。そんな時、「いちばんカッコいいのはシド・ヴィシャス(パンクバンド『セックス・ピストルズ』のベーシスト)だよね」って話に必ずなってた。90年代は、70年代パンクが戻ってきた時代でもある。身近なところだと、安室ちゃん(安室奈美恵)が全盛で、あとテレビドラマで脚本家、野島伸司の3部作ね。ドラマが、テレビが面白かった時代でもあった。

森永 確かにそうですね。

井野 漫画は、「少年ジャンプ」の黄金時代。ドラゴンボールがあって、スラムダンクがあって、ジョジョがあって……。キャプテン翼もぎりぎり入ってた。90〜95年くらいの期間は、サブカルチャーがすごく強かったと思う。95年に甲本ヒロトが「ハイロウズ」をやってくれて音楽も盛り上がったし。


4. 90年代の古着に強い、高円寺の「リオール」

壁一面と下のラックはすべて、「ポロ ラルフローレン」の古着。高円寺の古着シーンでは、ヒップホップ感覚のある90年代のアメリカブランドが現在大人気です。
懐かしさに思わず笑顔になる、98年製の映画Tシャツ。残念ながら現在はソールドアウト。
井野さんがこの店で最近購入した、92年バルセロナオリンピックのアメリカバレーボールチームのユニフォームブルゾン。
高円寺駅南口の、古着店が多く並ぶエリアにあります。

“ストリートスタイル” という言葉が定着した90年代は、音楽カルチャーとリンクする「ストリートの時代」ともいえます。この頃の服がいま、若者が集う高円寺の古着店でもブレイクしています。特に人気が高いのが、当時のヒップホッパーが着ていたアメリカのスポーツ系アイテム。

「リオール(Re'all)」は、井野さんがお気に入りの古着店。2010年のスタート時期から90年代アイテムを扱っており、現在は約7割がこの時代のものです。アメリカのヴィンテージアイテムから、日本のデザイナーズまでを取り扱う、幅広い品揃えです。

東京都杉並区高円寺南4-29-13 大雅堂マンション1F
TEL:03-6454-6802
営業時間:13時~21時
不定休
http://reall-koenji.com

90年代はいまどこに?

約10年来の親交のある二人。テイストは違いながらも、学生時代に見てきたものには多くの共通点が。

井野 デザイナーズでは、アントワープの「W.&L.T.」も面白かったね。

森永 そうですね。 青山にあった「アドバンストチキュー」で取り扱われてました。当時僕がバイトしてた、原宿の「ストンジー」というブランド古着店でもよく目にしました。初期のヴィヴィアン・ウエストウッドがデザインしてた「ワールズエンド」、「セディショナリーズ」などのレアものばかりを扱う店でした。「ズリーベット」、「マーク ルビアン」なども置かれていて。そこの服を着てビラ配りするから、派手な格好してましたよ。

井野 へえ〜、知る人ぞ知るだね。その店はいまもあるの?

森永 いまは、定食屋さんになってますね。

井野 あの頃からまだ原宿に残っている店といえば……厚底シューズの「トーキョーボッパー」かな。あと、表参道の「クリストファー ネメス」もそう。いつ行ってもネメスのままだ。

森永 そうですね! 僕もネメスはよく行ってました。

井野 あの頃と同じものがまだ売ってるから嬉しくなる。膝がつぎはぎになったデニムとか。自分たちが通ってきた服が現在では、ヴィンテージコレクションとして扱われるようになってきた。“アーカイブ” なんて言葉は当時はなかったよ。いまの若い子たちはもう、2000年以降のミレニアル世代だからね。


5. 当時のままが残る、代官山の「A.P.C. DAIKANYAMA HOMME」

中綿入りのコーチジャケット。コーチジャケットは、90年代の代表的なワードローブです。¥42,120(税込)
90年初頭に誕生し、ミニマルデザインの先駆けになったデニムが昨年復刻され、今季秋冬より定番としてラインアップ。¥21,600(税込)
中央の入り口を挟んで左右に分かれたショップ。正面左側の棟が、90年代当時のままのつくり。

裏原宿が社会現象になる前の90年代初頭から、代官山は先端感覚のある街として高感度な人に愛されてきました。70年代から続く「ハリウッド ランチ  マーケット」などの温もりのある路面店と、海外からやってきた新鋭デザイナーズの店が共存した街です。98年に「シュプリーム」が、2000年に「サイラス&マリア」が店を構え、スケートボードカルチャーの拠点にもなりました。

「A.P.C. DAIKANYAMA HOMME」の誕生は92年。フランスでブランドが設立された5年後です。ワークやミリタリーを都会的な日常着にした90年代のテイストが、いまでも色濃く残る店構えと品揃えです。

東京都渋谷区猿楽町25-2
TEL:03-3496-7570
営業時間:11時~20時
無休 
www.apcjp.com


PROFILE

森永邦彦 Kunihiko Morinaga

1980年、東京都生まれ。早稲田大学、バンタンデザイン研究所卒業。2003年、「アンリアレイジ」を設立。06年、東京コレクションに初参加。11年、「毎日ファッション大賞」の新人賞・資生堂奨励賞を受賞。14年、パリに発表の舞台を移す。16年、「ANREALAGE AOYAMA」をオープン。紫外線で色が変わる服など、コンセプチュアルで近未来的なモードを作風とする。「SONY」など大手企業とのコラボレートも積極的に行い、ファッションの楽しさを多くの人に伝えようとする姿勢も評価が高い。


井野将之 Masayuki Ino

1979年、群馬県生まれ。東京モード学園卒業後、アパレル勤務を経て2012年、「ダブレット」を設立。親しみやすいユーモアと、凝った技法の服づくりとを融合させた作風で、ファッション関係者をはじめ幅広い層の支持を集める。取扱店は、「ドーバー ストリート マーケット」(銀座、ロンドンetc.)、「ミッドウエスト」、「WISM」など。2018年6月、世界各国の若手ファッションデザイナーの育成・支援を目的とした「LVMH プライズ」の第5回において、日本人初のグランプリに輝き、賞金額30万ユーロ(約3,900万円)を獲得。そのストリート感覚の作風が世界中に知れ渡った。