陶芸作家、内田鋼一の400点を猿楽町で愛でる。(後編)

  • 写真:江森康之
  • 文:佐藤千紗

Share:

現在、代官山ヒルサイドテラスで内田鋼一展が開催中です。ユニークな作品が生まれるアトリエの様子と、展覧会の会場をレポート。

古いものが集合した無国籍なアトリエ

元プレス工場という6基もの窯がある広い工房。
時代も国もさまざまな、シンプルな古いものが並ぶ。
工業地域として知られる三重県四日市にある内田さんの工房は、元プレス工場を改装したもの。大型作品やさまざまな種類の作品を焼くために、大小複数の窯を置く広いスペースが欲しかったと言う、内田さんらしいものづくりの現場です。工房には、ゲストを招き入れる応接間のような部屋があります。土壁に板の間のその部屋は、アジアやアフリカの民家にもつながるような無国籍でプリミティブな空間。そこには、内田さんが世界各地を旅して集めてきた、土器や金属の古いものが設えられています。
アトリエで気さくに話をする内田鋼一さん。
内田さんは古いものの魅力を次のように語ります。
「古いから集めているのではなく、やはり素材や質感に惹かれる。長く残ってきたものには素材の強さや道具としての耐久力など、残っている理由がある。そうやって時間がつくったものを僕らはどうしてもつくり出せない。けれど、現代のものと古いものとを並べて比べると、やはり古いものにふらふらと引き寄せられる。そういう傾向は昔からあって、好きなものは変わらない。中学からの友だちは、昔部屋にあったものとほとんどテイスト的には変わらないって言いますね。当時はバイクやボルトやナットだったけど、いまは弥生土器や高麗茶碗。国籍も時代も関係ない」

やきものをやっているからこそ、社会とつながっていられる。

コレクションの中には、弥生土器も。
金属の錆びたテクスチャーが美しい。
青銅器の小動物。
古さからも骨董的価値からも離れて、自身の感性のみで選ばれたものには、統一感があります。まるみや繊細なラインを描くかたちの美しいもの。実用的につくられた、飾りがなく、素朴で、無名のもの。錆びた表情の青銅器やしっとりとやわらかな肌の陶器。たくさんのモノの中にあれば、目立たず見過ごしてしまいそうな地味なものが、場所を得て、静かな輝きを放ちます。
それら古いもののエッセンスは、内田さんのつくるやきものに受け継がれていることに気づきます。素材の豊かな表情もありますが、そばに持っていたくなる、じっと眺めていたくなる深みといいましょうか。うつわの表面のひびや石はぜ、刷毛目跡などを見るともなく見ていると、なぐさめられる。思いがめぐる。実用性がありながら、古いものがもっているような、ものとしての独立した存在感があるのです。
白磁のうつわも、多くコレクションしている。
ろくろがある別棟の工房。
内田さんのやきものに対する思い入れは強い。
「昔はろくろの賃挽き職人をしていたので、他の人より早くたくさんつくる自信がある。ろくろを回せればどこでも生きていけるという気持ちでいる。逆につくれなくなったら怖い。僕はやきものをしているから社会と関わりをもてた。これがなかったら何をしていたかわからない。そういう意味で、やきものにしがみつくという意志が他の人より強いんだろうな」
ものづくりへの純粋な欲求と覚悟。世界各地の技術と歴史という、やきものの空間軸と時間軸を吸収しながら、内田さんはハイスピードで作品をつくり続けているのです。

幅広い交流で深化する現代陶芸

自然光が差し込む小部屋には、加彩シリーズのボウルなど、定番の食器がディスプレイ。
“猿楽茶碗”のバリエーション。ゆったりとしたやわらかなフォルムにさまざまな技法が施された。
さて、現在開催中の展覧会会場の様子も少しお見せしましょう。Gallery ON THE HILLの白いモダンな会場の2部屋に分かれ、展示は構成されています。中でも注目は、今回のためにギャラリーの所在地である渋谷・猿楽町の土でつくった“猿楽茶碗”。焼き締め、刷毛目、粉引、灰釉など、さまざまな技法のバリエーションが見られます。やわらかなフォルムに伸びやかに装飾が施された茶碗は、大らかな魅力に溢れ、見飽きることがありません。
千宗屋氏によるお点前の様子。その後は、和やかなトークショーとなった。
千宗屋氏によるお点前に用いられた茶道具。この“猿楽茶碗”は釉薬にも猿楽の土や草木灰を用いている。スペインのマヨリカ焼きの技法を用いた水指も、内田さんによるもの。茶杓は、内田さんも敬愛する三重出身の川喜田半泥子による「大太刀」。
初日には、武者小路千家 千 宗屋氏とのギャラリートークが行われました。内田さんによる道具の使い手として、「材料、色、かたちを吟味し、バリエーション豊かに展開できる力量をもつ作家。最高のつくり手は使い手としても上手で、人の生活に沿う、用にかなったやきものをつくる。その作品は古いものを現代に活かしながら、使う中で静かに主張する」と千 宗屋氏は評していました。
西畠清順氏により、セロームという観葉植物が植え込まれた。葉を落とし、フォルムを際立たせている。
会場では、プラントハンター西畠清順氏が選んだ植物と内田さんの器のコラボレーションも見られます。南米原産のセロームやタイから仕入れたソテツワラビといった植物との“出合いの妙”を表現したとのこと。不思議なフォルムの植物は、時代も国も超えたやきものの魅力を一層引き立てています。
こうした幅広い交遊の中で刺激しあいながら、現代の陶芸は充実した深化の時を迎えているのでしょう。世界各地の窯業技術や古いものを吸収しながら、現代陶芸に変換する内田鋼一。いまの陶芸界を牽引する作家の充実した仕事ぶりが見られる展覧会に、足を運んでみませんか。

内田鋼一展—猿楽にて
代官山ヒルサイドテラス ヒルサイドフォーラム gallery ON THE HILL
東京都渋谷区猿楽町18-8 ヒルサイドテラスF棟1階
7月28日(月)~8月10日(日)
11時~19時 ※最終日8月10日は18時まで
www.galleryonthehill.com/

関連記事
陶芸作家、内田鋼一の400点を猿楽町で愛でる。(前編)