デザインと機能美を兼ね備える、ロレックスの時計づくりと建築との深い関係。

  • 文:並木浩一

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ロレックスは、芸術分野で多大な貢献を果たしている腕時計ブランドだ。とりわけ”建築”に関しては、深い理解と積極的なコミットメントを示している。機能とデザインが一体となった腕時計づくりと建築は、どのように関連し、刺激しあっているのだろうか。

写真はエクスクルーシブ・パートナー兼オフィシャルタイムピースとして2014年からサポートするヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展、第16回の会場につくられたロレックス パビリオン。©Rolex/Reto Albertalli

ロレックスほど建築との関係が深い腕時計ブランドを、ほかに見つけることはできないだろう。各国の自社ビルや施設の設計を著名な建築家に依頼してきただけでなく、国際建築展のエクスルーシブ・パートナーを務め、新進建築家には世界的な巨匠とコラボするチャンスを提供する。建築のつくり手が熱望し、建築を愛する人々が待望することは、ロレックスがこれまで実際に行ってきたことだ。ロレックスは創造の力を形にし、未来を担う才能には世界への扉を開く。

自社建築などを通して結ばれる、著名建築家との絆。

2018年、アメリカ合衆国テキサス州ダラスに完成したロレックスの新社屋ビルディング。日本人建築家、隈研吾の設計。©Rolex/Cédric Widmer
隈研吾。建築家、1954年生まれ。1990年隈研吾建築都市設計事務所を設立、20カ国を超す国々で建築を設計し、国内外での受賞歴も多数。©Courtesy of Kengo Kuma and Associates

隈研吾が手がけた、ロレックス社屋とは。

世界的な建築家であり、新国立競技場の設計者としても圧倒的な知名度を持つ隈研吾。アメリカ・テキサス州ダラスに立つロレックスビルディングは、2018年に完成した彼の近作だ。ガラスのタワーがスパイラルを描きながら空に向かってゆく、独創的な外観。基壇となるアメリカの花崗岩を用いた石垣は、日本の築城に用いられていた石積みの技術を引き継ぐ“穴太(あのう)衆”の職人の手でつくられている。

水平の平行線を強調した独創的な外観を見せる7階建てのロレックスビルディング。石垣は日本の城郭建築から着想を得たもので、実際に穴太(あのう)の石積みの技術で積まれている。©Courtesy of Kengo Kuma and Associates
全フロアに植物を配したテラスがあり、内部空間においても環境との調和が試みられる。建築を土地の環境と調和させる隈研吾の作風。 ©Courtesy of Kengo Kuma and Associates

平行を描きながらタワーを覆うルーバーは木材でできている。基底部の石垣もこのルーバーも、鉄とコンクリートに代わる素材を巧みに使う隈研吾ならではの大胆な提案によるものだ。木の優しい質感はビル内部にも生かされている。建築業界で権威あるエンジニアリングニュース-レコード誌が選ぶ2019年の「最も優秀なプロジェクト賞」のオフィス部門で最優秀賞を受賞しているのも、納得の事実である。

槇文彦の設計によるロレックス東陽町ビル。2002年竣工。永代通りに面して立つ透明感のある7階建ては、それ自体が視線を休める優れた景観である。©Toshiharu Kitajima
大阪のロレックス中津ビルもおなじく槇文彦の設計。2009年竣工。所々に丸い穴をデザインし、白いセラミックを施したガラスカーテンウォールが覆う外観が印象的。最上階に開放的なカフェを備える。 ©Toshiharu Kitajima

槇文彦による、日本におけるロレックスの二つの拠点。

“建築のノーベル賞”と称されるプリツカー賞(1993年)や高松宮殿下記念世界文化賞の受賞など、日本を代表する建築家として知られる槇文彦。東京と大阪にあるロレックス社のビルは、どちらも彼によるものだ。光を取り込むガラスのカーテンウォールで覆われた建物は、威圧感を与えることなく街に同化しながら、アイコニックなランドマークとしても認識されている。

「リティッツ ウォッチ テクニカム」(アメリカ合衆国ペンシルべニア州リティッツ)は、日本でも数多くの建築を手がけたマイケル・グレイヴスの設計。2001年竣工。 ©Rolex/Herman Mayer
ロレックスが資金提供を行い建築された時計技術者育成の学校。伝統的な尖頭アーチを持った地元の納屋を思わせる建物が、田園地帯の環境に調和している。 ©Yanai Toister

マイケル・グレイヴスによる時計技術者育成の学校。

アメリカを代表する建築家のひとりであり、「アルテ横浜」などで日本にも足跡を残す故マイケル・グレイヴス。ペンシルベニア州リティッツの田園に設立された時計技術者育成の学校「リティッツ ウォッチ テクニカム」の建築は、ロレックスが彼に託したものだ。壁面の高窓から自然光が差し込む背高の建物は、どこかスイスの時計工場を思わせる。この学校は、ロレックスが1980年代のクォーツ腕時計の台頭などにより、近い将来、機械式腕時計製造の知識や技術をもつウオッチメーカーが不足することを危惧し、若い世代の専門家の養成のために設立した。ロレックスは学校の設備への支援だけでなく授業料の一部も負担しているが、卒業生はロレックスのみならず、他のハイエンドな時計メーカーなどへの進路を自由に選択することができる。

世界有数の工科大学と、「ロレックス メントー&プロトジェ アート・イニシアチブ」

世界的に有名な工科系の名門・スイス連邦工科大学ローザンヌ校は、ロレックスと長年にわたって協力関係を構築。写真のキャンパス内にある「アートラボ」は隈研吾の設計。 ©EPFL/Michel Denancé
「アートラボ」は大学内において、科学と芸術の交点の研究専用施設として位置づけられている。ロレックスは建物内にある展示スペース(写真)のスポンサーを務めている。 ©EPFL/Valentin Jeck

ロレックスがサポートする、隈研吾によるアートラボ

2016年、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)のキャンパスに建設されたのが隈研吾によるアートラボ。その展示スペースを、ロレックスがサポートしている。研究レベルの高さで世界に知られる名門校EPFLとロレックスは、長期にわたる良好な関係を築いてきた。数々のプロジェクトを委託し、博士課程の学生を支援。またロレックスで働く技術者のなかにはEPFLの卒業生が多く、その専攻は物理学、機械工学、材料工学、微細加工技術、情報工学など多岐にわたる。

スイス連邦工科大学ローザンヌ校キャンパス内に建設された学習施設「ロレックス ラーニングセンター」。2010年完成。 ©Julien Lanoo
「ロレックス ラーニング センター」のカーブを描く内部空間。図書館とフォーラムを内包し、知的交流の場として活用されている。 ©Julien Lanoo

SANAAが手がけた学習施設とロレックスの関係。

「ロレックス ラーニング センター」はEPFL内でもひときわ目立つ独創的な外観を持つ。設計は妹島和世と西沢立衛から成る日本の建築家ユニットSANAA。建設資金の半分が民間からの出資であるこの建物で、ロレックスはその第一出資者となっている。完成した2010年は、SANAAがプリツカー賞を受賞した年でもある。

「ロレックス メントー&プロトジェ アート・イニシアチヴ」でメントーを務めた妹島和世と、プロトジェのチャオ・ヤン。 ©Rolex/Hideki Shiozawa
2012 –2013年の建築部門で2人の作業の舞台となったのは、東日本大震災で大きな被害を受けた宮城県気仙沼市。©Suzuki Hisao for Rolex
コラボレーションの成果、「気仙沼大谷のみんなの家」。2013年に完成し、漁港のコミュニティで拠点の役目を果たしている。©Yang Zhao

気仙沼でかたちになった、妹島和世とのプロジェクト

芸術的遺産の継承を目的としてロレックスが2002年に創設した「ロレックス メントー & プロトジェ アート・イニシアチヴ」。各分野の巨匠が指導者(メントー)となり、それぞれひとりの生徒(プロトジェ)を選び、相互交流を重ねながら、若いアーティストを育成する。12年から新たに加わった建築分野で、妹島和世は最初のメントーをつとめた。プロトジェのチャオ・ヤンとともに取り組んだのが、東日本大震災の被災地で家や仕事を失った人々の新しいコミュニティの拠点、「気仙沼大谷のみんなの家」である。

「ロレックス メントー & プロトジェ アート・イニシアチヴ」2018-2019年、建築分野のメントーはイギリスの建築家、サー・デイヴィッド・アジャイ。プロトジェはニジェール出身のマリアム・カマラ。 ©Rolex/Tina Ruisinger
新進建築家のマリアム・カマラにとって、偉大な先達であるデイヴィッド・アジャイに師事できるのは望外の幸運だ。アジャイはニジェールまで足を運び、カマラが手がけた建築を訪れた。 ©Rolex/Thomas Chéné

サー・デヴィッド・アジャイと、若手建築家によるプロジェクト

ガーナにルーツをもつサー・デヴィッド・アジャイはワシントンD.Cの「国立アフリカ系米国人歴史文化博物館」等で知られる世界的な建築家。そんな雲の上の存在から、建築という芸術分野の知識が伝承されたのが、ニジェール出身のマリアム・カマラである。2人はアフリカの建築における独自のアイデンティティを共有し、コラボレーションは、ニジェールで進行中のプロジェクト「ニアメ・カルチャラル・センター」に結実する。

エクスクルーシブ パートナーを担う、「ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展」

第16回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展(2016年)のロレックス パビリオン。「ロレックス オイスター パーペチュアル デイデイト」の特徴的なフルーテッドベゼルのディテールがデザインに取り入れられた。 ©Rolex/Reto Albertalli

ヴェネツィアに出現した、ロレックスのパビリオン

世界の建築界が注目する一大イベントが「ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展」。ロレックスは2014年以来、エクスクルーシブ・パートナーおよびオフィシャルタイムピースを務めている。第16回の会場で注目を集めたのが、ロレックス パビリオンの出展だ。ロレックスの代表的なモデル、「デイデイト」のフルーテッドベゼルの意匠が印象的に昇華され、内部では「ロレックス メントー&プロトジェ アート・イニシアチヴ」によるメントーとプロトジェの作品が展示された。

パビリオン内部に展示されたのは「ロレックス メントー&プロトジェ アート・イニシアチヴ」2016-2017年の建築部門、英国人建築家サー・ディヴィッド・チッパーフィールドとスイス人建築家シモン・クレッツのコラボ作品。 ©Rolex/Reto Albertalli

ロレックスと優れた建築が結ぶ、特別な関係。

建築と建築家に共感し、敬意を払い、支援を申し出ること。ロレックスによる建築へのコミットメントの姿勢は一貫している。日本の建築家への注目度の高さもまた、特筆すべきだろう。精確さと機能を尊びながらデザインもまた重視される芸術分野での活動は、ロレックスにとって自らの行なっていることの意義を再確認することでもある。優れた建築は、ロレックスの腕時計づくりに重なるところが大きい。ロレックスと建築の絆は固いのである。

問い合わせ先/日本ロレックス
TEL:03-3216-5671
www.rolex.org