廃材に新たな息吹を吹きこみ、輝かせる。オランダの気鋭デザイナー、ピート・ヘイン・イークの最新作に注目せよ。

  • 写真:江森康之
  • 文:猪飼尚司

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廃材を使った家具「スクラップウッド」シリーズで知られ、イケアとのコラボレーションも世界中で話題となっているオランダ人デザイナー、ピート・ヘイン・イーク。シボネ青山でのエキシビジョンに合わせて来日した彼に、新作に込めたストーリーを語ってもらいました。

過剰に生産され不要になった工業製品や、時代遅れになってしまった素材のなかに新たな可能性を見つけ出し、職人による手仕事を加えることで現代的で魅力的なデザインを繰り出していく。そんな魔術師のような手法を得意とするオランダ人デザイナー、ピート・ヘイン・イーク。彼のスタイルは、商業主義に走りがちなデザイン界の潮流に一石を投じるものといえます。

そんなイークが、東京のシボネ青山で行われた個展「マイ・ファースト・オーダー」に合わせて来日。新作に込められたメッセージやデザインの哲学について、じっくりと話を聞きました。

宇宙からやってきたような、一目惚れを誘う花瓶。

「ヴィンテージ・サーモボトル・ベース」¥45,360(税込)は、全16種類、44個の限定品。デッドストックの魔法瓶からつくられているので自ずと限定品となった、というのもピートらしいアプローチです。
魔法瓶の内瓶の輝きが眩しいプロダクト。存在感バツグンなので、花を生けずともオブジェとしてもよさそうです。

「ヴィンテージ・サーモボトル・ベース」は、食器会社の倉庫が取り壊されることを知ったピートの妻が、倉庫に眠っていた在庫を引き取ったことがきっかけに生まれた花瓶。ピートは魔法瓶の内側にある鏡面構造体の独自の形状と輝きに注目し、それに職人が手がけた銅製フレームを組み合わせることで、貯水タンクや惑星の探査機を彷彿させるユニークなアイテムが誕生しました。

「新しさの基準は一体どこにあるのでしょう? 新品だから良いというのは、一種の“まやかし”かもしれません。過去から私たちは何度も学習し直し、これまでにない発見を繰り返すこともできるはず。一度は失敗作と評価されたり、もう世の中に必要のない無駄なものと見なされたものでも、視点を変えると異なる価値が見えてくることを僕は身をもって知っています。決して懐古主義的なセンチメンタルな気持ちから行っているリサイクルプロジェクトではありません。モノの背景に隠された文脈や歴史背景を必要以上に語らずとも、発想力と創造力を存分に活かせば新たなる未来も切り開いていけるのです」

「自分で手を動かしながら製造プロセスを試行錯誤することで、デザインの精度はどんどん上がっていくんです」と、自身の信念を語るピート。
1990年に発表した廃材を使った家具シリーズ「スクラップウッド」は、いまだに販売が続くロングセラー商品です。

仕事を始めて間もなく、資金やコネクションが乏しい時期には、デザイナーの多くが自身で製作を手がけるセルフプロダクションを行うことがあります。しかし、20年を超えるキャリアを誇るイークは、いまだに自身のスタジオでデザインから製造、販売に至るまでを自主管理をしています。その理由を尋ねると、彼はこう答えました。

「ただ単に、僕がものをつくることに純粋に興味があるというのが一番の理由でしょう。でも、デザイナーの大多数がキャリアを重ねていくうちに、ものづくりよりもデザイナーとしての地位やメーカーのブランディングに寄与する役割を担っていくようになるのも事実。僕にとっては、自分の手と目を駆使して製造工程や素材のあり方を模索することにこそ、デザインの本質があると思うのです。素材の特性やプロセスの一つひとつを理解し、ディテールを調整することにより、必然的にデザインの精度が上がると信じています」

時にデザイナーは、製品のクオリティや機能面の低さをメーカーのせいにしてしまうこともあります。自身のブランドですべてを管理するイークは、デザインのオリジナリティを追求しているだけでなく、とても正直かつ真摯な態度でものづくりと向き合っていると言えるでしょう。

廃材の型枠でつくった、ガラスの表情がすべて異なる花瓶。

建築廃材として残った木製の梁を型枠として使うことで、製造するごとに型枠が燃焼し、形の異なるガラスが生まれる「ビーム・グラス・ベース」¥70,200(税込)。
大きさも表情もさまざまな花瓶。シンプルですが一輪挿しも様になりそうな存在感です。

本展で紹介されたもうひとつの作品「ビーム・グラス・ベース」では、建築廃材として排出された太い梁や柱を型枠に使い、ガラス製品をデザインするという新しい試みを行っています。

「操業を停止した建築会社に余っていた大量の梁材を使った家具シリーズは、これまでにも発表していましたが、ボリュームのある木材の特性をもっと他の製品にも活かせないだろうかと試行錯誤した結果、ガラスを流し込む型に応用する手法を思いついたのです。硬くて太い梁柱は、熱したガラスを流し込んでも一気には燃焼しませんが、作業を繰り返すうちに、次第に木材の表面が少しずつ燃えて変形し、異なる表情をもつガラスがつくり出せることがわかりました。回数を重ねるほどに、ガラスがどんどん柔らかな印象になっていくのは、自分にとっても面白い発見でしたね」

廃材そのものを使う作品とはまた違ったアプローチが面白いこの作品。これはオランダを代表する老舗ガラスメーカー、ロイヤル・レアダム・クリスタルの職人と協働しており、クラシカルなデザインが主流の同社にとっても画期的なプロジェクトとなりました。

建築部材である梁を組み合わせて作った型枠。プリミティブなアプローチながら、そこから驚くべき結論を導き出しているのはさすが。
今年4月で50歳を迎えたピート。「年齢を重ねれば重ねるほど思慮深くなり、仕事に対する姿勢もさらに意欲的になった気がします」

現在、オランダのアイントホーフェンを拠点に活動しているイークですが、彼のアトリエは、普通のデザイン事務所と比較するとその規模、内容ともに桁違いです。

「同じ建物のなかにいるスタッフは100人以上。僕が運営するデザイン事務所以外にも、木工や鋳造の工房、さらに飲食施設やギャラリーなど、さまざまな機能を備えた施設が同居しています。メーカーとばかり仕事をしていると、ときに専門分野にフォーカスするあまり、デザインの視野も狭くなりがちですが、ここでは異業種間でコミュニケーションをとるのが日常茶飯事。デザイナーも、あらゆる人が理解できる “言語”で話さなければなりません」

こうした体制も、彼のデザインをかたちづくる大切な要素になっています。今秋には、近年の活動をまとめた書籍を発刊予定のピート・ヘイン・イーク。これからも独自のスタイルで、デザインの本質を追い続ける活動に注目です。

新作とともに、ピートの代表作が勢揃いしたシボネの個展「マイ・ファースト・オーダー」。初日には、ピート自身が直接来場者の希望を聞き、オーダーするというサービスも実施されました。

シボネ青山

東京都港区南青山2-27-25 ヒューリック南青山ビル 2F
TEL:03-3475-8017
営業時間:11時~21時
不定休
※数量限定品は店内在庫が無くなり次第終了。エキシビジョン「マイ・ファースト・オーダー」は4/24で終了。

http://www.cibone.com