フォルマファンタズマ、時空を超えて生まれるオブジェ【前編】

  • 文:土田貴宏

Share:

現代デザインの精鋭たち File.01:歴史のレファレンスから現代性を創造する「フォルマファンタズマ」

2010年のミラノ・サローネで発表された「Autarchy」。小麦を主な原料にしている。
常識を覆した“パンの器”。

フォルマファンタズマの作品を初めて見たのは、2010年4月のミラノ・サローネの会期中。ミラノを代表するデザインスポット、スパッツィオ・ロッサナ・オルランディの地下の展示スペースに、彼らの「Autarchy」(上写真)がインスタレーションとして展示されていました。この作品は、フォルマファンタズマのひとり、アンドレア・トリマルキの出身地であるシチリアの伝統的な祭典で使われる、聖ジュゼッペを賛美する装飾用のパンからインスピレーションを得たものです。
「Autarchy」は野菜などで着色されている。
「Autarchy」の素材は主に小麦粉で、農業廃棄物や石灰石を混ぜてつくられています。着色には、色の濃い野菜や根などを使用。液体を入れて使うボトルやフラワーベースは、ビーズワックスと松脂で耐水性を増しているそうです。いずれも実用的な器として、十分な機能が備わっているわけではありません。しかし工業生産に頼らない、環境負荷の低いものづくりのコンセプトの提案として、パンそっくりの器のバリエーションには相当のインパクトがありました。

歴史的な要素を再構成する。

翌年の4月、フォルマファンタズマは前年と同じロッサナ・オルランディで「Botanica」という新しい作品を発表しました。これはプラスティックをテーマに作品を制作するコミッションワークで、展示されたのは褐色の樹脂素材でできたフラワーベースやボウルなど。現在、多様な用途で使われ、デザインやアートにおいても欠かせない素材になっているプラスティックは、将来的には石油資源の枯渇によって使えなくなる可能性があります。フォルマファンタズマが試みたのは、石油由来のプラスティックが誕生する前へと歴史を遡り、その製造法を現代に蘇らせることでした。
2011年のミラノ・サローネで展示された「Botanica」。
彼らは植物を素材に使い、微妙に色合いや質感の異なるプラスティックを制作しました。この展示は前年以上の反響があり、世界中のデザインメディアがこの年のミラノ・サローネを象徴する展示として「Botanica」を取り上げます。この頃から、フォルマファンタズマは活動するフィールドを一気に広げていきました。2人がオランダのデザインアカデミー・アイントホーフェンを卒業したのは2009年のことですが、現在までにヴィトラやフェンディなどと次々にコラボレーションを行い、リミテッドエディション作品だけでなくプロダクトのデザインも始めています。 
同じく2011年にミラノのギャラリー・ディルモスで発表された椅子「Domestica」。
2013年、ウィーンの観光促進のためのコンペで選ばれたトランプ「Vienna Spielkarten」
フォルマファンタズマの作品に共通するのは、ものにまつわる歴史や文化を丹念にリサーチして、現代的な価値観と優れた審美眼を通して捉え直し、個性的なアウトプットを行う点です。たとえば「Domestica」は、北イタリアで伝統的に用いられてきた3本脚付きのカゴを、椅子へとアダプテーションしたもの。また2013年は、ウィーンのお土産をデザインするコンペを勝ち取ったニュースも話題になりました。彼らがデザインしたのはトランプで、ウィーンで活躍した建築家のヨセフ・ホフマンやアドルフ・ロースらによる作品が絵柄のモチーフです。ただ過去の要素を取り入れるだけでなく、それを再構成するセンスが光っています。 (後編へ続く)