宮脇モダン―好奇心を刺激するフランス・アンティーク

  • 写真:江森康之
  • 文:佐藤千紗

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あたらしい骨董店 Vol. 01:いまの時代ならではの骨董店を訪ねていくシリーズの第1回は、東京・目黒区の住宅街にたたずみ、フランスのアンティークを紹介する小さな店にクローズアップ。

パリ生活から見出された、「美しいもの」

「宮脇モダン」は、フランスの古いものを中心に集めたアンティーク店。骨董屋というと、薄暗い店内に、なにやら厳しそうな主人がいて、常連と蘊蓄を語り合っている。そんな想像をしてしまいますが、「宮脇モダン」はいわゆるステレオタイプからかけ離れています。
ショーウインドウには、木馬や傘やマネキンなど、なんだか楽しそうで気になるものがたくさん並べられ、興味をそそられます。店内は、近ごろ人気のある白いプレートやワイングラスなどとともに、ランプ、時計、メトロノームからよくわからない不思議な道具まで、店主の宮脇 誠さんの眼によって集められた“古くて美しいもの”が陳列されています。さまざまな珍しいものを前に、つい「これは何ですか?」と聞いてばかり。その度に宮脇さんは、遠い昔、遠い国で使われていたものの来歴を丁寧に説明してくれます。
魅惑的なウィンドウ。棚の上段に座っている木のマネキンは19世紀末ごろのもので、デッサンのモデルとして使われていた。¥180,000
宮脇さんは2011年に帰国するまで10年間、パリに暮らしていました。蚤の市で古いものを買い付け、オンラインや日本の骨董市で売る。いま、若い人たちの間で増えているアンティーク店のスタイルを開拓した先駆けでもあります。
もともとモノが好きで、身の回りのライターや腕時計を探すうちに古いものに興味をもったという宮脇さん。大学を卒業後、西洋アンティークの店で7年働いた後、2001年、単身パリに渡ります。当時は西洋アンティークというとイギリスが中心でしたが、宮脇さんは自分のセンスで勝負しようと、フランスを選びました。その頃、元麻布に「さる山」や「アンティークス タミゼ」ができ、新しいスタイルの古道具を始めた時代でもありました。
パリでは毎週、早朝から蚤の市を回り、市が立つと聞けば遠方にまで足を運び、ものを見る目を磨き続ける日々。「タミゼ」の吉田昌太郎さんともパリで知り合って意気投合し、以来、ヨーロッパの買い付けも一緒に行く間柄だそう。ピュアな感性に影響を受けたと言います。やがて転機が訪れたのは、有楽町で開かれる大江戸骨董市に出展し始めた2003年頃でした。
「その頃の骨董市は、和ものが中心でした。そこに、日常使いできるフランスの白い食器を持ち込みました。いままであまり見たことのないものの美しさが認知され、それを起点にだんだんと仕事が拡がっていきました」
その後もパリと日本を行き来しながら、フランスの生活骨董を紹介し続け、2012年に自宅に併設した店をオープンしました。
19世紀の純銀製のメガネ¥25,000。レンズを入れれば使用可能。
18世紀の木のフレームのミラー¥48,000

いまの暮らしに合う古い器たち

1700年代のフランス・サマデの絵皿¥35000。絵柄の良いのはめずらしく、はじめて買ったもの。
宮脇さんの選ぶものは多岐にわたりますが、いくつかの傾向があるように見えます。ひとつは、白い皿、グラスウェアなど、生活に取り入れやすい、形がきれいでシンプルな器。実際、店にあるような器は「料理も家のことをするのも好きで、主婦みたい」という宮脇さんも普段自宅で使っているそう。細川亜衣さんなど料理研究家の顧客も多くいます。
タミゼの吉田さんとともに、フランスの白い器、クレイユやモントロー、ムスティエなどの窯を日本に紹介するのに果たした役割も大きいでしょう。フランス骨董の魅力について聞いてみました。
「産業革命以後、イギリスとフランスは非常に恵まれた時代で、市民階級が使う質の高い製品がたくさん生まれました。イギリスのものはきれいでかたい印象があるのですが、フランスものにはやわらかさがありますね」
きりりとした形が美しいピッチャーは19世紀初期のファイアンスフィーヌ¥42,000
ワイングラス、ロックグラス、リキュールグラスなど。グラスはおもに19世紀で¥5000~
ロックグラスやリキュールグラスなど、お酒が好きな宮脇さんらしいアイテムも充実しています。「ガラスも好きなものの一つです。無色透明を目指しているけれど、グレイだったり、緑色がかったり。不純物が混じって、色が入ってしまう。意図していない、不完全さに魅かれます」。
白い器やガラスの偶然できたゆがみや肌の色を愛でる。西洋の雑器の美しさを見出したのは、伝統的な骨董の世界にも通じる、極めて日本的な感性でした。

好奇心を刺激する「メゾン・ド・キュリオジテ」

オランダの運河の中から発掘された銀化したガラス瓶の残欠。17~18世紀のもの。¥6,000
一方で、「男っぽい品揃え」と言われることも多いそうで、生活の中で使いこまれて古色を帯びた黒っぽいものもたくさん見られます。例えば刃がすり減ってぼろぼろになったナイフ。長年の使用により、磨き込まれたような艶が出た木製の水切り。もともとが高価なものではない日用品なので、あまり残されていない貴重な生活道具です。
「愛情をもって使い込んだ道具を、愛情をもって買い、お客さんにも大切に使われたらうれしい」と宮脇さんは言います。
最近はフランスのブロカントを扱う店が増えてきたので、女性受けの良い白っぽい食器はあえて少なくしているそう。その分、個人の趣向がより色濃く出たセレクトになっています。「でも、孤高の骨董屋ではないので、ひとりよがりでもひより過ぎてもいけませんね」
骨董屋としては、目が肥えていけばどんどん面白いもの、めずらしいものを追い求めたくなる。けれども宮脇さんの場合、同時に使い手でもあり、暮らしを愉しむ生活者としての視点が、バランスを取っているように感じます。
店主の宮脇 誠さん。
古物屋のことをフランスでは「メゾン・ド・キュリオジテ」とも言うそう。その言葉通り、宮脇モダンには、好奇心を刺激するものが詰まっています。骨董店の醍醐味はやはり、店主が各地を歩いて買い集めた、目を経てきたものに向き合うこと。名もないものを集めて、物への好奇心を喚起させる、粋で洒脱なエスプリが薫る店です。
ウィンドウに掲げられた看板。「モダン」という言葉には、外国のものが憧れだった時代の響きが感じられる。