「ロエベ クラフト プライズ2018」の大賞が決定! 展覧会がロンドン・デザイン・ミュージアムで始まりました。

  • 写真:斎藤久美
  • 文:宮田華子

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「アルチザン(職人的芸術家)」に光を当てることを目的とし、昨年創設された「ロエベ クラフト プライズ」。第2回が開催され、5月3日にロンドン・デザイン・ミュージアムで大賞が発表されました。授賞式とファイナリスト30人の作品が一堂に会する展覧会をレポートします。

ロンドン・デザイン・ミュージアムで始まった『ロエベ クラフト プライズ2018』展(~2018年6月17日まで)。photo: Darren Gerrish

伝統的な技法、特に手仕事の技である「クラフト(工芸・職人技)」に、世界中から熱い視線が注がれる中、昨年創設され、大きな関心を集めた「ロエベ クラフト プライズ」。このほど第2回が開催され、大賞作品が決定。最終選考者30名の作品を披露する展覧会が始まりました。このプライズは、「クラフトはロエベの神髄」と語るクリエイティブ・ディレクター、ジョナサン・アンダーソンが発案し、ロエベ財団が主催する国際規模のコンペティションです。伝統の技を進化させ、革新的かつ芸術的先見性をもつクリエイターを発掘・支援することを目的としています。気になる今年の大賞は?

ロエベ クラフト プライズ2018の大賞に輝いたのは、ジェニファー・リー!

「ロエベ クラフト プライズ2018」大賞を受賞した、ジェニファー・リーの作品。『淡さ、影のある斑点、変形した楕円形、青銅の斑点、傾いた棚』2017年(せっ器粘土、粘土に混ぜた自然酸化物)

第2回となる「ロエベ クラフト プライズ2018」には、世界75以上の国や地域から約1900作品もの応募が寄せられました。日本人5人を含むファイナリスト30名が2月に発表となり、去る5月3日にロンドン・デザイン・ミュージアムで大賞が発表されました。

大賞に輝いたのは、ジェニファー・リー。ロンドンを拠点に活動する陶芸作家です。

形と色のもつ繊細さと絶妙なバランス、そして静かな佇まいから確かな強さが伝わってくる作品です。独自に開発した酸化顔料で淡い斑点とかすれたラインによる帯が描かれています。わずかな着地面で全体を支える造形のバランスも見事です。

ジェニファー・リーは1956年生まれ、スコットランド、アバディーンシャー(イギリス)出身。ロイヤル・カレッジ・オブ・アート卒業後、ロンドンを拠点に活動。

名前が呼ばれると思わず顔を手で覆い、とても驚いた様子のリー。受賞後のインタビューではその作品を彷彿とさせる静かな語り口で語ってくれました。

「受賞を心から嬉しく思っています。私の作品は制作にとても時間がかかります。器の形を完成させる作業に数カ月を要することもあり、一年に10作品ほどしかつくれません。酸化物を粘土に混ぜ込んで顔料をつくっていますが、この色を出せるまで30年もの月日を要しました。この受賞により作品をたくさんの人に知ってほしいと思うと同時に、もっと時間をかけて作品に取り組む余裕も生まれるかもしれません」

大賞のプレゼンターを務めた女優ヘレン・ミレン。

審査委員長のアナトクス・ザバルベアスコアが「審査は10名の審査委員同士による、白熱したバトルとなりました」と笑いを交えながら説明。大賞プレゼンターを務めた、イギリスを代表する女優ヘレン・ミレンは涙を浮かべながら力強くスピーチしました。「ファイナリストの作品を拝見し『人間がなしえる能力の素晴らしさ』を改めて感じました。感動を覚えずにいられません」

ザバルベアスコア審査委員長は、2作品に「特別賞」を贈ることで“やっと”審査委員全員の合意を見たと発表。特別賞が急遽告げられました。

特別賞に、日本とフランスの作家ふたりが選ばれました。

特別賞に選ばれた、桑田卓郎(日本)の作品。『ティー・ボウル』2017年(磁器、釉薬、プラチナ、スチール)
桑田卓郎は、1981年、広島県生まれ。2001年に京都嵯峨芸術大学短期大学部を卒業後、2002年に陶芸家の財満進に師事、2007年に多治見市陶磁器意匠研究所を修了。

特別賞受賞者はふたり。ひとりは桑田卓郎(日本)です。

磁器にプラチナとスチールで装飾を施し、対照的な質感を表現した桑田の作品。マットな肌に飛び散るようなプラチナが印象的です。その躍動感は偶然の産物のように見えるものの、彼いわく「プラチナ部分の表現はある程度計算できるんです」とのこと。「しかし(プラチナを付けた後に)焼くことで、表面の割れや質感は変わります。その部分は最後までわからないとは言えますね」

桑田は、このプライズが、“素材感”を大切にする私のコンセプトを理解してくれるのではないかと考え、挑戦したそうです。「特別賞をいただけてとても嬉しいですし、この賞をきっかけに幅広いジャンルで活動できたらいいですね。素材に向き合うだけでなく、依頼される方とのやり取りを通して感性が変わることもあります。柔軟性を大切にしたいです」

特別賞を受賞したシモーヌ・フェルパン(フランス)作『XL 成長』2017年(綿布、ピン)。フェルパンは1941年生まれ。フランス北東部ヴォージュを拠点に活動。テキスタイルを素材とした立体作品を制作しています。

もうひとりの特別賞受賞者は、シモーヌ・フェルパン(フランス)。
フェルパンの作品は、見る角度によってまったく異なる質感を見せます。遠くからは石膏または石でつくった重量感のあるものに見えるのですが、近くから見ると綿布でつくられていることがわかります。堅さと重さ、軽さと柔らかさ。まったく異なるテクスチャーを、綿布を重ねることで表現し、驚きを誘う作品です。

大賞を受賞したジェニファー・リー(中央)をたたえるヘレン・ミレンとジョナサン・アンダーソン。

この賞の発案者であり審査委員でもある、ロエベのクリエイティブ・ディレクター、ジョナサン・アンダーソンは「応募者のレベルの高さに驚かされ、審査は困難を極めました」とハイレベルな審査の様子を語りました。「シンプルでピュアな表現で訴えてくる、そんな作品が多かったと感じています。控え目でありながらも、一方で強く感情に訴える作品が多かった。これは予想外でした」

ロンドン・デザイン・ミュージアムでは授賞式の翌日、5月4日から「ロエベ クラフト プライズ2018」ファイナリスト30名の作品展が始まりました。伝統的技法や職人が置かれている状況は、時に厳しく、継承が困難で消滅の危機に瀕しているものもあります。こうしたプライズと展覧会が続くことで、クラフトの重要性が知られ発展へとつながっていくはずです。ロンドンでの展覧会の会期は6月17日まで。高度な技と斬新さが光る多彩な作品が並んだ、見ごたえのある展覧会です。今年中に日本へ巡回の予定もあるとのこと、期待が高まります。

ARKO(日本)作『サード・タイム・レインフォール(3度目の雨)』。藁の1本1本を製図の線とみなして編んだ壁かけ。
クリストファー・クルツ(アメリカ)作『シンギュラリティ(単独性)』。木を用いた伸びやかな立体作品。
キム・ジュニョン(韓国)作『ティアーズ・イン・ザ・サンセット』。神秘的な色を呈するガラスの器。

『LOEWE Craft Prize 2018』(ロエベ クラフト プライズ2018)展

開催期間:2018年5月4日(金)~2018年6月17日(日)
開催場所:ロンドン・デザイン・ミュージアム
London Design Museum
224-238 Kensington High St, Kensington, London W8 6AG, UK
TEL:020-3862-5900
開館時間:10時~18時(入場は17時まで。第1金曜は20時まで開館し入場は19時まで)
無休
入場無料
https://designmuseum.org
http://craftprize.loewe.com