曲木職人の手による、Pen仕様のチェアが完成!

  • 写真:尾鷲陽介
  • 文:佐藤千紗

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熟練した職人の手仕事が際立つ、秋田木工の曲木(まげき)家具。この度、Pen仕様のダイニングチェアを特別製作。ものづくりの背景を知るため、秋田県湯沢市にある工房を訪ねました。

日本唯一の曲木家具専門ブランド

工場のボイラーは端材を燃やして稼働。左は天日により半年から1年程自然乾燥させている製材。
秋田木工のエントランス。曲木装飾のドアと味のあるサインが迎えてくれる。
清流と水田が広がる北国の田園風景の中に、秋田木工はあります。約80人の職人が立ち働く木の香りが漂う現場は、機械を使いながらも手作業の工程が圧倒的に多く、工場というよりは家具職人の工房のよう。
入り口には、曲木のラウンジチェアをモチーフにした味わいのある看板。曲木の技術とともに歩んできた秋田木工の歴史がしのばれます。そもそも秋田木工は明治時代、国策としてドイツ・トーネット社の曲木技術を導入したことから始まりました。当時日本各地に曲木工場が設立されましたが、現在も残るのは秋田木工のみ。それは、「原材料となるブナの産地に近いこと、手間のかかる作業工程に北国の粘り強い気質が合ったことが理由でしょう」と瀬戸伸正社長は分析します。
三次元の曲木加工の様子。腰に力を入れ、ふたりがかりで曲げていく。
蒸気で熱した木材に圧力を掛けて曲げる。木が持つ可塑性(圧力を受けて変型したものが、そのまま元に戻らない性質)を利用。
では、実際の工程を見てみましょう。
ハイライトとなる「曲木加工」は、乾燥させた製材を90℃の蒸気で熱し、柔軟にしてから、金型にはめ、曲げる技術。創業以来変わらない、昔ながらの手法です。2次元の曲げ加工は機械で行いますが、3次元のひねりを加える曲げ加工はふたりがかり。材が熱いうちに成形しなければならないので、作業時間は5分程。息を合わせながら、2メートル超の材をリズミカルに型にはめ、クランプで留めていくと、みるみるうちに、しなやかな曲線が立体となって現れます。木目によって、力やスピードを加減しないと割れてしまうため、最低でも7〜8年の経験が必要で、この道40年のベテラン職人もいるそう。きびきびと身体を動かす職人たちからは、自分たちで工夫しながら感覚と技を磨く喜びが感じられます。
チェアの背のアーチ部分に使われる曲木。

人の手でつくられた、あたたかみのある家具。

座面をサドル(鞍)のように削ることで、しっくりとした座り心地を作り出す。
職人が高さや安定感を確かめながら、組み立て、調整することで、組み立て家具とは違う、堅牢なつくりとなる。
曲木加工を施した後、木材を丸く整え、太さを調節し、傷やへこみをなめらかにするのが「切削」。手が覚えた感触を確かめながら、「南京カンナ」と呼ばれる道具で、スピーディーに曲線を削り出していきます。さらに、まるで踊るように華麗に木材を動かしながら、やすりを使って磨き上げるのが「研磨」。手ざわりの良さや身体のあたりのやわらかさを仕上げていきます。こうして、幾人もの職人の手と工程を経てできあがった部材を、職人がしっかり組み立て、調整することによって、丈夫で長持ちする家具が誕生します。「人の手によって作られたあたたかみのある家具は使い込むことで味わいが増し、アンティークにもなりうると思います」と瀬戸社長。
自社で製作する南京カンナなどの刃物道具。
曲木をはめ込む金型を製作する鉄工部の天童さん。
整然とした仕事場の片隅にはかつて使っていたという炉があり、鍛冶屋の雰囲気が残る。
秋田木工の強みは、曲木の型となる金型を製作する鉄工部が社内にあること。特注などにも対応でき、小回りが効く体制となっています。敷地の一角にある鉄工部では、在職49年という天童さんが一人で金型づくりを守っています。後継者が心配されましたが、最近、曲木加工の曲げ場で活躍する息子さんが、鉄工の仕事を少しずつ習っているそう。
他にも南京カンナなど、職人道具の要である刃物も自社工房で製作しています。自分たちで作る方が使い勝手が良いから、つくれるものはつくる。手間を惜しまぬ誠実さと見えないところにもこだわる職人気質を感じます。

現代の暮らしに寄り添う3色のウィンザーチェア

いよいよ、Pen仕様のウィンザーチェアをご紹介しましょう。今回、Penが特注したのは、秋田木工とデザインオフィスnendoがコラボレーションしたシリーズの「No.500EB」。nendoは秋田木工の伝統的なアーカイブをシンプルにそぎ落とし、リデザイン。背面のスピンドル(背棒)や脚のパーツを減らし、すっきりとした現代の暮らしに寄り添うデザインとなっています。別注した3色を見てみましょう。
上写真のナラ材は、通常使われるブナ材よりも木の質感が強く感じられる温かみのある素材。美しい木目が映えるナチュラルな白木塗装は、どんなインテリアにも馴染みます。使う程に深まる色合いを育てていくのも魅力となるでしょう。価格は¥51,840となります。
上の写真、艶を抑えたミニマルなブラックはコンクリートなどのモダンな空間にも合いそう。曲げ木の技法を使った背面のアーチ、きりっとしたスピンドル、丸みを帯びた脚部などのシルエットの美しさが際立ちます。価格は¥52,920です。
温かみのあるウォームグレーは白味がかったやわらかな色合い。北欧風のインテリアや淡いトーンの空間に調和しそうなやさしさがあります。カラーを自由にミックスしてダイニングチェアとして使っても違和感のない組み合わせ。価格はこちらも、¥52,920

ウィンザーチェアは17世紀後半のイギリスが発祥で、クラフトマンがその土地で手に入る材料と自分たちの技術を使って、王侯貴族のためでなく、庶民の暮らしのためのイスを作り出したのが起源だと言われています。秋田木工のイスも、その風土と実直な職人技、そしていまの暮らしから生まれた、まさしく現代のウィンザーチェアと言えるでしょう。高い技術に裏付けられた手触りや座り心地をぜひ確かめてみてください。

●問い合わせ先/IDC大塚家具 有明本社ショールーム TEL03-5530-5555  www.idc-otsuka.jp/