ネンドが手がけた「ブナコ スピーカー」で、佐藤オオキが届けたい“ブナコらしいサウンド”とは?

  • 写真(人物):フランキー・ヴォーン
  • 文:ペン編集部

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薄くスライスしたブナ材をコイルのように巻き付け、成形することでユニークな製品を生み出してきた青森発の木工芸ブランド「ブナコ」。このたびお披露目となった「ブナコ スピーカー」を手がけたデザインオフィス「ネンド」の佐藤オオキさんに、このプロダクトで届けたい“ブナコらしいサウンド”について聞きました。

世界最大規模のデザインイベント「ミラノデザインウィーク 2018」の期間中、「ネンド」の個展会場でインタビューに答えてくれた佐藤オオキさん。

割れや反り、歪みなどが生じやすく、天邪鬼な木材として知られるブナ。こうした材質上の難点を克服し、さらなる有効活用のために考案されたのが、工芸ブランド「ブナコ」です。テープ状にカットしたブナ材をコイルのように巻き付け、平面の板にしたのち、一つひとつ職人が手作業で、器や照明などに加工しています。

これまでにも数々のユニークな製品を発表してきましたが、このたびお披露目となったのは「ブナコ スピーカー」。手がけたのは、デザインオフィス「ネンド」の代表であり、チーフ・デザイナーを務める佐藤オオキさんです。佐藤さんは、ブナコのどこに魅力を感じ、どのような点を意識してこのプロダクトをデザインしたのでしょうか? また、佐藤さんがこのスピーカーで届けたい、“ブナコらしいサウンド”とは、いったいどのようなものなのでしょうか? 独自のインタビューを通して、その答えに迫ります。

美しい螺旋で音を磨き、空間を彩る木のスピーカー

このたびお目見えした「ブナコ スピーカー デザインド バイ ネンド」(W18×H61×D18cm)。¥129,600/ブナコ photo: Akihiro Yoshida

重硬だが、割れやすい。緻密だが、歪むこともしばしば。そんな天邪鬼な材質ゆえに、「用途は広いが歩合がよくない」と敬遠されてきたブナ。“分の無い木”という意味から、いつの間にか「橅」の漢字が当てられるようになったという、なんとも気の毒な木です。

こうしたブナの難点を克服し、さらなる有効活用のために考案されたのが、工芸ブランド「ブナコ」。原木を桂剥きの原理で約1mmの薄さにスライスしたものを、器や照明などに加工しています。ブナの蓄積量日本一という青森県が、テープ状にカットしたブナ材をコイルのように巻き付け、平面の板にする手法を開発。割れや歪みが少なく、耐水性に優れるのが特徴です。

これまでにも数々のユニークな製品を発表してきましたが、このたびお披露目となったのは「ブナコ スピーカー」。デザインオフィス「ネンド」とタッグを組み、美しい造形と確かな音質を兼ね備えたプロダクトを生み出しました。

桂剥きの原理でブナの原木をスライスし、テープ状にカットしたものが、ブナコの材料です。photo courtesy of bunaco
テープ状にカットしたブナ材をコイルのように巻き付け、平面の板にしていきます。このあとの工程で職人が加工しやすいよう、絶妙な力加減で仕上げます。photo courtesy of bunaco

「反りや歪みといった天然素材特有のクセを上手にコントロールすることで、その用途の幅や可能性を広げていくというブナコのアプローチ。とても日本らしく、面白いなと感じていました」。そう語るのは、ネンドの代表であり、チーフ・デザイナーを務める佐藤オオキさん。これまでは、器や照明に使われることの多かったブナコですが、スピーカーをデザインするにあたり、佐藤さんはどのような点を意識したのでしょうか?

実は、ブナコがスピーカーを世に送り出すのは、これが2度目です。初めてリリースした「ファッジョ」は、巻き付けたブナ材の間に生じるわずかな段差が、細かなノイズを除去。中音域が明瞭になり、コアなオーディオファンからも評価されました。

しかし、使用にあたっては、別途アンプを準備する必要があり、価格面でも一般のユーザーには手が出しにくいことが課題に。加えて、海外でブナコの製品を見せると、「完成度が高過ぎるために、一つひとつ職人が手作業でつくり上げていることや、彼らのもつ技術力が、むしろ伝わりにくくなっている」という指摘を受けることもあったそうです。

「そこで、ブナコを初めて見る人にも、その製作プロセスや職人の技術力の高さが直感的にわかるデザインにしようと考えました。設計方針を一新し、より“ブナコらしいサウンド”を表現できるように心がけたのもポイントです」

透明なアクリルチューブでスピーカー部分を支える構造を採用し、ブナコの美しさを強調しています。photo: Akihiro Yoshida

そして行き着いたのが、透明なアクリルチューブでスピーカー部分を支え、ブナコの美しさを強調するという独自の構造。さらにその下に、巻き付ける前の状態のブナ材をあえて残すことで、ブナコがどのようにつくられるものなのかを視覚的に理解できるように工夫したといいます。

では、そんな佐藤さんが、このプロダクトを通じて表現したかった“ブナコらしいサウンド”とは、いったいどのようなものなのでしょうか?

佐藤オオキが追求した、“ブナコらしいサウンド”の秘密。

佐藤オオキさんによる、ブナコ スピーカーのラフスケッチ。ブナの木から奏でられた音が、聴く人に優しく降り注ぐ様子が描かれています。image courtesy of nendo

ブナコ スピーカーと一般的な音響機器との大きな違いのひとつが、音を届ける振動板が上を向いていること。この大胆な発想の転換も、“ブナコらしいサウンド”があったからこそだと、佐藤さんは話します。

「ブナコ初のスピーカーである『ファッジョ』で音楽を聴いたとき、そのやわらかでナチュラルな音質に驚きました。クリアでありながら温もりのある質感は、まるでブナ材の美しい螺旋がサウンドを磨いているよう。また、振動板が正面を向いているため、せっかく職人たちがつくったブナコの側面が見えないという点も気になりました。これらふたつの引っ掛かりが、垂直型の無指向性スピーカーのデザインを考えたきっかけです。森に包まれるような、ブナコの優しい音色に導かれて、アイデアを膨らませていきました」

湯呑や茶碗などの道具を使い、職人が一つひとつ手作業で、スピーカーの形状に加工していきます。photo courtesy of bunaco
スピーカーの振動板を垂直方向に設けるという斬新なアイデアにより、ブナコの職人がもつ高度な技術やその製作プロセスを可視化。photo: Akihiro Yoshida

しかし、このアイデアをデザインに落とし込むのは、決して容易でなかったといいます。特に、スピーカー部分を透明なアクリルチューブで支える構造にたどり着くまでには、数々の試行錯誤がありました。

「当初は、金属の支柱でスピーカー部分を支え、台座を設けるデザインを提案しました。ところが、“ほつれ”の部分に強度がなく、非常にデリケートであることや、転倒しにくくするため、台座を極端に大きくする必要があることなど、いろいろな問題に直面しました。これらに対する解決策として思い付いたのが、支柱を使わず、アクリルチューブ自体を台座に使用すること。スピーカーの下部に音が共鳴する空間ができ、初期の想定よりも低音の広がりが強調されたことも、うれしい誤算でした」

今回、インタビューに応じてくれた佐藤さん。今年4月に行われたミラノデザインウィーク 2018で大規模な個展を開催し、大きな反響がありました。

「スピーカーと対峙して、真剣に音楽を聴くというのは、ちょっと堅苦しい。自分の部屋の中心に置き、お気に入りの音楽を“暮らしのBGM”としてカジュアルに楽しんでもらえたらうれしいです」と語る佐藤さん。

アンプ内蔵型ワイヤレススピーカーとしての機能性と、ブナコの美しさを最大限に引き出したデザイン。そして、そのバランスのとれた佇まい。デザイン好きのみならず、インテリアに関心の高いユーザーにもぜひ注目してほしいプロダクトです。

ブナコ TEL:0172-34-8715
www.bunaco.co.jp