国際家具デザインフェア旭川2014―大地が育むクリエイション

  • 写真:岡村享則
  • 文:土田貴宏

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家具づくりが盛んな街として知られる北海道の旭川で、第9回となる国際家具デザインフェア旭川(IFDA)が開催されました。6月中旬、多くの著名デザイナーが足を運んで行われたその様子をレポートします。

賞金300万円、デザインコンペの最高賞は誰の手に!?

デザインコンペティションでゴールドリーフ賞を受賞した迎山直樹さんの「STチェアー」。
1990年に始まった国際家具デザインフェア旭川(IFDA)のメインイベントは、参加者も審査員も国際色豊かな木工家具のデザインコンペティションです。9回目を迎えた今年は36の国や地域から870点の応募があり、入賞作品6点と入選作品20点が発表されました。今年、ゴールドリーフ賞に輝いたのは木工家具作家の迎山直樹さんによる「STチェアー」(上写真)。彼が追求したのは軽さ、シンプルさ、丈夫さの3要素で、アーム付きの椅子でありながら2.7kgという驚異的な重量を実現しています。
実はこの椅子が選ばれるまでには、相当の議論がありました。際立ったインパクトをもたないベーシックなデザインがこの賞にふさわしいかどうか、審査員の間で意見が分かれたのです。しかし最終的には、細部にわたるフォルムや構造のクオリティが評価され、見事に最高賞を射止めました。このような椅子がゴールドリーフ賞に選ばれたことは、IFDAが考える理想的なデザインが日常に根ざしたものであり、技術と美意識の成熟に価値を置くスタンスであることの表れと言えます。
「カンポスチェア」でシルバーリーフ賞に選ばれた松岡智之さん。
入選作「サーモンベンチ」に座るジュタマット・ブーラナジェイドさん。
シルバーリーフ賞には、松岡智之さんの「カンポスチェア」(上写真、左)が選ばれました。これはアウトドア用の組み立て式の椅子で、畳んだ時は8本の棒を座面の布地で包み、コンパクトにして持ち運ぶことができます。アウトドア用の椅子はアルミやプラスティック製の安価なものが多く流通していますが、それを木でつくるという発想に新しさがあります。穴をあけた木と布地、4つの真鍮のピンだけで構成されていて、製造時には難しい加工が不要。組み立てる時間の楽しさも、審査員から評価されたポイントでした。
タイのデザイナー、ジュタマット・ブーラナジェイドさんが座っているのは入選作の「サーモンベンチ」(上写真、右)。1本の角材から1つの家具をつくることをコンセプトに、どこでも入手しやすく安価なパイン材を45度の角度でカットして、シンメトリーにジョイントしています。作品名は、はっきりしたパイン材の木目を、北海道名物でもある鮭に見立てました。デザインコンペの展示会では、それぞれのデザイナーが作品について説明し、多くの来場者からの質問に答えていました。こうしたコミュニケーションが、地域の人々のデザインへの理解を高める効果もあるに違いありません。
デザインコンペティションの展示会は旭川市科学館 サイパルで行われ、デザイナーが自作をプレゼンテーションした。
例年に比べて日本人の受賞が多かった今回のコンペですが、フィンランド、ドイツ、韓国、台湾などのデザイナーも入選を果たしていました。今年、審査員を務めたのはデザイナーの川上元美(審査委員長)や深澤直人をはじめ、ドイツのニルス・ホルガー・モーマンやスウェーデンのグニラ・アラードらデザイン界のキーパーソンたち。審査の際のやりとりがIFDA発行のパンフレットでありのままに公開されることも、コンペの信頼度を高めています。また、このコンペのもうひとつの特徴は賞金が高額なこと。グランプリのゴールドリーフ賞は300万円、シルバーリーフ賞には100万円が授与され、これまで多くの入賞作が製品化されてきました。審査委員長の川上さんは、第10回目となる3年後のコンペに向けて、新しい仕組みや世代交代の必要を訴えました。これまでに育まれたクオリティと成熟を受け継ぎながら、いっそう魅力的な催しへと成長していくことが期待されます。

旭川の家具シーンをリードするブランド

<a href="http://www.condehouse.co.jp/" target="_blank">カンディハウス</a>では、最新の加工機械とともに、多くの職人が仕事に打ち込んでいる。
旭川とその近隣の町には大小さまざまの家具メーカーや家具工房があり、家具協同組合の会員だけで約40社を数えます。その中で最も大きな影響力をもつのがカンディハウス。もともと旭川ではタンスなどの昔ながらの家具がつくられていましたが、カンディハウスの前身として1968年に創業したインテリアセンターがヨーロッパ仕込みの椅子をつくり始めたことが、旭川の家具づくりやデザインが発展するきっかけになりました。旭川市内にあるカンディハウスの工場では、材木の乾燥から最終的な仕上げまでをすべて行っています。コンピュータ制御で複雑な成形を可能にしたCNCワークセンターや、1頭分の大きな牛革を無駄なく使う自動裁断機など、最新のマシンも積極的に導入していますが、職人の目と手がものをいう工程がなくなることはありません。
吉野利幸さんがデザインした「MOLA LUX」は、ひとりの世界も存分に楽しめるソファ。
今回、IFDAに合わせてカンディハウスの本社ショップに数多く展示されたのは、10年以上にわたりミラノで経験を積んだデザイナーの吉野利幸さんによる「MOLA LUX」。さまざまな柔らかさのウレタンを数層にわたって重ね、いちばん上の層にたっぷりとフェザーを使うことで、心から寛げるソファになっています。組み合わせによってあらゆる空間に合わせられるユニット式ですが、吉野さんのイメージには、自分だけの世界に浸れるコンパクトな居場所がありました。一緒にデザインされたシェルフを背面に置いたり、サイドテーブルを組み合わせることで、必要なものをいつも手元に置いておくことができます。脚部やシェルフの棚板には、北海道産シラカバの積層材を使用。現代の生活にふさわしい生活感が、さまざまなディテールに表現されています。

まだまだある、旭川で生まれるデザイン

<a href="http://www.takumikohgei.com/" target="_blank">匠工芸</a>の工場に併設されたショールームでは、小林幹也による「yamanami」のフルコレクションを展示。「yamanami」の椅子「YC1」は、紐を使った独特の構造を採用。
<a href="http://www.arflex.co.jp/" target="_blank">アルフレックスジャパン</a>の自社工場のショールームでは、歴代のソファが展示された。
IFDA会期中は、毎年恒例の旭川家具産地展が同時開催されていて、多くの家具メーカーのショールームや工場をアポイントなしで見ることができます。最近、旭川家具の中でも注目度が上がっている匠工芸は、旭川市の隣町、東神楽町にある木工家具メーカー。“旭川家具”という呼び名は旭川周辺地域一帯の家具メーカーの総称なのです。
1979年に創業して以来、職人業を活かした製品を数多く製造し、高い評価を得てきた匠工芸の工場に併設されたショールームでは、新進デザイナーの小林幹也が手がけた「yamanami」が展示されていました。この地域を取り囲む大雪山系の山並みの曲線のように、人の体に馴染むフォルムを取り入れたという新作コレクションです。展示会場で最も目立っていたのは椅子「YC1」。シンプルな構造のフレームの背もたれ部分に紐を張り、天然革のパーツを組み合わせて、快適さを向上させています。この技術は匠工芸が得意とするもので、革のパーツは好みに合わせて動かすことができ、心地よく腰骨をサポートしてくれます。
一方、東京が拠点の家具ブランドにも、旭川に工場があるところがあります。これもまた、旭川の家具づくりのレベルの高さの証明です。イタリアにルーツをもつアルフレックスジャパンのライセンス製品や日本独自開発のソファは、2008年から旭川の自社工場で製造されています。こちらの工場の場合は、特に張地の加工や仕上げの美しさと、ソファの座り心地を決めるウレタンフォームを成形する業に特徴があります。大半の製品は受注生産品ですが、あらゆる工程がスピーディに進められるように多くの工夫が重ねられてきました。
工場併設のショールーム(上写真)には、アルフレックスの代名詞ともいえる1971年発表の名作「マレンコ」から、今年発表されたばかりの最新作まで、各年代を代表するソファを展示。誰もが自由に座って、世界レベルの快適さを体感することができました。洗練された空間の演出もさすがです。
若い職人も多く働く<a href="http://www.timeandstyle.com/" target="_blank">タイム アンド スタイル ファクトリー</a>。
海外ブランドにひけをとらないデザイン性と、独自の価値観の提案で人気の高いタイム アンド スタイル。その自社工場、タイム アンド スタイル ファクトリーも旭川家具産地展に参加してオープンファクトリーを行いました。オリジナル家具のうち、テーブルやキャビネットなど多くの家具は、ここでつくられています。大規模な工場ではありませんが、一人ひとりの職人が手を使って家具づくりをする様子は、今日のクラフトのあり方を感じさせます。また最終日にあたる6月20日の夕方には、工場の一角でジャズライブを開催。日頃は機械の音がこだまする空間が開放され、トランペットやウッドベースの音が響き渡りました。
IFDA会期中は、他にも深澤直人とD&DEPARTMENTのナガオカケンメイのトークセミナー、D&DEPARTMENT 2014 ASAHIKAWAというポップアップストア、北海道立旭川美術館での黒田辰秋展など、興味深い展示やイベントが数多く開催されました。旭川は、自然、歴史、文化など見どころの多い街。IFDAは、そんな土地柄と深く結びついたクリエイションを、日本はもちろん世界とつなげていく役目を果たしているようです。

国際家具デザインフェア旭川 http://www.ifda.jp