「古典だけでなく新作も評価されるようにスポットを当てたい」と語る九龍ジョー。
生島 ジョーさんは寄席演芸だとソーゾーシーを推していますよね。
九龍 ソーゾーシー(落語家の春風亭昇々、瀧川鯉八、立川吉笑および浪曲師の玉川太福からなる4人の創作話芸ユニット)は新作をつくる集団なんですよね。で、落語にしろ浪曲にしろ、どうしても新作より古典のほうが主流ですし、評価もされやすい。一方で、新作を生み出すのはとても労力がかかるうえ、リスクだってある。それでも新しい何かを生み出さざるをえないっていうエネルギーにもっと光が当たってほしいなと思うんです。これは寄席演芸にかぎらず、歌舞伎その他についても言えます。新作が生まれ続けるというのは、ジャンルが現代を生きていることのある種のバロメーターじゃないかと。
生島 (立川)吉笑は、8月に新宿末廣亭でやった立川流の余一会がすごく良かった。まだ客席が温まっていなかったのに、彼の『一人相撲』でゲラゲラ笑いました。あの日は吉笑、それに『親の顔』をかけた志の輔が際立ってました。
九龍 吉笑さん本人からその日の話を聞いたことがあります。そもそも立川流が寄席に上がること自体、そんなにあることじゃないんですよね。なのでけっこう気合いを入れて、結果まあまあウケたと。でも、その後に(立川)談春師匠や志の輔師匠が上がって、ちょっとしたマクラだけで爆笑させるのを見て、やっぱりかなわないと思ったそうです。
生島 志の輔は寄席が主戦場だったらどうなっていたんだろう? と思いましたよ。流れの重要性がわかっているし、自由自在だなと。12月に川崎の麻生でやった『井戸の茶碗』は笑い死にするかと思った。やっぱり志の輔はいいです。
立川吉笑。2010年立川談笑に入門。2012年二ツ目昇進。古典落語的な世界観で作られた新作落語を得意とする。著書に『現在落語論』がある。(写真:橘蓮二)
生島 瀧川鯉八もいいなあ。当たった時の爆発力がすごい。
九龍 彼は引き出しが多い。様々なスタイルの新作落語を作っていて、その振れ幅もすごいんですが、どれも「鯉八らくご」と呼びたくなる独特な世界観を備えています。
生島 『長崎』とか『ぷかぷか』の世界観は、よく作れるものだと感心しました。
九龍 『長崎』なんて古い日本映画みたいですよね。長崎の町歩き落語としての側面もある。ちょうど2020年真打に昇進して、11月に披露興行で末廣亭でトリを務めたのを見たんですけど、寄席の流れが鯉八で終わる多幸感ったらないですよ。その日のネタは『ぷかぷか』でした。
生島 アナーキーな世界に連れて行かれる幸福感がある。彼は寄席で活きるパターンでしょうね。「渋谷らくご」でもそうだけど、どんな流れできても最後の30分は彼の時間にしてしまう。
九龍 本人もトリぐらい気持ちいいものない、毎日やりたいって言ってました(笑)
瀧川鯉八。2006年瀧川鯉昇に入門。2020年真打昇進。新宿末廣亭にて、2020年1月下席夜の部(1月21日~30日)でトリをとる。交互出演で立川吉笑も出る予定。(写真:橘蓮二)
生島 歌舞伎の話をすると、(坂東)玉三郎スクールはすごいですね。
九龍 そうですね。この本でも書きましたが、玉三郎さんの芸の継承の仕方は新しいと思います。例えば(中村)梅枝と(中村)児太郎、さらに自分と、日替わりで『阿古屋』をやってみたりする。そのずっと前にやはり梅枝と児太郞に『秋の色種』で琴を弾かせていた。いろんなことが布石にもなっていて、芸の継承それ自体が、舞台上の物語となっている。
生島 若手女形は、可能な限り玉三郎の財産を受け継いでほしい。いま、歌舞伎界で教育者として際立っているのは、玉三郎と(市川)猿之助だと思いますね。
九龍 ここ数年、猿之助の新作は若手のステップアップの場にもなっています。
生島 『スーパー歌舞伎Ⅱ ワンピース』でも、「本水」のシーンを2人にやらせているじゃないですか。
九龍 はい、(坂東)巳之助と(中村)隼人のシーンですね。
生島 若手のブレイクのきっかけを作っているのが、猿之助の舞台だという気がするんです。2014年に『四天王楓江戸粧(してんのうもみじのえどぐま)』を明治座で出した時に、尾上右近がすごくよかった。彼は『ワンピース』でルフィを継いだし、澤瀉屋の芸である『黒塚』も踊りたいと意欲を見せてる。去年の『オグリ』では坂東新悟、中村玉太郎も良くてね。猿之助は若手に見せ場を作るのが上手だと思うし、それが歌舞伎の継承のスタイルなんでしょう。
九龍 あとこれも本に書きましたが、猿之助、(尾上)松也、そして右近という、大きな勉強会を主宰してきたという人たちの流れもあると思います。自分で興行を差配するのはとても大変だし、リスクもある。それでもやるというのは、それだけでリーダーの資質アリだと思いますので。