『スター・ウォーズ』完結編で活躍する日本人のCGモデラー、成田昌隆の仕事とは。

  • 写真:齋藤誠一
  • 文:泊 貴洋

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『スター・ウォーズ』シリーズの宇宙船、ミレニアム・ファルコンやスター・デストロイヤーの製作に携わる日本人がいる。CGモデラーの成田昌隆さんだ。『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』の公開に合わせ帰国した彼に、現在の仕事や異色の経歴、そして新作の見どころを聞いた。

成田昌隆●1963年、愛知県生まれ。NECを経て、日興證券入社。IT部門に勤務し、93年にアメリカへ赴任。2009年、46歳で転職してハリウッドVFX業界へ。デジタル・ドメイン社などを経て、12年にルーカスフィルムのVFX部門であるIndustrial Light & Magic(ILM)へ移籍した。近年の『スター・ウォーズ』シリーズのCGモデリングを手がける。

1977年、ジョージ・ルーカス監督による第1作が公開され、世界中の映画ファンを魅了してきた『スター・ウォーズ』シリーズ。2015年にはJ.J.エイブラムス監督による『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』が発表され、CGを駆使した新シリーズがスタートした。2019年12月20日には、42年の歴史に幕を下ろす完結作『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』がついに公開となる。

『フォースの覚醒』で4人のCGモデラーのひとりとして抜てきされ、以降の作品すべてに携わってきた日本人クリエイターが、成田昌隆さんだ。そもそも「CGモデラー」とはどんな仕事なのか? ハリウッドから帰国した成田さんに話を訊いた。

コンピューターの中で、プラモデルをつくる仕事。

ミレニアム・ファルコンのプラモデル。市販されているものを成田さんが組み立て、塗装したものだという。奥の青いモデルは、ハン・ソロの若き日を描いた『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』で活躍したファルコン。

「CGモデラーは、コンピューターの中でプラモデルをつくっている職業だと思っていただければいいと思います。プラモデルは、箱を開けると部品が入ってますよね。でも我々の箱には部品が入ってない。だから部品1個1個をコンピューターでクリエイトしながら、最後に組み立てて形にします」

初期の『スター・ウォーズ』では、飛行機や戦車などのプラモデルの部品を模型に貼り付ける「キット・バッシング」の手法で製作されていたミレニアム・ファルコンやスター・デストロイヤー。『フォースの覚醒』以降は現存する模型を参考にしながら、コンピューター上でキット・バッシングを行うような形でCGモデルがつくられてきた。

プラモデルをよく見ると、ハリソン・フォード演じる「ハン・ソロ」や、その相棒「チューバッカ」が搭乗している。
ディテールまでこだわり、プラモデルといえどもこれはアートの域。実は成田さんは全米模型コンテストで優勝した経歴をもつ。プラモデルづくりで培ったスキルが現在の仕事にも生かされているという。

成田さんの仕事は、ルーカス時代のファルコンやデストロイヤーをCGで再現するだけではない。たとえば『フォースの覚醒』では、新型のデストロイヤーを登場させようということになり、アート・ディレクターがイメージビジュアルを作成。成田さんはその二次元の絵をもとに、デストロイヤーを構成する部品の形や大きさ、厚さなど細部を想像してCGで製作していった。

「絵にないところを自分で考えて、つくり込んでいく。それが非常に難しいところです。しかもデストロイヤーは、実際は3000mの船なので、部品も膨大にある(笑)。でもそれをつくるストレスより、喜びの方が大きいですね。自分がつくったモデルを、全世界の人に見てもらえるわけですから」

成田さんの仕事道具である無地のノートにはスケッチがいっぱい。表面からはほとんど見えない部品や構造まで考え、宇宙船をつくり上げている。
『フォースの覚醒』で登場した新型スター・デストロイヤーをつくり上げる時に描かれたアイデアスケッチ。イメージの上書きなどに付箋を活用している。

成田さんが現在の仕事をするようになったのは、いまから10年前、なんと46歳の時からだ。子どもの頃から洋画好きだったが、「ハリウッドなんて遠い夢の世界」と、証券会社のコンピューター部門で働いていた。転機は、1993年のアメリカ支社への転勤と、95年公開のある映画との出合いだった。その映画とは、世界初のフルCG長編アニメーション『トイ・ストーリー』。

「ものすごく感動してエンドクレジットを見ると、小西園子さん(ピクサー)という日本人の名前があったんです。『こんなに素晴らしい映画をつくる人たちの中に、日本人がいる』と大変ショックを受けました。アメリカで暮らしていて『ハリウッド映画も、自分と同じ人間がつくってるんだ』と肌で感じたこともあり、得意のコンピューターを使えば、映画の世界に入れるかもしれないと思ったんです」

成田さんがつくり上げた膨大なデストロイヤーの部品の一部。「3000mの船の部品を1個1個つくると永遠に終わらない。400個くらい部品を作って、複製しながらはめ込んでいきました。これらの部品は、その後つくられるほとんどすべてのモデルに使われていて、『スター・ウォーズ』の世界観を形成しています」
パーツを組み合わせて完成したデストロイヤー。

夢が再燃し、一念発起してCGの道へ。

『トイ・ストーリー』をきっかけに独学でCGを学んだ成田さんは、そのスキルが認められ、3年目には大手スタジオに入るチャンスをつかんだ。

「『シュレック』をつくっていた大手の会社から声がかかったんですが、ちょうど父親が急逝したり、娘が生まれたりして、いつまでも夢を見ている自分が嫌になったんです。それでパソコンから離れて、それまで構ってあげられなかった5歳の息子と、プラモデルをつくって遊ぶようになったんですよ。そうしたら自分がハマって、4年後には全米模型コンテストで優勝してました(笑)」

それから4年後、業務縮小により帰国辞令を案じた成田さんは、「いまさら帰れと言われても……」と悩んだ。そんな時に、知人がドリームワークスに入社。社内見学をさせてもらったところ、くすぶっていた火が燃え上がった。そしてついに証券会社を辞めて専門学校に入り、CG技術をマスター。1年後、46歳にしてCMの仕事でデビューし、翌年『エルム街の悪夢』(2010年)で映画制作に初参加した。

第1作の10年前を描いた『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』のファルコン。ファンに馴染み深い姿になる変遷を描くため、CGモデリングに120日間を費やして「ほぼゼロからつくり直した」という。

CGモデラーになってからは、『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉』(11年)や『アイアンマン3』(13年)などでリード・モデラーとして活躍。そして巡ってきたのが『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の仕事だった。

「『スター・ウォーズ』との出会いは、高校1年生の時に公開された第1作。ストーリーも面白いし、もともと特撮好きだったので、ピアノ線が見えないことや、あたかも宇宙船に乗っているかのような映像に驚愕しました。それから見続けてきた映画でしたから、『次はスター・ウォーズよ』と書かれた仕事のメールを見た時は、嘘だと思いました。『あのスター・ウォーズ? 間違いじゃない?』って聞き直したくらいです」

『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』の時につくった、ファルコンのCGモデル。手前の切り離し部分のデザインにこだわり、「案をいくつか出して、スーパーバイザーに選んでもらった」という。
こちらが上のモデルのBパターン。切り離し部分のデザインや長さが微妙に違うのがわかるだろう。

『フォースの覚醒』以降、一貫してこだわってきたのは「スター・ウォーズの世界観を壊さず、リスペクトすること」。ルーカス時代の模型をベースにしつつも、戦艦大和のパーツを加えるなど、成田さんのオリジナルアイデアも入れて進化させてきた。

「一番嬉しいのは『CGに見えない』と言われること。ファルコンやデストロイヤーが、いかにも本物に見えるっていうのが一番の賞賛の言葉ですね」

海外の『スター・ウォーズ』関連書籍でも紹介されている成田さん。46歳で思い切って新たな道に飛び込み、映画の歴史に名を刻むひとりになったのだ。

遠回りしたものの、好きな仕事をする日々。「毎日、楽しく仕事をさせてもらってます」と笑う。最後に、『スター・ウォーズ』が42年にわたり愛されてきた理由と完結編の見どころを聞いた。

「愛されてきたのは、家族をテーマにしたストーリーの力があったから。物語が普遍的だったからこそ、見る人それぞれが共感して、感情移入できたんだと思います。新作の『スカイウォーカーの夜明け』は、42年間の集大成。我々も力を出し切って、最高のものにしようという意気込みでつくりました。出てくるモデルはかなりグレードアップされていると思いますので、ストーリーはもちろん、そこにも注目してもらえたら嬉しいですね」

『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』

監督:J.J.エイブラムス
出演:デイジー・リドリー、アンソニー・ダニエルズ、ジョン・ボイエガ、オスカー・アイザックほか
2019年 アメリカ映画 2時間22分
12月20日公開
https://starwars.disney.co.jp/movie/skywalker.html