日本を知る衝撃を世界へ、「ジャパン・ハウス」という新たな試み。

  • 写真:杉田裕一(p2~3)、花屋健昭(p3)
  • 文:猪飼尚司

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テクノロジーからファッション、食、建築・デザインに至るまで、日本には豊かで美意識に富んだ文化があふれています。こうした日本の魅力を世界に向けて積極的に発信するプラットフォーム「ジャパン・ハウス」が、ロンドン、ロサンゼルス、サンパウロの3都市を拠点として、本格的に始動します。

他の2都市に先駆け、2017年4月に「ジャパン・ハウス サンパウロ」がオープン。記念すべき開館初日には、7000人もの来場者が訪れた。©ジャパン・ハウス サンパウロ事務局

「日本は遠くて、物価が高い」という印象から、かつては海外からこの国を訪れる人はそれほど多くありませんでした。しかし21世紀に入り、インバウンドは大きく成長。いまや日本のあらゆる観光地で、外国人の姿を見ることができます。それでも未だにステレオタイプで古式ゆかしい日本の姿を追い求める人も多く、現代の日本が誇るハイレベルな文化が確実に世界に浸透しているとは言いがたいように思われます。そこで、より深く、より多くの人々に本質的な日本の姿を理解してもらうプラットフォームとして、外務省がスタートさせたプロジェクトが「ジャパン・ハウス」なのです。

このジャパン・ハウスは、ギャラリーやシアター、セレクトショップ、レストラン、ライブラリーを備えた複合的な文化・商業施設です。各方面で活躍するクリエイターや企業、自治体などとタッグを組みながら、ハイカルチャーとサブカルチャー、最新テクノロジーと伝統的な職人技などを、多様な要素を複層的にかけ合わせながら、刺激的な日本の情報をていねいに発信していきます。この活動は、海外へアピールするためだけのものではありません。日本人自身が自国の魅力を改めて見つめ直し、新たな視点や解釈を創出することも大きな目的です。

均一化の時代だからこそ、地域の魅力にフォーカスを。

総合プロデューサーを務める原研哉さん。日本を代表するグラフィックデザイナーのひとりであり、日本デザインセンター代表取締役社長、武蔵野美術大学教授も務めている。

「世の中では、驚くべきスピードでモノや情報が駆け巡り、暮らしがグローバル化する一方で、地域ごとの特性が薄れ、世界はどんどん均一になっています。長き歴史の中で独自性に富んだ文化を育んできた日本でさえも、世界的に見れば、まだその魅力を本当に理解されていないのではないでしょうか」

「ジャパン・ハウス」の総合プロデューサーを務める原研哉さんは、日本を訪れるインバウンドに頼るのではなく、いまこそ日本が世界へ飛び出し、自らの付加価値を示す時だと語ります。「誰しもが描くようなありきたりの日本ではなく、まだ多くの人に知られていないフレッシュで感度の高い日本を紹介して、強い印象を与えたい。それはもしかしたら、私たち日本人から見ても衝撃的な内容になるかもしれません」と、原さんは解説してくれました。

隈研吾さんが設計を担当した「ジャパン・ハウス サンパウロ」の外観。樹齢100年超えの国産ヒノキを使い、高度な職人技を必要とする「地獄組み」で仕上げた。©ジャパン・ハウス サンパウロ事務局 / Rogerio Cassimiro
サンパウロの施設内部にあるライブラリーには、日本関連の書籍が並ぶ。ブックディレクターの幅允孝さんが選書を担当している。©ジャパン・ハウス サンパウロ事務局 / Rogerio Cassimiro

「日本」というユニークなコンテンツを厳選して抽出することが、いかに人の興味を惹きつけるかは、昨年4月に先駆けてオープンした「ジャパン・ハウス サンパウロ」が証明しています。ジャパン・ハウス サンパウロは、元銀行だったビルを建築家の隈研吾さんがリノベーションしました。印象に強く残るヒノキのファサードの他、和紙職人の小林康生さんが、内部空間を区切るメッシュパネルを和紙でコーティングして仕上げるなど、建物全体で日本を表現しています。

年間13万人程度という予測来場者数を、開館から11カ月現在で大きく上回り約70万人を突破。地元メディアのみならず、『ニューヨーク・タイムズ』でも記事として取り上げられるなど、世界の主要媒体も続々と興味を示しています。

「ジャパン・ハウス ロサンゼルス」のオープニングを飾ったのは、森永邦彦さんが率いるブランド「アンリアレイジ」。最新テクノロジーとファッションを融合する彼らの作品から、光をテーマにしたものを紹介した。©ジャパン・ハウス ロサンゼルス事務局
館内のセレクトショップで販売しているのは、食、インテリア、台所用品、ステーショナリーなど、幅広いラインアップから実際に生活の中で有効に使えるものばかり。セレクションは、シボネやトゥデイズスペシャルなどのショップを展開するウェルカムが担当している。©ジャパン・ハウス ロサンゼルス事務局

さらに昨年12月には「ジャパン・ハウス ロサンゼルス」が、アカデミー賞の授賞式会場として知られるドルビーシアターと同じ、ハリウッド&ハイランドセンターの中に登場しました。ふたつに分かれたフロアのひとつをアーティストの名和晃平さんが、そしてもうひとつを「マンダリン オリエンタル 東京」などを手がけるインテリアデザイナーの小坂竜さんが担当するという充実ぶり。

「まだ誕生して間もなく、半分以上の空間はこの夏に完成することから可能性は未知数ですが、ハリウッド&ハイランドセンターのポテンシャルとジャパン・ハウスの企画力で、観光客のみならずロサンゼルス在住の人々に興味をもっていただける場所になってほしい」と、原さんも期待を寄せています。

世界に目を向ければ、地域にも活力が生まれる。

「『ジャパン・ハウス』を通して生まれる新しい日本の価値は、観光の成長や市場の成熟につながるはず」と、原研哉さんは語る。

「世界における日本の売り方は、ときに類型的すぎたり、大げさな時があります。私たちが『ジャパン・ハウス』で紹介したいのは、ありのままの素敵な日本。その情報をケレン味なく伝えるために、コンテンツの準備は時間をかけ慎重に行っています」と、原研哉さんは解説します。

卓越した日本各地の地場産業も、ジャパン・ハウスが世界に紹介したいと考えるコンテンツのひとつ。今年オープンする「ジャパン・ハウス ロンドン」では、新潟県燕三条地域の「燕三条 工場の祭典」と連携した企画展を秋に実施します。

「ジャパン・ハウス ロンドン」は、目抜き通りのケンジントンストリート沿いに誕生。施設設計は片山正通さんが担当する。模型写真提供:Wonderwall® ©ジャパン・ハウス ロンドン事務局 / Japan House London
新潟県三条市で行われた記者発表では、ジャパン・ハウス ロンドンの企画局長、サイモン・ライトさん(右)と國定勇人三条市長が、今後の日本、そして地域活性化の可能性について対話を交わした。

「燕三条 工場の祭典」では、優れた金属加工技術で知られる燕三条地域一帯の工場を、一斉に開放。昨年は4日間で5万人を超える来場者を記録しました。特別な観光地でもなく、古くから純粋にモノづくりに従事してきた地域の、ありのままの姿を公開するだけ。それでも普段見られないもの、まだ知らないことに触れられる機会を設けるだけで、全国から人が集まり、感動して帰っていく。

これはまさしくジャパン・ハウスが目指す方向性と一致しており、ロンドンの人々にも、きっと強いインパクトを与えるものだと考えられます。

2017年10月には第5回となる、「燕三条 工場の祭典」を開催。モノづくりに欠かせない、火のイメージを模したピンクストライプが印象的だ。©「燕三条 工場の祭典」実行委員会
カイ・ボイスンのカトラリーなどを製造する「大泉物産」で、製作の様子を興味深く見つめる見学者たち。©「燕三条 工場の祭典」実行委員会

この秋以降は、各々のジャパン・ハウスで、日本の地域と連携した独自の企画が次々と打ち立てられていく予定です。各地で次世代の日本ファンが生まれる震源地になるとともに、大きな希望と思想をもって、自らの魅力を外へ伝えようとする日本の人々を支援する拠点としても、今後さらに活躍していくことでしょう。

ジャパン・ハウス

●ジャパン・ハウス サンパウロ / JAPAN HOUSE SÃO PAULO
Avenida Paulista, 52, São Paulo
●ジャパン・ハウス ロサンゼルス / JAPAN HOUSE LOS ANGELES
Hollywood & Highland Center 6801 Hollywood Boulevard, 2F and 5F
Los Angeles,. CA 90028
●ジャパン・ハウス ロンドン/JAPAN HOUSE LONDON
101-111 Kensington High Street London W8 5SA

問い合わせ先/ジャパン・ハウス
www.japanhouse.jp