1958年に放映を開始した『月光仮面』のリメイクだが、社会について考えさせられる大人向けのストーリーに。ジョニー大倉や地井武男、ガッツ石松など豪華キャストにも注目。『月光仮面 THE MOON MASK RIDER』(監督:澤田幸弘 1981年 日本ヘラルド映画 販売元:KADOKAWA)
月光仮面は、戦後の最初期に人気となったテレビヒーローで、その後の戦隊モノや仮面ライダーシリーズに多大な影響を与えた存在だ。テレビ放映は1958年。高度経済成長が始まろうとしていた時代である。正義の味方の存在を、おそらく誰もが素直に受け止めていた。
月光仮面の存在は知っていたが、自分が子どもの頃にリメイク版の映画が公開されていたことは知らなかった。81年の映画『月光仮面 THE MOON MASK RIDER』である。当時はさほど話題にならなかったはずだが、観てみるとわが人生でも最高レベルの衝撃作品だった。
まず、敵の存在が突き抜けている。理想国家「ニューラブカントリー」の建国に向け活動を行うカルト宗教団体が登場する。ヒロインの志穂美悦子が演じているのは、ギャング組織「レッドマスク団」の構成員。レッドマスク団は教団の下部組織で、信者たちに隠れて資金集めをしている。これらのモデルになっているのは、おそらくはガイアナの人民寺院事件(78年)とブラックパンサー党(60~70年代)。前者は、カルト宗教人民寺院に集まった1000人近くの信者が集団自殺を遂げた事件だ。後者は、アメリカの過激な黒人解放グループ。子ども向けとは思えない題材が取り上げられている。
話を進める前に、映画でどのように銀座の街が描かれているかを振り返っておきたい。志穂美が当時のことをブログに書いている。
「物凄くごった返す歩行者天国を舞台に、さっそうと駆け抜けた、、ような、、、アクションしたっけ!?」
実際にはやや様子が異なる。銀座での場面は存在するが、人混みの中を駆け抜けてはいない。カットされたのかもしれない。彼女の記憶通りなのは、人混みの中での隠し撮り。映画には、ぶっつけ本番の撮影と思われる場面が多数使われている。映画に映る当時の銀座の歩行者天国は、いまよりも人が多く活気がある。この銀座に月光仮面が降臨する。
1971年開業の老舗ファッションビルである銀座コア。開業当時はラジオ番組の公開録音なども行われていた。
カルト教団に対抗するのが正義の味方である月光仮面だが、そう単純な話でもない。強盗事件が起きた後日、警察のもとに月光仮面から、奪われた現金を返却するという電話がかかってくる。取引の場所は休日の銀座。歩行者天国が開催されている最中に、である。
警察が電話の指定通り、日曜日の歩行者天国で待っていると、確かに現金が入った自走式のトランクが発見される。だが、中には4億5000万円しか入っていなかった。奪われた額は5億円である。トランクの中には月光仮面からの手紙が添えられていた。「手数料として10%差し引かせていただきます」。この主張に警察も世間もあっけにとられてしまう。
月光仮面が姿を現すのはその直後だ。銀座4丁目の交差点近くに位置する、銀座コアの屋上に月光仮面が立っているのを子どもが見つける。ちなみに銀座コアは、3基のシースルーエレベーターが特徴的なビル。71年に開業し、当初は松下電器のショールームだった。現在はショップとレストランがテナントに入る複合商業施設である。
現在のイグジットメルサ。1階から8階までカフェやアパレルショップが並び、免税店も入っている。
月光仮面が立っているコアの向かいにはニューメルサがある。ニューメルサの開業は77年。“ニュー”が付いたネーミングと四角い枠が並ぶファサードが70年代的である。メルサのネーミングは、「名鉄エレガンス・レディース・ショッピング・アベニュー」の頭文字を略したもの。このニューメルサは2015年9月に名称をイグジットメルサに変更し、リニューアルオープンしている。映画の中のニューメルサ付近には、銀座婦人服ダイアナ、ヨシノヤ靴店などの看板が見える。こうした老舗は看板こそ当時のままではないが、いまも営業している。
突如ビルの上に現れた月光仮面は、ヒーロー登場というよりも、やばい奴が現れたという印象を抱かせる。演出上の意図もそれに近いものだろう。