自宅のように寛げる、新スタイルのホテルブランド「ザ セレスティンホテルズ」とは?

  • 写真: 森山将人(mili)
  • 文:小久保 敦郎

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三井不動産グループの「ザ セレスティンホテルズ」は、2017年秋に誕生したばかりのホテルブランド。「ホテル ザ セレスティン京都祇園」、「ホテル ザ セレスティン銀座」、そして「ホテル ザ セレスティン東京芝」が順次開業し、注目を集めています。今回、そのうち都内のふたつを雅楽師の東儀秀樹さんが訪れました。

「ホテル ザ セレスティン東京芝」のエントランスに立つ東儀秀樹さん。リブランドオープン後、初めての訪問です。

三井ガーデンホテルズをはじめ、30年以上にわたりホテル事業に取り組んできた三井不動産グループ。昨年秋、ハイクラスの新ブランドとして「ザ セレスティンホテルズ」を立ち上げました。
コンセプトに掲げるのは、滞在そのものが旅の目的となる“デスティネーション型ホテル”としてゲストに愛されること。そのための仕掛けとして、あえて空間デザインを画一化せず、その土地ならではの個性を活かしたといいます。実際、どのようなつくりになっているのでしょうか。
体験したのは、雅楽師として活躍し、全国ツアーでホテルに泊まることも多い東儀秀樹さん。まずは2002年開業の「セレスティンホテル」を大幅に刷新し、昨年11月にリブランドオープンした「ホテル ザ セレスティン東京芝」へ。

薩摩藩江戸上屋敷跡という、土地の記憶を継承。

鹿児島の陶器・黒薩摩をイメージしたタイルや蒲生和紙などを組み合わせ、薩摩切子のデザインを表現した「KIRIKO WALL」。

エントランスからロビーへ足を踏み入れると、そこはハイクラスのホテルにふさわしい空間。大理石の床は艷やかに磨かれ、天井まで約7mという贅沢なスペースに心躍ります。
「ホテル ザ セレスティン東京芝」が立つのは、かつて薩摩藩江戸上屋敷があった場所。歴史上の重要な舞台として、この土地の記憶を継承するための意匠が、館内各所にちりばめられています。
象徴的なのは、ロビーで眼を引く壁面アート「KIRIKO WALL」。これは、江戸時代に生まれたガラス工芸品の薩摩切子をモチーフにしたもの。また、江戸小紋柄の間仕切り「KOMMON SCREEN」には、江戸の桜と薩摩藩島津家の家紋があしらわれています。
それらを目にした東儀さんは「なにか見たことあるな、と記憶を探りたくなるデザイン。面白いですね」と穏やかに笑みを浮かべます。

宿泊者専用ラウンジで寛ぐ東儀さん。テーブルは、ウォールナットの無垢の天板が美しい。有料でアルコール類もオーダー可。

客室フロアは14階から17階まで。14階でエレベーターを降りると、目の前にテーブルやソファを配した空間が現れました。そこは“邸宅のリビングルーム”をイメージしてつくられた、宿泊者専用のラウンジ。
セルフサービスながら24時間フリードリンクが用意され、ゲストは思い思いの時間を過ごすことができます。雅楽師としての音楽活動だけでなく執筆の依頼も多い東儀さんは、ホテル滞在中デスクに向かうこともあるそう。
「部屋にこもって仕事をするだけでなく、オープンなラウンジという選択肢もある。自分の気分をなぞって場所をチョイスできるのはいいですね」。そう言いながら周囲を見回した東儀さんは、窓の外も気になる様子。

ラウンジから直接アクセスできるパティオ。オープン間もなく植栽は若いですが、やがて黒いパーゴラが緑で覆われていきます。

窓の外、つまりラウンジの両脇にはパティオがありました。ウッドデッキの上に置かれているのは、ソファなどのアウトドアファニチャー。周囲をとりまく木々の葉が時おり風に揺れ、見上げれば空が広がっています。開放的なスペースは計700㎡以上。
「海外みたいだね。一瞬、どこにいるのかわからなくなる」と東儀さん。「都会的なホテルなのに、都会であることを忘れさせる場所がある。ホテルの中でどう過ごすのか、いろいろなイメージが膨らみます」
目線の先を追うと、パティオに面した場所にあるフィットネスルームを見つけた模様。「身体を動かせるジムもある。長期滞在にも向いていますね」

宿のコンセプトは、「CROSS OVER TOKYO」

大島紬に囲まれた客室「つむぎ」。「一般の人はあまり触れる機会がない織物。特に外国人には喜ばれそうですね」と東儀さん。

ホテルスタッフに案内された客室は、スペシャルルーム「つむぎ」。大きな窓から明るい光が差し込むなか、ベッドとデスクコーナー、ソファセットがワンルームで完結しています。
玄関から室内を横切り、ソファへ向かった東儀さんは「窓とベッドの間にゆったりしたスペースがあり、移動にストレスがない。とても過ごしやすそうです」と感想を口にします。
この客室がスペシャルルームと呼ばれる所以は、特別なインテリアでアレンジされているから。世界三大織物のひとつとされ、鹿児島県の伝統工芸である大島紬が室内のそこかしこに使われているのです。

クッションの他、ヘッドボードにも大島紬を大胆に取り入れています。泥染めなど滋味な印象の大島紬をモダンに再構築。

最も大きな生地として使われているのが、ベッドの足元にかけられたフットスロー。クッションにも取り入れる他、ヘッドボードやランプシェードなど思わぬ場所にも大島紬が。
「普段着の生地として生まれたのに、大変な手間をかけるのが大島紬のすごいところ。日本人らしい美学を感じます」と、かつて着物のデザインをしたこともある東儀さん。
「ロビーに薩摩切子や江戸小紋柄をモチーフにした意匠があり、客室に入ると大島紬が身近なファブリックに使われている。少しずつ、ホテルの意図するストーリーが見えてくるのは楽しいです」
このホテルのコンセプトは、“伝統と革新”や“欧米文化と日本文化”など相対する要素を融合・昇華させる「CROSS OVER TOKYO」。
「伝統的なモチーフながらモダンを感じさせる、そのバランス感覚こそが日本的。ここでの滞在は、受け継がれるものの価値を知り、日本のすごさに気づくひとときになるかもしれません」と東儀さんは話します。

ステンドグラスのようなランプシェードも大島紬を組み合わせてカラフルに。テキスタイルとしての可能性を感じさせます。

「ホテル ザ セレスティン東京芝」とは異なる、銀座ならではの個性。

大きく重厚な扉が印象的な「ホテル ザ セレスティン銀座」。深夜以外の時間帯はドアマンがゲストを出迎えます。

次に東儀さんが訪れたのは「ホテル ザ セレスティン銀座」。昨年10月、都内初の「ザ セレスティンホテルズ」として、外堀通りに面した好立地で開業しました。
日中はドアマンが脇で控え、ブロンズ調の重厚な扉で閉ざされたエントランスは、高級ブティックを彷彿とさせるつくり。中に入り、背後で扉が閉まると、それまで包まれていた街の賑やかさが瞬時に消えたことに気づきます。
コンセプトは「華麗なる静謐」。銀座の地にふさわしい上質さと高級感を備えつつ、喧騒とは隔絶された寛ぎの空間でゲストをもてなします。

リビングで窓外の景色を楽しむ東儀さん。足元からまっすぐのびる国会通りと国会議事堂の姿も俯瞰できます。

フローラルハーブのやわらかな香りに癒されるロビーからエレベーターに乗り、東儀さんが案内されたのは、客室「セレスティンデラックス」。リビングとベッドルームが二間に分かれ、リビングの一角には書斎エリアも設けられています。
そんな室内の様子を見て「まるで家みたい。落ち着けますね」と東儀さん。“銀座に第2の書斎を”というルームコンセプトにも納得の様子。
「リビングとベッドルームが扉で仕切れるのもいい。ホテルとはいえ、たとえ気心が知れていても他人にベッドは見られたくないもの。これなら余計な気を使わずに仕事の打ち合わせができますよ」
床から天井まで続くハイサッシも「部屋が広く感じられる。よく考えられてますね」と設計面での工夫を指摘します。

三方を壁に囲まれ、自分の時間に没頭できる書斎エリア。お気に入りの写真集を見つけ「知的好奇心を刺激されます」と東儀さん。

東儀さんにとって、ホテルは「地域を楽しむための拠点」なのだといいます。実は人里離れたリゾートより、街の雑踏が大好き。眼下を人やクルマが往来し、ビルがぎっしりと連なる窓からの眺めに「すごくいい。ワクワクしますね」と興奮を隠しません。
「ホテルから一歩外に出れば、そこは銀座。街歩きを存分に楽しみ、戻ってくれば喧騒とは無縁の空間で寛ぐことができる。立地に恵まれているだけでなく、客室も家のように使い勝手がいい。一度利用すれば、その魅力に気づくはずです」と東儀さん。

壁面のミラー効果で部屋の広がりを感じられるベッドルーム。マットレスはサータ社の最高級クラスを採用しています。

また、最上階には東京・青山に本店を構えるレストラン「GINZA CASITA」が。ホスピタリティに重きを置く、その姿勢がホテル側とカシータ側で一致し、ホテル初出店となりました。
銀座という土地柄、夜遅くまで飲んでホテルに戻られる方も多いもの。翌朝起きるのが遅くなっても、朝食を食べ損ねてしまわないよう、チェックアウトの12時までオープンしています。

レストランの隣にはバースペースも。夜の銀座に出かけずに、ホテルからの夜景を眺めながらゆっくり酔いしれるのも乙なものです。

今回ふたつのホテルを訪れてわかったのは、同じ「ザ セレスティンホテルズ」というブランドにもかからわらず、芝と銀座では別々の体験ができるということ。それが「このホテルに泊まってみたい」というゲストの動機に結びついているようです。

ホテル ザ セレスティン東京芝
住所:東京都港区芝 3-23-1
TEL:03-5441-4111
全243部屋
チェックイン15時、チェックアウト12時
つむぎ¥35,000〜、モデレートダブル ¥17,600~

ホテル ザ セレスティン銀座
住所:東京都中央区銀座8-4-22
TEL:03-3572-3111
全104部屋
チェックイン15時、チェックアウト12時
セレスティンデラックス¥52,800〜、スーペリアダブル  ¥22,100~
朝食:6時30分〜 12時
夕食、バー:17時~26時(月〜土、祝前日)、17時〜24時(日曜、祝日)

※すべて1部屋の価格。価格は日々変動します。