噂のビームス ジャパンは、5階「フェニカ スタジオ」が見どころ満載!

  • 写真:江森康之
  • 文:牧野容子

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鳴り物入りでニューオープンし話題を集めている新宿の「ビームス ジャパン」。“日本のものづくり”の魅力を多方面から発信しているなかでも、ぜひ注目しておきたいのが5階の「フェニカ スタジオ」です。

世界のいいものを紹介し続けてきたセレクトショップBEAMSは、今年で創業40周年。その節目の年に、あらためて日本に目を向ける“チームジャパン”プロジェクトをスタートさせました。拠点となるのは、リニューアルオープンしたショップ「ビームス ジャパン」。あらゆる角度から新旧の日本のものづくりの魅力を発信していきます。今回はその中でも、クラフトの分野を担う「フェニカ スタジオ」に注目して、仕掛け人であるディレクターのテリー・エリスさん、北村恵子さんにお話をうかがいました。

日本のクラフト(手仕事)にフォーカスした新企画。

装い新たに誕生した「ビームス ジャパン」
5階の「フェニカ スタジオ」。バーナード・リーチやシャルロット・ペリアンへのオマージュが随所に。

4月の末、東京・新宿にセレクトショップBEAMSの店舗「ビームス ジャパン」がニューオープンしました。そこは今年、創業40周年を迎えたBEAMSが新たに立ち上げた“チームジャパン”プロジェクトの拠点として、さまざまな切り口で日本の魅力を紹介していくショップです。地下1階から地上5階まで、日本発のファッション、日本各地の銘品や工芸品、日本のアートやサブカルチャー、そして日本の食など、バラエティに富んだ古今東西の“ジャパン”が集結し、見ているだけでも楽しい館内。なかでもクラフト(手仕事)にフォーカスした5階の「フェニカ スタジオ」は、見どころ満載です。

「フェニカ スタジオ」は従来のレーベル「フェニカ」の新企画です。2003年に誕生した「フェニカ」はBEAMSのレーベルの中でもちょっとユニークな存在として知られています。というのも、「フェニカ」は“デザインとクラフトの橋渡し”をテーマに、日本の伝統的な手仕事と北欧のデザインを中心としたラインナップを展開し、ファッションのみならず、インテリアや雑貨、食品まで、衣食住をトータルで提案しているからです。そんな「フェニカ」の源流をたどると、1994年にスタートした「ビームスモダンリビング」というセクションに行き着きます。ファッションのBEAMSが、洋服と同じフロアで北欧のデザインやアメリカ・ミッドセンチュリーの家具、柳宗理のバタフライスツールなどを販売し、ライフスタイルの提案をするようになったのは、そこが始まりだったのです。

ディレクターのテリー・エリスさんと北村恵子さん。

「ビームスモダンリビング」のスタート時から今回の「フェニカ スタジオ」に至るまで、ディレクターとして企画やバイイングを手がけ、日本と世界のクラフトを紹介し続けているのが、テリー・エリスさんと北村恵子さんのお二人。「フェニカ」の世界観は、彼らを抜きにしては語れません。

二人はこれまで国内外の各地へ出かけて家具や雑貨、器などを集め、自分たちがとことん好きになって納得したものを店の棚に並べ、その魅力を発信してきました。特に「フェニカ」になってからは、沖縄や小鹿田、益子などの民藝のやきものも多く取り扱うようになりました。
たとえばいま、フィンランドのアルテック・スツールのような北欧モダンデザインと民藝のやきものを組み合わせたインテリアスタイルを楽しむような人は珍しくありませんが、これは「フェニカ」が最初に提案したものといっていいでしょう。
お二人にとって今回の「フェニカ スタジオ」は、これまでの20数年間の取り組みを改めて振り返り、編集していくという意味で、なかなかいい機会になった、とのこと。

木と竹を組み合わせたレジカウンター。これもシャルロット・ペリアンが好んで使用したスタイル。壁に掲げた紅型のうちくい(沖縄の風呂敷)には、中心に柚木沙弥郎さんデザインのフェニカのロゴマークが。

「『ビームス ジャパン』の中のフェニカとして、ここではより日本の手仕事や作家に特化した提案をしています。やきものを作品としてじっくり見ていただけるような棚も用意しました。染色工芸家の柚木沙弥郎先生が新しいロゴマークを考えてくださり、バーナード・リーチやシャルロット・ペリアンなど、日本の民藝と関わりの深い人たちのイメージとつながる棚や壁面をつくるなど、内装にも私たちの希望を多く取り入れていただきました」と北村さん。 

斜めに配置した籐むしろがヘリンボーン柄のように見える壁は、イギリス人陶芸家バーナード・リーチが設計した「リーチ・バー」(大阪、リーガロイヤルホテル)の壁を思わせ、ギャラリーの展示のようにゆったりとやきものを見せる棚は、コルビュジエの家具の多くを手がけたフランス人デザイナー、シャルロット・ペリアンへのオマージュ、という具合に、二人のこだわりが詰まった空間には、民藝ファンがへぇと驚き、嬉しくなるような発見が随所に散りばめられています。

つくり手とつくり手、クラフトとデザインの橋渡し。

「MOGA Kokeshi」は赤と青の2色。頭の形や目を閉じた表情は、ほぼオリジナルのまま。製作者は、佐藤正廣さんの息子、康広さん。大¥10,800、小¥7,560
大きなものは、石原日出男 復刻創作こけし「槐(えんじゅ)の子」¥37,800、小さなものは「槐の子 fennicaディレクション」¥10,260

では、「フェニカ スタジオ」のラインナップの中から、いくつかご紹介していきましょう。「フェニカ」には、日本の伝統的な手仕事とコラボレートしたプロダクトがあります。

たとえば、2014年には宮城伝統こけしの仙台木地製作所との共同制作で、従来のこけしの絵付けでは使われることのなかった青色を用いた「INDIGO  Kokeshi」を発表、大きな話題を呼んだことは記憶に新しい出来事です。今回は「フェニカ スタジオ」のオープンに寄せて、同じ工房に依頼をし、ボーダー柄が印象的な「MOGA Kokeshi」が誕生しました。

「これはもともと1970年代にこけし作家の故・石原日出男さんがデザインし、伝統こけし工人、佐藤正廣さんが制作した創作こけしをアレンジしたものです。ある日、工房を訪ねると、佐藤さんが『昔、こういうのもつくっていたんだよね』と言って作品やデザイン画を見せてくれました。それがモダンでおもしろいものばかりでびっくりして……思わず、こんな感じで新しいものをつくれたらいいですねと話したら、同意してくださったのです。オリジナルは胴体に複数の種類の木が使われ、その色の違いが横縞のようになっていました。それを見たとき、私たちの住むイギリスの灯台のデザインが頭に浮かんで……それで、今回は1種類の木を使い、胴体にボーダー柄の絵付けをしていただくようにお願いしました」と北村さん。「Moga Kokeshi」の販売初日には開店前から多くの人が店頭に並び、用意した約90個がほとんど売れてしまったとか。

フェニカの限定色ブルーの地に首里や壺屋、やんばるの風景が踊る白雪ふきん。デザインは紅型作家の宮城守男さん。

奈良の「白雪ふきん」とコラボした新作「琉球紅型」も、とても「フェニカ」らしいアイテムといえるでしょう。

古来より薄織物の産地として知られる奈良県で、蚊帳生地を改良して生まれた「白雪ふきん」は丈夫で吸水性に優れ、使うほどに柔らかくなる、ふきんの逸品です。
「フェニカ」ではコラボレートシリーズとして、以前からカラフルなプリント柄のタイプを出していますが、今回、沖縄の紅型染めバージョンが登場。「フェニカ」の限定色のブルーを使い、紅型の古典柄をベースにした沖縄の風景がデザインされています。
この紅型の「白雪ふきん」のように、これまでにはなかった組み合わせで日本各地の手仕事を結びつけるのも、エリス・北村両氏の仕事のおもしろい特徴といえるのではないでしょうか。まさに、つくり手とつくり手、クラフトとデザインの橋渡しです。

「ラグハンドル・トート」。右の琉球藍の手織りバージョンは夏に販売の予定。

「ポーター」でおなじみの吉田カバンとの共同企画「ラグハンドル・トート」も2009年からの人気商品です。従来型ではエリスさんの私物のキャンバストートをモチーフに、持ち手の部分の補強としてフィンランドのデットストックのプリント生地が使われています。このバッグも、ボディに琉球藍で染めた手織りの布を採用したり、持ち手に琉球絣の生地を施したものが新たに登場する予定です。

松田共司さんの茶碗。箱書きもそれぞれ味わい深い。各¥24,840

5階のフロアでは、純粋に作家の仕事を見せる空間が多いのが印象的。前述のペリアンの作品をイメージした棚をはじめ、陶芸展のような雰囲気でやきものがゆったりと並んでいます。オープン当初は棚の一角に沖縄、読谷山焼の北窯の陶芸家、松田共司さんの茶碗がありました。「昨年末に松田さんから、抹茶茶碗を初めて作ったという連絡を受けまして。『フェニカ スタジオ』のオープンを記念する作品として出させていただきました。民藝の方なので、箱を作ったのも初めてということで、箱書きも、それぞれのお茶碗と向き合いながらその雰囲気に合わせて書かれたそうです。お茶碗はもちろん、箱書きにも、ものすごいエネルギーを感じますね」と北村さん。

作品とじっくり向き合うことができるディスプレイ棚。後ろの藤むしろの壁はバーナード・リーチのイメージ。
益子の陶芸家、濱田友緒さんの器。(左)¥8,640、(右)¥16,200

長い時間をかけて築かれた、つくり手との信頼関係。

上の棚は丹波篠山の陶芸家、柴田雅章さんの釉薬スリップ四方皿¥64,800~。柴田さんは丹波の土を使い、おもにスリップウェアを追求している。
北海道砂川市の馬具メーカー「ソメスサドル」と旭川の染織工芸「優佳良織」とフェニカのトリプルコラボで誕生した「HOKKAIDO TOTE」。北海道の四季をモチーフにした柄と柔らかい革の組み合わせ。¥51,840~

やきものでは、これまで個展でしか買うことができなかった丹波篠山市の陶芸家、柴田雅章さんの作品もファンには見逃せません。
前述の松田さんの茶碗や柴田さんの作品のように、日頃はなかなか出合えない貴重な作品が揃うのもフェニカならでは。それはやはり、エリス・北村両氏が長い時間をかけて丁寧に築き上げてきた、つくり手の方々との信頼関係があるからこそではないでしょうか。良質なコラボレートが実現する背景も、それを抜きにしては語れないと思います。話を聞いていると、民藝やクラフトに対する二人の情熱は、半端ではありません。

「まず、お店で展開する以前に、自分たちがどれだけ大好きになれるか、そばに置きたいと思うかがセレクトの基本です。そして、気に入ったものは工房やお店に何度も足を運んで買い続ける。そうするうちに、つくり手さんに徐々に顔を覚えてもらうようになって、“この人たち本当に好きなんだな”というのが伝わったところで、初めてお店に卸してもらえるかどうかのお願いが始まります」

鯛をかたどった鯛車。新潟、巻地区では昔からお盆になると灯りをともし、町内を引いて回った。絵付けのワークショップが6月10日(金)~19日(日)に開催予定。
栃木県茂木町の漆工芸作家、松崎修さんの作品。漆器は分業制のことが多いが、松崎さんはすべての工程を一人で手がけている。

それにしても、これほどまでに二人が民藝にはまったのには、どんな理由があったのでしょう?

「やはり『ビームスモダンリビング』を始める頃に、バタフライスツールを取り扱いたくて柳宗理さんにお会いしたのが大きかったと思います。当時の自分たちは民藝のことは何も知らず、興味があるのは北欧のデザインとアメリカのミッドセンチュリーの家具だった。そんな時に、柳さんが益子や沖縄や小鹿田に行くことを勧めてくださった。行ってみると、つくり手さんたちはそれまで自分たちが会ったことのないタイプの人たちばかり。いいものはつくっていても、それを売ろうと思っていないところが一番魅力的だった。ずっとつくり続けられているものだから、とか、自分が今作りたいから、という思いを基準にしてものづくりをしている。ファッションの世界はみんな、売れなければいけないものを作っている人たちだから、自分たちにとってとても新鮮でしたね」(エリス)

「丁寧につくられたものの美しさ、機能的であることの美しさ、といった、もの自体の魅力はもちろんですが、それをつくっている人たちのカッコよさというのに惹かれたんです。みんな、生き方も含めてとにかくスタイリッシュ。作業着にしても普段着にしても、その人たちなりのおしゃれが魅力的で、それで一気にはまってしまって……」(北村)

そんな二人の眼を通して選び出されたものが詰まった空間。そこにいると、手仕事やつくり手に対する深い愛情やリスペクトが伝わってくるようです。

140年の歴史を持つシューズメーカー「Moonstar」とのコラボによるキャンバススニーカーと、デニムやワークウェアで知られるブランド「orslow」とのコラボによるバゲットハット。いずれもイギリスのウィンザー公の愛用品をベースにしたもの。
「つくり手さんの想いを大切にしながら、自然なかたちでものを紹介していきたい」というエリスさんと北村さん。

フロアの中央スペースは扉で一部を仕切ることもでき、展示やワークショップのスペースにも変幻自在。
オープン直後から、益子の陶芸家、濱田篤哉さんとヴィンテージ益子の展示、「INDIGO Kokeshi」や「MOGA Kokeshi」の販売などが立て続けに行われていました。
「中央のスペースは企画に合わせてフレキシブルに変わっていきます。6月には新潟市の巻地区で古くからお盆の風物詩として知られている鯛車の絵付けのワークショップを開催(6月10日~19日)して、夏以降もイベントをどんどん組んでいく予定です」と北村さん。

「フェニカ スタジオ」というフィルターを通して、人やものとどんな新しい出会いが生まれてくるのか、これからも目が離せません。(牧野容子)

ビームス ジャパン

住所:新宿区新宿3-32-6 B1F~5F
TEL:03-5368-7300
営業時間:11時~20時/1~5F、フェニカスタジオを含む  8時30分~22時30分/猿田彦珈琲 11時30分~15時、17時~23時 (月~金)、11時30分~23時(土、日、祝)/クラフトグリル
不定休
www.beams.co.jp/beamsjapan/