Feature Art 映画『ルーブル美術館の夜 ダ・ヴィンチ没後500年展』と尽きせぬ魅力をもつレオナルドを巡る、ふたりの美術史家の対話。

映画『ルーブル美術館の夜 ダ・ヴィンチ没後500年展』と尽きせぬ魅力をもつレオナルドを巡る、ふたりの美術史家の対話。

写真(ポートレート):奥山智明 取材協力:瀧本みわ(東京藝術大学 非常勤講師)

ルーヴル美術館で開催され大きな話題を呼んだ展覧会を、丸ごと映画に収めるという豪華な試みが具現化した『ルーブル美術館の夜 ダ・ヴィンチ没後500年展』。10年かけて展覧会を準備したキュレーターに、ダ・ヴィンチ研究で知られる美術史家・池上英洋が話を聞いた。

映画『ルーブル美術館の夜 ダ・ヴィンチ没後500年展』と尽きせぬ魅力をもつレオナルドを巡る、ふたりの美術史家の対話。

2018年、過去最高となる1020万人の年間入場者数を記録したルーヴル美術館。メトロポリタン美術館や大英博物館を引き離し、世界トップを誇る。映画『ルーブル美術館の夜 ダ・ヴィンチ没後500年展』はルーヴル美術館の魅力にあらためて触れられる作品でもある。© 2013 Musée du Louvre Ouadah

ルネサンス期に活動し、世界で最も有名な芸術家のひとりであるレオナルド・ダ・ヴィンチ。その没後500年にあたる2019年、パリのルーヴル美術館で空前の規模の展覧会が開催された。《ラ・ジョコンダ(モナリザ)》など5つの絵画を保有するルーヴルに、他の美術館が所蔵する絵画、素描、手稿など計160点ほどが集結。最新研究をふまえ、いまも人々を魅了するダ・ヴィンチの創作の全貌をひも解く試みだ。



そして約4カ月の会期で100万人を動員したこの展覧会を記録した映画、『ルーブル美術館の夜 ダ・ヴィンチ没後500年展』が、2021年1月1日から日本でも公開される。誰もいない夜のルーヴル美術館を舞台に、高精細カメラによる美しい映像とふたりのキュレーターによる案内で、展覧会の魅力を余すことなくドキュメント。映画の公開に際し、キュレーターのひとりでルーヴル美術館の絵画部門主任学芸員を務めるヴァンサン・ドリューヴァン氏に話を聞いた。


聞き手は、東京造形大学の池上英洋教授。イタリアを中心とする西洋美術史・文化史が専門で、『レオナルド・ダ・ヴィンチ 生涯と芸術のすべて』『レオナルド・ダ・ヴィンチ よみがえる天才2』など、ダ・ヴィンチに関する著作も多い。また、《受胎告知》が来日した2007年の『レオナルド・ダ・ヴィンチ -天才の実像』の日本側監修者でもある。ルーヴルでの展覧会と同じ2019年に向けて、ダ・ヴィンチの絵画作品16点すべてをバーチャル復元するという世界初の試みも話題になった。


ダ・ヴィンチに魅せられたふたりの美術史家による濃厚な対話を、池上教授による解説を挟みながらお届けする。

映画『ルーブル美術館の夜 ダ・ヴィンチ没後500年展』と尽きせぬ魅力をもつレオナルドを巡る、ふたりの美術史家の対話。

ヴァンサン・ドリューヴァン(Vincent Delieuvin)●美術史家。2006年にルーヴル美術館に入り、現在は絵画部門の主任学芸員を務める。素描・版画部門の統括学芸員ルイ・フランクとともに展覧会のキュレーターを担当し、『ルーブル美術館の夜 ダ・ヴィンチ没後500年展』にはナビゲーターとして出演。他の担当企画展に、フランス有数の近代絵画コレクションをもつシャンティイ城コンデ美術館での『La Joconde nue(The Naked Mona Lisa)』など。パリの自宅で取材に応じ、映画の中の威厳ある雰囲気とはまた違うリラックスした様子で語ってくれた。©Pathé Live

映画『ルーブル美術館の夜 ダ・ヴィンチ没後500年展』と尽きせぬ魅力をもつレオナルドを巡る、ふたりの美術史家の対話。

池上英洋(いけがみ ひでひろ)●美術史家・東京造形大学教授。1967年広島生まれ。東京藝術大学卒業、同大学院修士課程修了。専門はイタリアを中心とする西洋美術史・文化史。日本文藝家協会会員。著書に『レオナルド・ダ・ヴィンチ 生涯と芸術のすべて』(筑摩書房、第四回フォスコ・マライーニ賞)ほか多数。レオナルドの絵画全作品をヴァーチャル復元した『レオナルド・ダ・ヴィンチ没後500年 夢の実現展』(制作:東京造形大学)の監修者。

――まずは昨年のルーヴルでのレオナルド展について、立ち上げた経緯を教えていただけますか?

2019年はレオナルド・ダ・ヴィンチの没後500年にあたります。レオナルドは1516年から亡くなるまでの最晩年の約3年間を、フランソワ1世の庇護のもとフランスで過ごしました。そのおかげでいまルーヴルには5点の絵画(*1)があり、ルーヴルだけでなくフランスの美術コレクションの中核を担っています。そんなことからこの展覧会の企画はスタートしました。

*1 《ラ・ジョコンダ(モナ・リザ)》《ラ・ベル・フェロニエール》《岩窟の聖母》《聖アンナと聖母子》《洗礼者ヨハネ》を所蔵。


――展覧会の準備は何年前から始まったのでしょうか。

私がルーヴルに学芸員として入ったのは2006年で、その直後からレオナルドの作品を調査し始めたのでもう十数年経ちました。その間、この展覧会のために科学的な調査を行い、3点の絵画の修復(《聖アンナと聖母子》《ラ ・ベル・フェロニエール》《洗礼者ヨハネ》)、素描を含む全所蔵作品の研究と資料整理を、本展のもうひとりのキュレーターである、素描・版画部門統括学芸員のルイ・フランクと行いました。


――ヴァチカン美術館(《聖ヒエロニムス》)やエルミタージュ美術館(《ブノワの聖母子》)からも絵画作品が来ていて驚きました。それらの所蔵館では没後500周年の記念イベントができなくなるにもかかわらず、なぜ長期間借り受けることができたのでしょう。

他の美術館の学芸員たちもこの展覧会のコンセプトに賛同してくれました。というのも今回の企画の目的は、各美術館にちらばっていた絵画や準備素描をルーヴルに集めて、新たな文脈で捉え直すことだったからです。そういった意味で、ヴァチカンでもエルミタージュでもレオナルド作品は孤立していたわけですから、それらを一堂に集め、比較しながら読み直すという目的に学芸員たちも賛同してくれたのです。

映画『ルーブル美術館の夜 ダ・ヴィンチ没後500年展』と尽きせぬ魅力をもつレオナルドを巡る、ふたりの美術史家の対話。

映画より、ルーヴル美術館にやって来たエルミタージュ美術館所蔵の《ブノワの聖母子》。神々しいというより、普遍的な母子として描かれている。作品名は、本作の所有者であったフランスの画家、レオン・ブノワにちなんでいる。©Pathé Live

――ウフィツィ美術館(*2)とロンドンのナショナル・ギャラリー(*3)とも交渉をしましたか?

*2 絵画では《受胎告知》《東方三博士の礼拝》を所蔵。*3 絵画では《岩窟の聖母》を所蔵。

はい。ただ、ナショナル・ギャラリーが所蔵する《岩窟の聖母》は2m近い高さがあり、また支持体である4枚の板は壊れやすいため持ち運びができません。そのため最初から貸与を依頼する予定はありませんでした。一方で《聖アンナと聖母子、洗礼者ヨハネ》のための準備素描として重要な《バーリントンハウス・カルトン》とレオナルド周辺画家の絵画を1点を借り受けました。ウフィツィのほうも、《東方三博士の礼拝》は板に描かれたとても繊細な絵画で移動が困難ですが、《レダと白鳥》と《アンギアーリの戦い》の模写、数点の素描を借りることができました。

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