Feature Art ジョセフ・クーデルカ、流浪の写真家が切り取る混沌の世界。

ジョセフ・クーデルカ、流浪の写真家が切り取る混沌の世界。

写真:江森康之 文:青野尚子

週末の展覧会ノート Book 02:近現代史に翻弄されたチェコが生んだ、ジョセフ・クーデルカの回顧展。

チェコスロバキア出身、現在はパリとプラハを拠点に活躍している写真家、ジョセフ・クーデルカ。この展覧会では全部で7つの章に分けて作品を紹介しています。政治的なイメージも強いクーデルカですが、実際はちょっと違います。たとえば、この「実験」という章のコーナーに並んでいるのは、舞台写真などをもとにした演劇雑誌の表紙に使われたもの。この中には暗室作業によってコントラストを強調したり、図と地を反転させたり、一度プリントした写真を角度をつけて複写したりしたものも。タイトル通り、彼がさまざまな”実験”を繰り返していたことがわかります。

ジョセフ・クーデルカ、流浪の写真家が切り取る混沌の世界。

チェコスロバキア(1959年)ⓒJosef Koudelka/Magnum Photos

クーデルカは大学卒業後、航空エンジニアとして働きながら趣味で写真を撮っていました。この写真はその頃のもの。二股になった木の間から向こうの木を撮ったスナップです。
「この頃のクーデルカは他にも、植田正治のようにシンプルな背景に人を配置した写真などを撮っています。彼自身は写真を撮ること自体が楽しくてしかたがなかったようです。この頃クーデルカは自分が撮った写真をノートに貼って、いろいろなトリミングのしかたを試したりしていました。こうして実験を繰り返し、結果を追求していく、エンジニア的なアプローチで写真を撮っていたのだと思います」(増田)
展覧会には舞台写真のシリーズも展示されています。クーデルカが劇団から依頼されて撮ったものです。「自分たちの芝居を記録するというよりは、クーデルカが撮った写真を演じているようだ」と劇団のディレクターが言ったそうです。クーデルカは視覚を通じて世界を再構成し、虚構のリアリティを組み立てているのです。
ジョセフ・クーデルカ、流浪の写真家が切り取る混沌の世界。

いずれもチェコスロバキア(1967年)ⓒJosef Koudelka/Magnum Photos

クーデルカはそのあと、東ヨーロッパを中心に移動生活を続けるジプシー(ロマ)の撮影に取り組みます。「ジプシーズ」のシリーズは長期にわたって撮られていて、この展覧会では出品作の約3分の1近くがこの「ジプシーズ」の作品になっています。彼がこだわりと愛着をもっているモチーフであることがわかります。
「クーデルカは舞台写真を撮っていましたが、ジプシーたちの振る舞いはシナリオのない劇場のように見えたのかもしれません。またジプシーの中には流しのミュージシャンとして生計を立てている人が多く、音楽が好きなクーデルカはそんなところにも惹かれたようです」
ジョセフ・クーデルカ、流浪の写真家が切り取る混沌の世界。

ジョセフ・クーデルカ展 第4章「ジプシーズ」ⓒJosef Koudelka/Magnum Photos

「ジプシーズ」のシリーズについて増田さんはこう言います。
「第二次世界大戦時、ドイツ占領下のチェコではユダヤ人やジプシーが迫害され、戦後は逆にドイツ系住民が追放された。労働力が不足したためスロバキア地区からジプシーを連れてきた、という事情もあってプラハにはジプシーの居留区がありました。クーデルカが撮ったジプシーは、チェコ現代史の知られざる側面を切りとったドキュメンタリーと見ることもできます」
しかし、クーデルカ自身はここでも視覚的な側面を重視しています。写真の内容ではなく、画面構成上の共通点がある写真を2点、3点と横または縦に並べて展示したりしているのです。クーデルカはあくまでも“視覚の人”なのでしょう。
このシリーズは1975年に写真集として出版され、2011年に新版が出ましたが、クーデルカは新版では収録する写真を増やし、レイアウトも変更しました。彼はカメラでもプリントでも新しいものが出ると積極的に挑戦し、いろいろなことを試しています。一度やったことを繰り返すことなく、常に新しい道へと進んでいるのです。
上段写真:ジョセフ・クーデルカ展 第2章「実験」ⓒJosef Koudelka/Magnum Photos
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