やきとりって何だ?立会川「鳥勝」で世紀の謎を究明する。

やきとりって何だ?立会川「鳥勝」で世紀の謎を究明する。

やきとりって何だ?立会川「鳥勝」で世紀の謎を究明する。

やきとりって何だろう?そんな素朴な疑問にぶつかったのは、2006年の秋、長い間吉祥寺のランドマークだった「いせや総本店」が閉店した時だ。晩年の高田渡さんが自転車で通い詰めた「やきとり」の有名店。たくさんの人の想い出が詰まった歴史的建造物が無くなるとあって、多くのマスコミが取材に訪れた。
その中で印象的だったシーンが、「おいしかったですか?あの肉って何の肉か知ってますか?」という記者の質問。多くの人たちが、「え?だって、やきとりだから鳥でしょ」と答えていたことだ。もちろん、いせやのやきとりは、豚のモツ、やきとんだ。

九州出身だと言うと、「モツの本場ですね」とよく言われる。でも、九州はやきとんには馴染みが薄い。焼鳥はだいたい鳥だし、例外として豚バラ串があるくらいだ。現地で人気の鳥皮を出す店には、丁寧に「とりかわ」の名前が店名にくっ付いている。もつ鍋はポピュラーだが、あれは豚ではなく牛。一般的に、関西から西では肉と言えば牛、豚ではない。だから肉まんとは言わず、豚まん。肉じゃがも、もちろん牛肉を入れる。

だから、「やきとり」と書かれた「やきとん」には最初は戸惑ったが、甲類焼酎にフィットする味にすぐに夢中になった。特に、田舎ではお目にかからなかったカシラの美味しさには驚いた。諸説あるが、実はこのカシラこそが、「やきとり」誕生のルーツらしいのだ。

やきとりって何だ?立会川「鳥勝」で世紀の謎を究明する。

戦後の埼玉県東松山で、それまで廃棄されることの多かった豚のカシラをどうにか旨く料理しようとした先達がいた。そこで生み出されたのが辛い味噌ダレだ、
考案者は韓国出身だった初代大松屋店主、肉のプロだ。発想の元はコチジャンだったのかもしれない、九州名物の明太子の原点がタラコのキムチだったことを思うと興味深い。日本の食文化は、お隣の国韓国からたくさんの恩恵を貰っている。

さて、このカシラ串、当初は「やきとん」で売り出したが、どうもしっくり来ない。そこで、すでに有名だった「焼鳥」の響きを借りて平仮名の「やきとり」にしたらしい。

かくしてサラリーマンの聖地、新橋辺りでは、もはや「やきとり」と聞いて鳥肉を連想する人がいないくらい、やきとりは関東を代表するローカルフードになった。
その中でも、開店前から行列ができる、やきとんの聖地が立会川の「鳥勝」だ。
さすがに暖簾には、平仮名で「やきとり」の文字。しかし、店名は堂々と「鳥勝」だ。
もちろん、鳥肉は一切置いていない。芝浦の食肉市場が近いことから、毎朝仕入れる新鮮な豚のモツが安くおいしく食べられる庶民たちのパラダイスだ。

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やきとりという暖簾とは裏腹に、鳥勝にはいろんな料理が揃っている。まずは、なぜか名物の生野菜から始めよう。きっと、もうひと皿リクエストしたくなるから、最初から「大」にするのが正解だ。焼酎は珍しく、あまり見かけないダイヤ焼酎、立会川界隈ではポピュラーだ。

生野菜には、オプションで「ガツのせ」ができるのが嬉しい。限りなく肉肉しくなってしまうが、一度試すとクセになる。豪快にかけられたマヨネーズの上から、モツ刺し用のタレを、これまた豪快にぶちまける。ただこれだけの味付けながら、中毒になる美味しさ。店いっぱいの肉フリークたちがほとんど注文するのは、ヴェジタブルファーストなんて罪悪感からじゃない、とにかく旨いからだ。

やきとりって何だ?立会川「鳥勝」で世紀の謎を究明する。

豆腐が一丁、どーんと投入された煮込み豆腐も、ご夫婦の丁寧な調理に頭が下がる。18歳と23歳で結婚して以来、ずっと夫唱婦随で頑張られて来た2人の優しさが料理の隠し味として方々に散りばめられている。

いつのまにか夕焼けのような飴色に染められた店内は、昭和のまま時が止まってしまったような懐かしさと温かさに満ちている。どこか気品を感じさせるご夫婦は、限りなく腰が低く、やきとり屋にありがちなハードボイルドな雰囲気は微塵もない。

お2人の優しさは、各種の炒め物や生姜焼きまであるメニューの多さにも反映されている。口開けからまもなく、どんどん無くなって行くやきとりが終わっても、客たちにはまだまだメニューの選択肢がある。それだけではない、カウンターの奥にあるテーブルには焼肉用のバーナーも用意されていて、焼肉屋としての利用さえ可能だ。

やきとりって何だ?立会川「鳥勝」で世紀の謎を究明する。

モツ刺しの素晴らしさは言うまでもない、ガツ、ミノ、コブクロ、センマイ、飛び切りの鮮度と品質、絡められるタレのおいしさ。街ではあまり出会うことのないミノ刺しの旨さには、誰もがうっとりと目を閉じる。長い年月、毎日、芝浦に通っているからこそ可能になる仕入れ。その根底は食に対する深い敬意と、市場の方たちとの信頼関係から築かれているのだろう。

そして、毎回お勘定の度に申し訳ない程のリーズナブルさに改めて驚く。
鳥勝を出る時、暖簾に染め抜かれた「やきとり」の文字を見て、ふと思った。
やきとりという単語は、1つの料理を指すものではなく、庶民たちのハートを夕焼け色に染めるキラキラした夢の総称なのかもしれない。

もうすぐ夕方、第1京浜を渡って立会川のほとりに出かけようか…。

やきとりって何だ?立会川「鳥勝」で世紀の謎を究明する。

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