こんどは4名の競演。ジル サンダー2021年春夏キャンペーンにまた心がざわつく。
詩的。
…… う〜む、ジル サンダーのキャンペーンビジュアルに毎シーズン通底する味わいを一言で言い表そうとしたものの、“詩的” しか頭に浮かばない語彙力のなさ。
まーいいです、深く考えずに今回もお話していきましょう。
あ〜…… “品格” とか “品性” とかもありますね、まーいいですけど。
2020-21年秋冬に続きこのたびの21年春夏も、ジル サンダーは複数のフォトグラファーにキャンペーンフォト撮影を依頼しました。
前回は5名で今回は4名。
ヨーロッパでロックダウンが続く中でブランドが選んだのが、最小限のスタッフでつくれるパーソナルな表現方法。
ロンドン、ニューヨークの街中や、フォトグラファーの自宅の庭、アトリエなどで撮影が行われたそう。
つまり、 私的な写真群。
(← 詩的と掛かってて恥ずかしーわ)
ただし被写体が家族や身近な人だった前回と異なり、今回服を着ている人はファッションモデルが中心です。
ここでひとつ、今回のキャンペーンとは別の話をちょっと。
ファッションメディアで働く者として、ファッションビジュアルではフォトグラファーの存在だけがクローズアップされがちなことにいつもモヤモヤ。
打ち合わせ時や現場では、スタイリスト、ヘアメーク、エディター、ライター、アートディレクターらが被写体、撮影場所、撮り方までアイディアを出すことが多いですから。
できあがりの骨幹を左右することも多々あり。
そもそもスタッフへの仕事依頼がなければその写真は生まれなかったワケで、重要な功労者は雑誌なら編集者、編集部、出版社。
(お金も出してる)
撮る人は映画でいう監督のポジションですし、責任も一番重いはずですが(っても有事に責任取らされるのは仕事依頼した人。上司にボコられる)、
合作である写真の権利はフォトグラファーが占有するのが業界の通例。
よくないですよ、この慣習。
一枚の写真の後ろに必ず誰かがいることを気に留めていただけると嬉しいなあ、と思うワケです。
写真展行ったり、写真集を見たときなんかに。
とはいえ!
今回のジル サンダーのキャンペーンは、「誰々にこの服を撮ってもらう」が大前提で進んだプロジェクト。
フォトグラファーの作品性が強い、とゆーことで、
彼女ら、彼らの話を進めたいと思いまーす。
★個人的ベストの、ビビ・ボスウィック
被写体と向き合うフォトグラファーの目線が優しい!
大胆な構図ながら、人物の魅力、着る装いの魅力が引き出されてます。
色のトーンもクリアですし、エアリーに滲ませるだけでなく一枚の中にシャープな部分も混ぜて動きを与えています。
「写真が上手い」、ってこういう人を指すんだろなあ、と思います。
見る立場からすると、写真を写真として俯瞰で見る人は世の中の少数派らしく(主に写真好きに限られる)、何が写っているかがいちばん気にされるようです。
その意味でも「素敵な人が素敵な服を着てる」って思われるのは、キャンペーンとして理想的ではないでしょうか。
ロンドン在住のフォトグラファー、ビビ・ボスウィック。
そのファミリーネームにおやっ?と思った人、正解です。
1990年代以降の前衛的ファッションフォトの大物であるマーク・ボスウィックの娘さんです。
遺伝子うんぬんはご本人に失礼かもしれませんが、生まれながらに創造的な写真に囲まれて育ったらゼロから出発する人とは違い出ますよね、たぶん。
この記事冒頭の顔写真も彼女の撮影。
被写体のリリー・マクメナミーは、「i-D」の表紙を飾るほどのメジャーな個性派ファッションモデル兼女優です。
★ジル サンダーの常連、ナイジェル・シャフラン
意識しないと目の前を通り過ぎそうな、さりげないナイジェル・シャフランの写真。
立ち止まってゆっくり眺めると、映画のように物語りが広がる奥行きに気づきます。
大理石の風呂に浸かってシャンパングラスを手に持つ西洋のラグジュアリー世界とは一線を画す、静寂の美学がここに。
依頼された仕事でこのクオリティをコンスタントに撮れる能力値の高さたるや。
今回はモデル選びが印象を大きく左右してますね。
服のトーンを背景と揃えてるから、人物のキャラクターがより鮮明に感じられる。
シャフランが以前に手掛けたジル サンダーのキャンペーンは、このブログ「フロム クリエイターズ」のアーカイブで紹介してますので、ぜひのちほど記事最後のリンクよりご覧くださいませ。
★スナップ的作風のシャニクワ·ジャービス
デジタル的ないじりをせず、自然な印象の写真が多い黒人女性フォトグラファー。
ネットで調べたら、コンバースとコラボしたシューズや服などもあるようです。
今回のキャンペーンの中からここではモノクロスナップをピックアップ。
力強い表現です。
★スナップと作り込みの狭間? のドリュー·ジャレット
白人男性フォトグラファーのドリュー・ジャレッドも、スナップが中心的な作風のようです。
前述のジャービスと比べると、よりローファイなアナログカメラ的表現。
じっさいにどんな撮影方法かは不明ですが、インスタグラムを見るとアンダーグラウンドな世界観が好きな人のようです。
さて、いかがでしたか?
私個人の感覚では前半の2名が好みなんですが(ハイモードの落とし込みとしても)、ファッション写真の枠組に収まっているという考え方もありそう。
その観点なら、後半2名のほうが開放的といえます。
ここではまとまりに優れる2点だけをピックしましたが、彼らのほかの写真はもっと煩雑というかストリートな印象です。
前回の20-21年秋冬シーズンほどフォトグラファーの違いが明瞭ではないものの、ひとつのブランドのキャンペーンを通して写真とそれをつくる人に注目させようとするジル サンダーのカルチャーはやっぱり小気味いいですね。
ロゴマークの下に被写体とフォトグラファーの名前、ロケ場所まで記載されているのも、ファッション広告では異例。
両手いっぱいにバッグを抱えるゴージャスなセレブの世界だけじゃないのが、モードの奥深さなんです。
Photos © JIL SANDER
LINK
どれがお好き ? コロナ禍で5名が撮ったジル サンダーのファッション広告写真。
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