70年代に登場した“建築探偵団”を思い出す。『装飾をひもとく』から知る...

70年代に登場した“建築探偵団”を思い出す。『装飾をひもとく』から知る、近代建築の奥深さと面白さ。

70年代に登場した“建築探偵団”を思い出す。『装飾をひもとく』から知る、近代建築の奥深さと面白さ。

書籍『装飾をひもとくー日本橋の建築・再発見ー』著者:五十嵐太郎・菅野裕子、発行所:青幻舎、発行日:2021年01月18日、定価:2,530(税込)

高島屋史料館TOKYOで開催中の展覧会「装飾をひもとく」が書籍化された。期間限定の展覧会で終わってしまうにはあまりにももったいない内容だったので、本として読めるのはとてもうれしい。建築史家の五十嵐太郎による展覧会の企画は、東京・日本橋エリアにある近代建築を取り上げたもの。ユニークなのは建物を構成している柱、窓、手すりなどといった部分に着目し、その装飾についてしっかりと解説している点だ。例えば日本橋高島屋S.C.本館の西側ファサードを示して、全体は古典主義の形式を踏まえているが、ディテールには日本の古建築からの引用が見られ、和風アール・デコというべきデザインも採り入れられている、とする。

70年代に登場した“建築探偵団”を思い出す。『装飾をひもとく』から知る、近代建築の奥深さと面白さ。

古典主義に和風の装飾がミックスされた日本橋高島屋S.C.本館のファサード。photo: 宮沢洋

これまでに出た近代建築のガイドブックでも、建物ごとに必ず、「ルネサンス」だの「ゴシック」などとそれぞれに建築様式の名前が記されていた。それを見てフムフムとわかったような顔をしていたのだが、どこをもって「ルネサンス」と定めているのか、正直を言ってあまりわかっていなかった。この本に載っている個別具体的な近代建築の様式解説を読んで、そういうことかと納得すると同時に、これまでの自分は近代建築を“きちんと見ていなかった”のではないか、と気付かされた。

70年代に登場した“建築探偵団”を思い出す。『装飾をひもとく』から知る、近代建築の奥深さと面白さ。

開くと大きくなるガイドマップが付いているのもうれしい。

ふと思い出したのは、昨年読んだ三土たつお編『街角図鑑 街と境界編』(実業之日本社、2020年)のことだった。この本は、電柱、給水塔、公園遊具、路上園芸、送水管、パイロンなどなど、街の中で何気なく出くわすさまざまな事物について、いままでまったく知らなかった見方を教えてくれる。似たような読後感を、『装飾をひもとく』に抱いたのだった。しかしこうした現在、盛り上がっている都市鑑賞のルーツをたどれば、1970年代に藤森照信、堀勇良らが近代建築を歩き回って調べた建築探偵団の活動に行き着くわけで、つまり、始まりは建築だったのだ。今回の展覧会と出版は、都市鑑賞の先行ジャンルである近代建築の奥深さと面白さを、あらためて知らしめる企画だったと言えるだろう。

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『装飾をひもとく~日本橋の建築・再発見~』

開催期間:2020年09月02日(水)~2021年02月21日(日)
開催場所:高島屋史料館TOKYO 4階展示室
東京都中央区日本橋2-4-1
TEL:03-3211-4111
開催時間:11時~19時
休館日:月曜・火曜
入場料:無料
www.takashimaya.co.jp/shiryokan/tokyo/exhibition