おいしいレストランは、“究極のグルメ本”で探したい。

おいしいレストランは、“究極のグルメ本”で探したい。

おいしいレストランは、“究極のグルメ本”で探したい。

1967年版の『東京いい店うまい店』。写真の店は、当時原宿のコープオリンピア内にあったフランス料理店「ティファニー」とのこと。昔の食関連の本を読むのが好きで、古本屋でコツコツ集めている。

昨今、さあどこかで外食しようという時、まずはネットで店を検索するだろう。グルメサイトには料理写真や口コミがあふれているが、そんなサイトと対極にあるのがこの『東京いい店うまい店』だ。


文藝春秋社から1967年以来50年以上、2年おきくらいに刊行されてきたこのシリーズには、一切の写真がない。そこにあるのは文字のみ。しかしながら読んでいると、店に行きたい気持ちが募ってくる不思議な本なのだ。中華、フレンチ、すし、そば・うどん、エスニック、おでんなどジャンルごとに選りすぐりのうまい店を掲載。各店のレビューに加えて味、値段、サービスが5段階評価で示される構成だが、素晴らしいのはレビューだ。1店300字程度でキュキュッとまとめられている(文字数はバラつきあり)。その文章がなんとも粋。たとえば2007〜2008年版の中で、いまも銀座にある寿司の名店「すきやばし次郎」はこんな感じで紹介されている。


すし種は常に最高のものを探し求めてきた。書けば一行ほどのことだが、実は並大抵のことではない。客の支えがあり、客に応えんとする職人の献身があって初めて成り立つ世界なのだ。この互酬関係は、至福で特権的であるがゆえに緩く閉じる糸をもつ。この原理をわきまえぬものに、斯界への立入りを勧めることは、ガイドブックといえどもできることではない。小野二郎も齢八十を超えた。体調管理に神経を使う毎日で、時につけ場に立たぬ日もあるようだが、長寿を願う。


ガイドブック〜のくだりはユーモアがあるし、最後の1行の余韻も胸を打つ(ちなみに2020年現在、二郎さんは95歳で現役とのこと)。噂によると、各料理ジャンルに精通する食ジャーナリストたちが覆面で書いているらしいが(※)、いずれのレビューもプロの視点で書かれた名文揃い。料理の味から店の雰囲気、当時の世相、店主の息遣いまで伝わってくる。ただの店紹介ではない。読み物でもあり、そこにドラマがあるのだ。


ただしこのシリーズ、2015~2016年版を最後に刊行されていない。今後復刊されることを切に願うばかりだ。東京・高輪台にある食分野に特化した専門図書館「食の文化ライブラリー」にかなり揃っているので、行ってみるのもお薦め。現存するレストランがどのように紹介されていたか、いま読んでみるのも面白い。(編集NH)



※すべての版は確認できていないが、1967年版には執筆陣が例外的に明記されている。

おいしいレストランは、“究極のグルメ本”で探したい。

1967年版の中身。現存する目黒のとんかつ店「とんき」(ただし移転前の旧住所時代だと思われる)のレビューがいちばん下に掲載されている。