ベック、TLC、ジェリーフィッシュ……映画『ミッドナインティーズ』でよ...

ベック、TLC、ジェリーフィッシュ……映画『ミッドナインティーズ』でよみがえる、魅惑の90sミュージック

ベック、TLC、ジェリーフィッシュ……映画『ミッドナインティーズ』でよみがえる、魅惑の90sミュージック

ジョナ・ヒル監督の体験を投影した、13歳のスティーヴィー(左から2人目、サニー・スリッチが演じる)が『mid90s ミッドナインティーズ』の主人公だ。© 2018 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.

『マネーボール』などで知られるジョナ・ヒルの初監督作品、『mid90s ミッドナインティーズ』が本日9月4日から公開されている。舞台は90年代半ばのロサンゼルス。少し背伸びをしてスケボー少年たちの仲間に加わる13歳の少年を主人公にした、ヒルの半自伝的な青春物語だ。スーパーファミコンやカセットテープといった小道具、ファッションに加え、撮影で使われている16ミリフィルムの質感やアスペクト比も当時の雰囲気の再現に貢献。作品が数割増しで心に響いた者として、勝手に90年代を追憶したい。


酸っぱい思い出と激辛の思い出に満ちた私の90年代を彩るのは、ファッションでも文学でもなく音楽。狭い興味範囲の記憶をたどると、前半はグランジやオルタナティブと呼ばれるロックが隆盛で、94年4月にニルヴァーナのカート・コバーンが自殺して以降は、ヒップホップやR&Bのジャンルがどんどん存在感を増していったように思う。映画の舞台でもあるカルチャー発信地のロサンゼルスではなく、そんなトレンドがかろうじて届いていた日本の地方都市で聴いていたのはこんなアルバムだ:


劇中でも1曲使われているア・トライブ・コールド・クエストの『Midnight Marauders』(93年)、イケイケのヒップホップが好きになれなかった身には心地よかったアレステッド・ディベロップメントの『Zingalamaduni』(94年)、文字通りクールな音を奏でてスーパーグループになったTLCの『CrazySexyCool』(94年)。UKものでは、最近のトム・ミッシュにも通じるジャミロクワイのデビューアルバム『Emergency on Planet Earth』(93年)、ブリットポップの代表格ブラーの『Parklife』(94年)、アメリカ南部の音楽に傾倒したプライマル・スクリームの『Give Out But Don’t Give Up』(94年)は、彼らの作品では評価が低いけれど個人的にいちばん好きな作品だ。

ベック、TLC、ジェリーフィッシュ……映画『ミッドナインティーズ』でよみがえる、魅惑の90sミュージック

アメリカのミュージシャンでは、とびきりポップで過小評価されているんじゃないかと思うジェリーフィッシュの『Spilt Milk』(93年)、泣き虫ロックと呼ばれていたウィーザーの『Weezer (Blue Album)』(94年)、なんだかふざけてるのに緻密なベックの『Mellow Gold』(94年)、カート・コバーンも影響を受けていたR.E.M.の『Monster』(94年)、当時の若手ミュージシャンがリスペクトしているという経緯で知ったトム・ペティの『Wildflowers』(94年)は、今年10月に“完全版”が発売されるという。


音楽的に大好きではなかったけれど、ビースティ・ボーイズの『Ill Communication』(94年)はまさに『ミッドナインティーズ』の舞台に近しいもの。彼らが運営するレコードレーベル「グランドロイヤル」や雑誌「グランドロイヤル・マガジン」が発信するものはどれもカッコよくて、彼らのMVを多く手がけたスパイク・ジョーンズら、周辺のクリエイターも抜群におもしろかった。


本作の音楽を手がけたのは、ナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナー。他に、挿入歌としてニルヴァーナ、ザ・ファーサイドサイプレス・ヒルなどの楽曲が使われている。このあたりの音楽を聴いていた方は懐かしい気持ちを刺激されるに違いない。

ベック、TLC、ジェリーフィッシュ……映画『ミッドナインティーズ』でよみがえる、魅惑の90sミュージック

音楽を取り巻く環境は、90年代から最も変化したもののひとつかもしれない。音楽CDやコンポが家から消えた人は多いのではないだろうか。どんな小さな町にもあったレコードショップはなくなってしまい、通い詰めたレコファンの渋谷店が閉店してしまうという悲しいニュースを聞いた。アルバイト代の大半をつぎ込んで月に何十枚もCDを買っていたのに、いまやアルバム数枚程度のサブスクリプション代を払うだけになってしまったのだから、そんな流れは当然なのかもしれない(アーティストのみなさん、ごめんなさい!)。


ロックフェスはまだ日本で広まっておらず、フェスティバルといえば観光地や商工会議所が開催するイベントのことだった。プレイリストのシェアはずいぶんスマートになった。好きな人のためにつくったミックステープは、いま思うとかなり怨念めいている。


そんなことあんなこと、90年代を通過した方には特にいろんなものが込み上げてくる『ミッドナインティーズ』だが、世代を限定する作品ではない。ティーン真っただ中&ティーン時代を経た多くの人の心に響く普遍的な物語でもある。興味をもった方にはぜひご覧いただきたいと思う(編集NS)。


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『mid90s ミッドナインティーズ』
監督・脚本/ジョナ・ヒル
出演/サニー・スリッチ、キャサリン・ウォーターストンほか
2018年 アメリカ映画 1時間25分
9月4日より新宿ピカデリー、渋谷ホワイトシネクイントほかにて公開。
http://www.transformer.co.jp/m/mid90s/