祝!東京の美術館が再び始動。気になるマーク・マンダース展を訪れた

祝!東京の美術館が再び始動。気になるマーク・マンダース展を訪れた

祝!東京の美術館が再び始動。気になるマーク・マンダース展を訪れた

緊張感と穏やかさが同居した不思議な作品。

6月1日から緊急事態宣言下の東京でも、美術館が営業を再開しました。

ネットでの完全予約制で。

閉館したまま会期が終わりそうな展覧会のひとつだった、

「マーク・マンダースの不在

にさっそく申し込みを。

2日に清澄白河駅から徒歩10分の東京都現代美術館に足を運びました。

今月22日には終了する展覧会。


なにせ金沢21世紀美術館でやってた、ミヒャエル・ボレマンスとマンダースとのコラボ展を見逃してたもんですから。

ボレマンスは2014年に原美術館で個展を行い、自身の絵画作品を同美術館ならではの邸宅空間と見事にリンクさせた作家。

その “空間アートディレクション” 手法にも、ファッション写真のような人物画にも心臓バクバクでした。

優れたグラフィックデザイナーでもある作家という印象。

展覧会写真では感じることが不可能な、そこに立つ自分の周囲から次々と囁かれる声に包まれる感動がありまして。

(実際には無音でしたよ)


ぶっちゃけますと今回のマンダースは、ボレマンスとコラボする作家としてはじめて知りました。

とはいえ作品写真を見ると、惹きつけられる魅力が。

記事をつくる仕事を長年続けて身につけてきた、

「好き嫌いでなく、良し悪しで判断すべし」

という思考回路が停止する、ただ好きという気持ち。

展覧会を見ても、やっぱり “好き” 。

……ただ、その感情をうまく分析できてないんですよねえ、いまだに。

どこに惹かれるのか、そこになにがあるのか。


皆さんは初見作品を目の前にして、

解説文を読む派ですか?読まない派?

私は読まない派です。

タイトルすら見ないことが多く。


アート解説文は低脳な私の眠気を誘うってのもあるんですけど……自身の心の動きを最優先させます。

つくり手が狙っている意図と、受け手の認識は必ずズレるもの。

「自分が生まれた年の星座と、現在の星座を重ねました」みたいなパーソナルアートと対峙するのはいつも困ってしまいます。

「知らんがな」ってなりがち。

その逆に、惹かれた作品に素晴らしいロジックがあると知ったときは、感動がさらにアップ。


マーク・マンダースの不在の会場内には、作品のタイトルも解説文もありません。

(入り口の展覧会説明パネルを除く)

ならば、理屈抜きに感情で眺めて問題ないはず。

各作品名を知りたい人は、入り口に置かれてる会場見取り図を持ち歩いて照らし合わせればOK。


それでは、作品の幾つかをご覧いただきましょう!

興味が出たらご来場を。

私の拙い写真じゃ伝わらないですから、凝った会場空間のダイナミズムは。


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美しい顔。この整った表情が作品にクリーンさを与えている大きな要素かもしれません。

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ダイニングテーブルの下にも粘土。どの作品も細部まで仕掛けがあります。

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彫像の後ろの壁に何かありますね。

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これは作家の目の高さだそう。NHK「日曜美術館 アートシーン」からの知識。

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その作家目線だとこのような見え方に。

作品(及びこの展覧会)の主たる特徴は、


1. <マテリアル>粘土、木材、鉄

2. <イメージ>廃墟のモニュメント、朽ちた彫像、放置された家具

3. <ムード>アンティーク、工事現場、アトリエ


展覧会の会場は、発掘した歴史的彫像を運び込んだ倉庫のよう。

店や家の内装を施工している途中のようでもあり。

モノづくりの現場が好きな人にはごく身近な要素がたっぷりと。

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迷路のような導線の会場構成です。この場所の左側は以下の写真。

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床に転がった動物。

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狐の腹にはバンドで留められたネズミ。絵本のように抽象化された造形。

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通路を進むと、なにやら巨大な彫像が……。

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展覧会内でもっとも巨大な、高さ4メートル強の4名の胸像。

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これも美しい顔。ジャングルの奥地にある歴史遺産のように佇みながら、黄色の板はモダン。顔つきも西洋的。時空と場所を越えた静寂が広がります。

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床はシートで支える板と鉄骨が剥き出し。作品を囲む境がないので、どこまでも近づけます。来場者のモラルに委ねる展示方法が嬉しいですね。

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通路に導かれて、ひとつひとつの作品に出会っていく仕組み。

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この作品タイトルは、『椅子の上の乾いた像』。椅子のシートは新聞紙。

作品の多くはシリアス、でも穏やかでどこかクリーン。

グロくもなく。

(1点だけあります!ダミアン・ハースト的な表現が)

壊れて朽ちているけど、退廃的でも暴力的でもなく。

う〜む、どうにもうまく分析できず。

マーク・マンダースの魅力を。

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この空間の奥になにやら小さな点が。近寄ってみると……、

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ネズミ! 留め具の形には意味あるんでしょうか?

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ネズミの先には椅子があり、その横にもなにやら。お見逃しなく。

会場演出に大きな意味を持たせた今回の展覧会。

作家のドローイングがたくさん飾られた廊下や、さまざまなオブジェを置いた小部屋など見所もたくさん。

しいて言うなら、ひとつだけ惜しかったのが天井の照明でしょうか。

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天井まで見上げたくなる展示方法。

白く明るい照明で、見やすくて気分も軽いし素晴らしいのですが、正方形で統一されたモダンな天井の形状が、作品の有機的な質感と合ってない気も……。

「そこは美術館なんだから当たり前でしょ」と言われればごもっともなんですけども。

天井から下があっさりとした内装で作品とユニークなバランスを保っているだけに、天井の一部だけでもシートで覆ったりして建築要素が隠されていれば、よりこの世界に包まれたかと。

でもそれは、海外からリモートワークで指示して会場設営した作家の意図とは違うかもしれませんね。

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再開した「SOMPO美術館」の「モンドリアン展 純粋な絵画をもとめて」。

実はマーク・マンダース展の前日に、新宿のモンドリアン展にも行きました。

出身国がマンダースと同じオランダなのは偶然で。

ここは、“モンドリアン歴史展” という感じでした。

建築家&家具デザイナーのリートフェルトら同時代の作家も紹介されており。

館内は写真撮影NG。


リアルな屋外風景を最小単位にバラバラに分解している過渡期の半抽象作品がもっとあると、なぜモンドリアンの抽象絵画が大小の四角パーツと色の三原色で構成されているか理解しやすくてよかったですね。

行き着いた先にこうなったという究極の目線があるから、彼の作品には似たグラフィックとは別格の貫禄があるわけですし。

あと、ニューヨークに渡った最晩年にジャズ音楽とブロードウエイに影響され色テープを貼り付ける手法にシフトして、静から動へと劇的に印象が変化した時代の作品がゼロだったのはかなり残念なところ。

老いてなおチャレンジングだったことこそモンドリアン!と思う人間としては、1点でも日本に運んで展覧会を締めくくっていただきたかったですねえ。

なにせ23年ぶりの日本での回顧展なんですから。


モンドリアン作品を初めて体感したのは、1987年の西武美術館での「モンドリアン展」。

無学な10代の子供でも、筆のタッチがくっきりとして、手仕事の息吹漂う “絵画” であることに感銘を受けた記憶があります。

マーク・マンダース作品も、作家の手の痕跡が随所に。

それが強く心に響くのは、温もりを求めるコロナ禍のいまの心境とも関係するのかもしれません。


撮影 © 高橋一史

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