アートで工場に萌える「えひめさんさん物語」

アートで工場に萌える「えひめさんさん物語」

アートで工場に萌える「えひめさんさん物語」

右の赤と白のシマシマ煙突に現れた「ウォーリー」。突然「バイオマス」という言葉が頭に浮かんだウォーリーは何のことかわからず、左のタンクに現れたお姉さんに発電の仕組みから教えてもらいます。青い煙突は先輩の煙突、緑の小屋は火力発電に使う石炭を貯蔵しておく建物です。

工場に萌え、アートに萌える、一挙両得なイベントが愛媛県で開かれています。どこからどう見ても楽しそうな「えひめさんさん物語」と題された催しをゴールデンウィークに見てきたのでレポートです。

このイベントの正式タイトルは「東予東部圏域振興イベント」といい、愛媛県東部にある新居浜市・西条市・四国中央市が合同で開いています。ゴールデンウィークに開催されていたのは「ものづくり物語ーさんさん都工場芸術祭」というもの。このエリアはいわゆる臨海工業地帯。金属、製紙、機械、建設などの工場が集中しています。これら地元の工場とアーティストが一緒になって、ものづくりの現場を見せてくれるのです。

プログラムの一つは5月3日〜5日の3日間だけ行われた高橋匡太さんの「工場のおしばい」。高橋さんの光のアートをクレーンや工場の煙突に映し出し、野上絹代さんの脚本でそのクレーンや煙突が「おしばい」をします。写真は5月4日に行われた「新居浜市編」。付近一帯の工場に電力を供給している火力発電所「住友共同電力」が舞台でした。

アートで工場に萌える「えひめさんさん物語」

「工場のおしばい」開始前の様子。煙突の高さが200メートル、プロジェクタから照射されるものへの距離が600メートルなどなど、桁が違うスケールです。

「工場がしゃべることでものづくりの意気込みを伝えたい、知らない人にも知ってもらいたいと思って作りました。ここで働いている人も『普段見慣れているものがこんなことを考えてるんだ』と思ってもらえたらうれしい。これをきっかけに、街を象徴する工場が町の人たちのプライドになればいいなあ、と思っています」

制作のため、働いている人に話を聞くと嬉々として話してくれるのもうれしかった、という高橋さん。地元の人にとっては見慣れた光景ですが、この日から別の“顔”が見えてきたことでしょう。

アートで工場に萌える「えひめさんさん物語」

ちょっとした体育館なみの大石工作所に広がる“遊園地”のような空間。

アートで工場に萌える「えひめさんさん物語」

工場の外には、古い機械を使ったベンチとテーブルがあります。

もう一つのプログラムは「アーティスト in ファクトリー」。ものづくりの工場にアーティストが滞在し、一緒に制作するというものです。これがなんだか妙に気合いが入っているのです。たとえば大石工作所と彫刻家、柳原絵夢さんはレールに鉄球をころがすとルーレットが回ったり、別の部品にあたってメロディを奏でたりする装置を作りました。柳原さんはデスクとロッカーが支給され、工場内にも自由に出入りができたという、ほとんど社員のような状態でした。イベントが始まってから鉄球がうまく転がらないというアクシデントもありましたが、「手の脂がついたからでは」という社員の指摘があり、そのあとは問題なく動いたそう。アーティストと職人の技がかみ合って、他では作れないものができあがりました。

アートで工場に萌える「えひめさんさん物語」

「別子飴」の包装紙でできたトンネルのようなスペース。

アートで工場に萌える「えひめさんさん物語」

包装紙の中には端をミシンで縫ったものも。「透け感のある包装紙を光が抜ける様子も楽しんでください」と作者の松岡さん。

別子飴本舗のわきに作られたカラフルな通路は松岡美江さんの作品。別子飴の7色の包装紙を使ってインスタレーションを作りました。床にはストライプ状に包装紙が敷き詰められ、天井に吊された包装紙が風に揺れます。使われた包装紙は飴83000個分になるそう。よく見ると工場や山、魚などご当地の名物が印刷されているのもかわいいです。

アートで工場に萌える「えひめさんさん物語」

「白無垢SHIRO-MUKU」と名づけられたシリーズ。白一色の結納飾りは作り手の技量を際立たせます。photo:Hiroaki Zenke

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色をつけたシリーズも。色は月岡さんが考えたそう。「松はどっしり感のある黒、竹はシャープに見えるよう金属っぽい艶を、鯛などには漆調のものを使いました」photo:Hiroaki Zenke

月岡彩さんは伊予水引金封協同組合とコラボレーション、普段はさまざまな色で作られる結納飾りの水引を白一色で作ったものと、ある特定の色一色で作ったものを展示しました。この協同組合には複数の会社が属しているのですが、メーカーによって同じ松や鶴といったモチーフでもそれぞれ違う仕上がりになるのだそう。その技を見てほしくて、白一色のものを作りました。色がついているものは、そのモチーフから月岡さんが連想した色を使っています。

「作っているのを見ていると簡単なように思えるのですが、そう簡単にはできない。この繊細な技を後世に残していかないと、と思ったんです」と月岡さん。水引の新しい顔を見せてくれます。

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ペンライトをあてると影絵のように浮かび上がるステンレスのオブジェ。photo:Hiroaki Zenke

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従業員の方が作った船。牛島さんの予想を超えて巨大なものができました。photo:Hiroaki Zenke

ステンレス工場を“海”にしてしまったのは牛島光太郎さん。彼は、大伸ステンレスの従業員に海にまつわる思い出を聞き、それをもとにステンレスのオブジェを制作、工場内のあちこちから吊るしました。観客は暗い中、ペンライトを片手に“海中散歩”を楽しみます。ステンレスのオブジェの影が壁に映ったり、反射した光が波のように見えたり。大きな船は牛島さんの依頼で従業員の方が作ったもの。「できるだけ大きなものを作ってください、とは言ったんですが、こんなに大きくなるとは思っていませんでした」と牛島さん。アーティストでなくても、思いがけない力を発揮することがあるのです。

「アーティスト in ファクトリー」ではこのほかにもユニークな組み合わせの“工場見学”が行われています。残念ながらどこも1日限りなので、ここで紹介したものは終了してしまっているのですが、5月18日には5つの会社で行われます。またアーティストが参加しない工場見学「オープンファクトリー」も開催。さまざまな先端技術を学べます。

「えひめさんさん物語」はこのあとも続きます。8月にはアーティスト、木村崇人さんの「水に浮くまち」アートプロジェクトが、11月にはひびのこづえがデザインした紙の衣装をまとったパフォーマーが見せる「紙のサーカス」が行われます。このほかにもフォトコンテストやコンサートなども。山と海と工場とアート、いろんなものが一度に楽しめる祭りです。

次号予告

ファッションについて 語るときに あの人の語ること。