アーティストが直接売るから面白い! 京都でのアートフェアをレポート

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「ARTISTS' FAIR KYOTO 2021」で若手作家の支援を目的とする「Akatsuki ART AWARD」最優秀賞を受賞した野田幸江さんの作品。ふだんは花屋さんで働いているという彼女の作品は植物の葉や根を糸で巻いたり、土と植物の綿毛、弁柄や柿渋をこねて成形したもの。野田さんは「目に見える当たり前の風景の中の見えないものを描きたい」と言います。

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「Akatsuki ART AWARD」優秀賞の藤本純輝さん作品。フェンスや葉のように見える画面は通常使われるキャンバスではなくリネンや綿布を染めたり切ったりして作られています。

京都で3月6日・7日に開かれた「ARTISTS' FAIR KYOTO 2021」に行ってきました。自身もアーティストであり、京都芸術大学で教鞭を執る椿昇さんが企画、今年で4回目(昨年はコロナ禍のため中止)となるアートフェアです。メイン会場は京都文化博物館別館と京都新聞ビル地下1階の2カ所でした。京都文化博物館は辰野金吾と弟子の長野宇平治が設計した旧日本銀行京都支店を保存活用したもの。京都新聞ビル地下1階はもともと新聞の印刷所として使われていた場所で、真っ黒な床や壁がインダストリアルな雰囲気です。出展したアーティストは42組。椿さんを始め、名和晃平さんや塩田千春さんらアドバイザリーボードの推薦と公募で選ばれました。

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「Akatsuki ART AWARD」優秀賞の檜皮一彦さん作品。京都文化博物館の小部屋に自身が使っている車椅子を使ったオブジェと、パフォーマンス映像によるインスタレーションを展示しています。左のオブジェから拾った音などからなるサウンドが部屋に響きます。

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藤野裕美子さんの作品は子どものころよく訪れた親戚の家を再訪し、そこにあった日用品や植物を描いたもの。「過去と現在とが地続きになっていることを感じた」(藤野さん)

このフェアの特徴はギャラリーではなく、アーティストが出展していること。アートフェアやアートマーケットではギャラリーやオークション会社がブースを構え、それぞれが扱う作家や作品を展示販売します。「ARTISTS' FAIR KYOTO 2021」はアーティストが直接、自作を説明し、販売します。「産地直送」と椿さんは呼んでいます。

「作品が売れれば画材やアトリエの費用が出せて、次の作品を制作できます。拡大再生産のサイクルができるんです」

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長島伊織さんの絵画作品。右下、テレビの中のどくろの絵はメディアによって報道されたものと見る人との間の距離感といった、現代の状況と関連しています。

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版画を学んだ六根由里香さんの作品は身近な日用品をビニールで包んでトレースしたもの。「展開図にもならない不確かな線」(六根さん)が生まれます。

椿さんはこのアートフェアを「教育の場」だとも言います。その対象はアーティストとマーケット(コレクター)の両方です。実際に、会場にいる作家さんに作品について聞いてみるとよく練られたコンセプトをしっかりと説明してくれます。

「アーティストは企業家や投資家と世界の問題を対等に話すことができるぐらい勉強しないといけない」と椿さんは考えているのです。売るという体験がアーティストを鍛えます。

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佐藤壮馬さん作品は彼が住んでいたロンドンの家を立体的にスキャンしたデータから制作したもの。どこまでが客観的なものでどこまでが主観なのか、そのあいまいな境界がテーマです。

このフェアではアーティスト自身が値をつけています。このとき、「高い値をつけすぎるのはよくない」と椿さんは言います。「一度上げたら下げることはできないし、市場が荒れてつぶされてしまう」と言うのです。

同時にコレクターのほうも買うとなると、その価格が妥当かどうかを自分で判断しなければなりません。大げさにいえばアーティストとコレクターの真剣勝負の場になるのです。といってもアートの良し悪しは、自分が好きかどうかということが大きな決め手です。勝負の相手はアーティスト対コレクターというわけではなく、それぞれ自分との闘いになると言えるでしょう。

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ケント紙に黒インクで細かく描かれた田島大介さん作品(部分)。台湾や香港などの街並みからインスピレーションを得ているのだそう。

ただしこのフェアでは椿さんの言うとおり、驚くほど高価なものはありません。プライスリストも用意されているので、気になるものがあれば気軽に値段を聞くことができます。購入しなくても互いに作品のコンセプトや価格の話をすることで、切磋琢磨しながら見せ方・見方をブラッシュアップしていく場になっています。

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京町家を改修してホテルにした「庵町家ステイ『三坊西洞院町家』」でのサテライト展示、品川美香さん作品。「七歳までは神のうち」という昔の言い伝えからインスピレーションを得ています。(展示は終了)

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サテライト展示の一つ、『奥の工場見学』。千丸屋京湯葉本店の奥にある、今は使われていない湯葉工場を使った黒川岳さんのインスタレーション。湯葉を製造する機械を使ったサウンドインスタレーションが空間を包みます。(展示は終了)

作家によっては一般公開の前に開かれる内覧会で完売した人もいました。面白いのは「売るために作ったものは売れない。ピュアなものしか残らない」(椿さん)ということです。

「死んでも描く、というアーティストでないと」(椿さん)

もう一つのキーワードは「オルタナティブであること」。

「日本では高度経済成長期の成功体験が大きすぎる。その頃の思い込みを外すことが必要なんです。その外し方は各自、違うものになる。オルタナティブは『在野』と訳されることもあります。常に外部にいること、逃げ続けることが重要なんです」

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メイン会場の一つ、京都文化博物館別館。

「アートが面白いのは、人間が予測不可能なものだから」と言う椿さん。実際に、作品について作家に聞いてみると予想できない、意外な言葉が次々に飛び出します。椿さんの言うことが実感できるアートフェアでした。

「ARTISTS' FAIR KYOTO 2021」、リアルでの展示は終了していますが、3月中旬から3Dアーカイブの公開が予定されています。また市内8カ所でサテライト展示が同時開催され、その中にはまだ見られるものもあります。来年を楽しみにしつつ、チェックしてみてください。

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メイン会場の京都新聞ビル地下1階。

※「ARTISTS' FAIR KYOTO 2021」(京都文化博物館別館、京都新聞ビル地下1階)での展示は終了。
3月中旬からウェブで3Dアーカイブが公開される予定。
https://artists-fair.kyoto

※サテライト展示のうち下記は3月14日まで開催。
・KYOTO ART LOUNGE EXHIBITION表裏のバイパス 
・菊池和晃、TOBOE(西條茜×バロンタン・ガブリエ)、吉田桃子
・藤井大丸ブラックストレージ
・CONNECT
・鬼頭健吾
・藤井大丸1F
https://artists-fair.kyoto/events/

※下記は3月21日まで開催。
・see sew scene
・松村咲希
・y gion 4Fラウンジ
https://artists-fair.kyoto/events/