Forensic Architecture と おてらおやつクラブ
Takahiro Tsuchida

Takahiro Tsuchida / Design Journalist / Writer
土田 貴宏/デザインジャーナリスト/ライター

2001年からフリーランスで活動。国内外での取材やリサーチを通して、雑誌をはじめ各種媒体に寄稿中。家具などのプロダクトを中心とするデザインと、その周辺のカルチャーについて書くことが多い。東京藝術大学などで非常勤講師を務める。
https://www.instagram.com/tt0/

Recent
Post

«

»
Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat

過去記事一覧へ

Forensic Architecture と おてらおやつクラブ

Forensic Architecture と おてらおやつクラブ

画像はすべてEyal Weizman「Forensic Architecture」より。

Eyal Weizman「Forensic Architecture」という本を入手しました。自分の英語力ではその大半を理解できてないにもかかわらず、ページをめくる度にドキドキさせてくれる、不思議な1冊。

そもそもForensic Architectureに自分が興味を持ったのは、Twitterで知った記事「2018 ターナー賞 展示 | Forensic Architecture」と、書籍レビュー「Eyal Weizman “Forensic Architecture VIOLENCE AT THE THRESHOLD OF DETECTABILITY” 建築が証言するとき──実践する人権をめざして」によるところが大きく、それぞれに情報豊富で考察も優れたすばらしいテキストなので、内容についてはそちらをどうぞ。

Forensic Architecture と おてらおやつクラブ

データをもとに、ある日時の都市の様子を再現し、武力攻撃などの検証を可能にしていく。

この本を買ったのが11月初めで、その後、毎年恒例のArtReviewのPower 100でForensic Architecture主宰者のEyal Weizmanが9位になり(去年は94位)、毎年恒例のロンドンデザインミュージアムのBeazley Design of the Yearに彼らの「Counter Investigations」展が選ばれ(去年は建築部門の一候補)、12月4日のターナー賞発表が急に気になってきた。

Forensic Architecture と おてらおやつクラブ

「Living Death Camp」というセルビアでの研究作品から。

約15人で構成されるForensic Architectureは、ディレクターのEyal Weizmanはじめ数人が建築のバックグラウンドをもっているけれど、映像、アニメーション、法律、ジャーナリズムなどを専門にするメンバーもいる。それぞれのノウハウと最新のデジタル技術を活かし、各国の人権侵害や武力紛争などの解決のために、科学的検証を重ねてデータ上で建築をつくり出し、それを裁判などに生かしている。また、そのプロセスや成果を展示として発表することも多く、ドクメンタ、ヴェネチア・ビエンナーレ、ロンドン・デザイン・ビエンナーレなど国際的なフェアにも参加している。

Forensic Architecture と おてらおやつクラブ

   

個人的に興味深いのは、Forensic Architectureの活動やそれに対する評価が、昨今のいろいろな動きを象徴しているように思えるから。というのは、アート〜デザイン〜建築の境界が曖昧になってきたこと、背景に新しいテクノロジーの発展があること、個人でなく多様性をもつチームで活動していること、デジタルテクノロジーが公私のヒエラルキーを無力化すること、作品の主軸が「もの」から行為に変化していること、社会的表現が問題提起から直接的問題解決に移ってきたこと(この点はバンクシーやChim↑Pomとの比較もありうる)、評価する側もまた政治的視点を持たざるをえないこと、等々。Forensic Architectureがデザイナー・オブ・ザ・イヤーとターナー賞をダブル受賞すると、アートの定義は多少なりとも書き換わるはずで、社会活動とアート(そしてデザイン)の新しい関係性からどんな領域が生まれていくんだろう。若干の不安もあるとはいえ期待したい。

Forensic Architecture と おてらおやつクラブ

2016年のヴェネツィア・ビエンナーレ建築展でのForensic Architectureの展示。

最近、ちょっと似たようなことを感じたのは、2018年度グッドデザイン賞大賞の「おてらおやつクラブ」の受賞だった。その詳細はこちらのPenの記事に詳しいけれど、このお寺による貧困救済プロジェクトにはいわゆるデザイナーがかかわっておらず、受賞したのは活動であって「もの」がほぼ関与していない。グッドデザイン賞がサービスやプロジェクトを対象にして久しいとはいえ、デザインというより単に“善行”なのでは、という意見もありうる。これがデザインならその可能性を広げることになる一方、デザインの定義は多少なりとも書き換わるはずで…(以下同文)。

日本のグッドデザイン賞が1950年代に始まった当初は優れたプロダクトを選定し普及させるものだったのが、近年は移り変わるデザインの定義を更新するものになったと感じていた。それが今後は、アワードを通して「これがデザインだとしたら」という議論の提起や可能性の提示も重視されていくのかなと。もしもそうだとしたら(議論が起きることのリスクもふまえた上で)その動きに期待したいし応援したい。

ところでPenの最新号もクリエイター・アワード2018。日本のクリエイターが対象の企画ですが、もしもその世界バージョンがあったらForensic Architectureが入ったかな、と想像してしまいます。

PAGE TOP

Forensic Architecture と おてらおやつクラブ