紙が書く 記憶が書く

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紙が書く 記憶が書く

アートブックや芸術表現を伝える(媒介する)立場の人間として、
自分のなかの淀みをなるべくすみやかに解き放ち、新しい風が吹くように整えておく。
このことが何よりも大切だと感じています。


わたしにとって感覚を開き、研ぎ澄ませておくための秘訣とは?
ひとつは、自然のなかに身を置くこと。
それと同じくらい、芸術作品や表現の在るところへと訪れ、直接観て感じることを欠かすことはできません。


自らの身体と精神でもって対峙し、五感を通じて享受する。
すると、その本質に迫ることができるのだと感じています。


こうした体験から感じることは、ほんとうにさまざまです。
視野を広げてくれることもあれば、目から鱗のこともある。
刺激を受け、活力をもたらしてくれることもあるでしょう。
ひょっとしたら、癒しを得ることがあるかもしれません。


ただ、こればかりは、実際に触れてみないとわからない。
そんなときは、まずは自分のなかをからっぽにして、何も考えずその場に身を置いてみるといいですよ。


先日、ちょうどそんな出来事があったので、ぜひここでご紹介させてもらいます。

紙が書く 記憶が書く

恵比寿から渋谷方面へと向かい、JRの線路沿いに歩みを進めること10分ほど。
清掃工場の手前のあたりの一角にあるマンションの1Fに、大きなウィンドウのあるスペースが見つかります。
ここにあるのが、nidi gallery(ニーディギャラリー)


今回は、友人であるベルリン在住のグラフィックデザイナーでペインターの阿部 寛文くんが展覧会を開催すると聞き、一時帰国中の在廊日をめがけて伺おうとしたのが訪問のきっかけでした。

紙が書く 記憶が書く

本展に発表していた阿部くんの作品たちのうちの一部。和紙の風合いとも相性がよく、額なしで直接観れたことがとてもよかった。

阿部くんの描く有機的な線やフォルムは、語弊を恐れずに言えば、主張の強い類のものではありません。
伸びやかであるけれど、だからといって角のとれた丸みのある印象とは程遠い。
たおやかな芯があり、それが確と根ざしているのだろうということがよく解ります。


彼の描くものをこれから先も観させてもらいたい。
そう感じるがゆえに、都内で展覧会があれば欠かさず足を運ぶようになりました。

紙が書く 記憶が書く

日本製の原稿用紙に書き留められた短いことばたち。独特の風情がありました。

どうやら今回は二人展とのこと。
どんなひととご一緒するのだろう?
敢えて事前に調べることはせず、会場に到着しました。


本展での彼の相棒は、紙事(かみごと)さん。
あらゆる紙にまつわるおしごとをされている一方で、文字を整えるお稽古をされていらっしゃいます。


彼女となじみのある日本・香港・ベルリンという土地で収集したありとあらゆる紙を、ベルリンにいる阿部くんに送り、そこに彼が描く。
本展では、こうしてつくりだされた作品たちが発表されています。

紙が書く 記憶が書く

2018年12月に毎日描かれたドローイングのインスタレーション。支持体になる紙は中国・香港・台湾の風習で使われる「冥銭」で、死者に向けての餞として供される。

会場では紙事の渡邊 絢さんも在廊されており、運良くはじめましてのごあいさつができました。
かねてより紙好きのわたしは、ついつい熱が入り、夢中になっていろいろと質問してしまいました…!


本人のことばのなかでも印象的だったこと。
それは、「アーティストと呼ばれることに違和感を覚える」というものでした。


紙事さんの役目とは、紙を見つけ出してくること。
その紙を使って、誰かが表現をあらわしてくれることを求めています。
今回でいえば、彼女が紙というお題を投げかけ、阿部くんがドローイングで応える。
このキャッチボールのようなやりとりで生まれる紙とドローイングの関係性は、そのどちらもが主役であり、主役ではないのでしょう。


この話を通じたごく個人的な所感を打ち明けるとしたら、あくまで紙の媒介者を志向するスタンスにとても共感を覚えました。
きっとそれは、わたしたちが普段POSTの取り組みのなかでアートブックをお客さまに伝える役割であるからこそ感じ得たことなのかもしれません。


その一方で、彼女の活動は充分に創造的なものであるとも感じてます。
そのひとなりの得意を活かしたやり方で、誰かに影響を与えたり、なにかしらの痕跡を残すということが、根源的な意味でクリエイティブなのだろうなぁ。

紙が書く 記憶が書く

折りたたまれた紙を広げると、大判のドローイングが紐解かれます。二色のコントラストも絶妙で美しい。

展覧会は、発表者本人にとってかけがえのない糧を与えてくれる絶好の機会となります。
それだけではなく、実は鑑賞者にも思いがけないギフトを授けてくれるものです。


今回で言えば、紙事さんと阿部くんがそれぞれ活動し続けてくれたおかげで、二者による共同作業が結実しました。
そして、わたしは阿部くんのおかげで、nidi galleryさんや紙事さんとのご縁を結んでもらいました。
想像以上に素晴らしい連なりに、心に灯がともる想いです。


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紙事 × 阿部寛文 二人展
「紙が書く 記憶が書く」
会期:2019/2/1(金) - 2/14(木)  13:00-20:00
   ※2/6(水)、2/13(水)は休廊
会場:nidi gallery
https://nidigallery.com/news/20190201

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