敵わないもの
Takiko Nishiki

Takiko Nishiki / POST,limArt
錦 多希子/POST、limArt

1984年東京生まれ。2012年より東京・恵比寿にあるアートブックショップ+ギャラリーPOSTに勤務。店頭対応のほかに、ウェブサイト上で新着本の紹介を更新する。その傍らに、CLUÉL hommeやPen onlineでの連載、インタビュー記事・コラム執筆などを手がける。

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敵わないもの

いまさらですが…POSTは東京・恵比寿に実店舗を構え、主に洋書の美術書を販売したり、本にまつわる展覧会を開催しています。


日々店頭にいてお客さまや作家さんをお出迎えするなかで、それぞれとの対話が繰り広げられていきます。
それはこちら側が本や作品を紹介する、一方的な関係性だけではありません。

たとえば、お客さまの専門分野にまつわる知識や教養を解説してもらうことがあります。
そんなときは、すっかり生徒のような気持ちで貪欲に教えを請うのです。
また、近頃鑑賞した展覧会をおすすめしてもらったり、作品を観たときの感想を伝えあったりもします。
情報交換する間柄でもあり、場合によっては相談相手にもなってくださる。

それにしても、お客さまからいただくもののなんと多いことか!
こればかりはほんとうに役得だなぁ、とありがたく感じています。

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先日、すっきりしない天候のなか、足を運んでくださったお客さまがいらっしゃいました。
その方と会話するなかで、
「そういえば、錦さんはどんな作家さんや作品がすきなのですか?」と質問を受けました。


もちろんすきな作家さんや作品は数多いけれど、それをことばにするとしたらどういった風に形容すればいいのだろう…?
ほんの一瞬、考えを巡らせてみる。
思案の末に出た答えは、「ただ圧倒させられる体感型の作品」でした。


具体的な作家名を挙げるとしたら、
金沢21世紀美術館や直島の地中美術館でもおなじみの、James Turrell(ジェームズ・タレル)。
ありとあらゆる事象に向き合い壮大なインスタレーションを出現させる、Olafur Eliasson(オラファー・エリアソン)。
最も影響力のある現代彫刻家のひとり、Anish Kapoor(アニッシュ・カプーア)。


圧倒的な存在感のある彼らの作品はただ観るという行為で成立するというよりは、そのなかに身を置くことによって体感する、といったほうが適切かもしれません。
こんな特異な状況に身を置いたら最後、それ以上思考をめぐらすことができなくなる。
失ったことばの代わりに、気づけば涙が頬を伝っていることもありました。
まるで大自然のなかに身ひとつで放り出されたような、満天の星空の下に立ち尽くすような、てんで敵わないという気持ちになるのです。
こうした体験は、まだまだつぼみだったわたしのなかにある感覚をぐっとひらいてくれました。


例えばタレルの光など、自然界にあるものを用いた作品であるということも切り離せません。
普段から身近にありながらも、その存在を深く考えるまでもないほど当たり前になってしまっているものにフォーカスを当てる。
視界を押し広げてくれるような、もうひとつ別の視点を与えてくれるような計らいのおかげで、自分の世界が彩りを増し、より拡張されていく。
芸術表現を通じて、精神的な豊かさを享受できることのありがたさをかみしめています。


仮に作家さんや作品のことをよく知らなかったとしても、そこから得る感動が有り余る。
明確な答えを持ち合わせていないからこそ、観る者がめいめいに受け取れるだけの度量がある。
問答無用で観る者の心を揺さぶる表現こそ真の意味で説得力があり、強いものなのだと実感したのでした。

敵わないもの

カプーアの作品集(※すでに絶版)

こうやって質問を投げかけてもらわない限り、なかなか自分の「すき」に対して掘り下げることってないですね。
そうした機会をもたらしてくださったお客さまに、またしても感謝するわたしなのでした。

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敵わないもの

次号予告

ブルックス ブラザーズから始まった定番スタイル

やっぱり、アメトラでいこう。