Takiko Nishiki

Takiko Nishiki / POST,limArt
錦 多希子/POST、limArt

1984年東京生まれ。2012年より東京・恵比寿にあるアートブックショップ+ギャラリーPOSTに勤務。店頭対応のほかに、ウェブサイト上で新着本の紹介を更新する。その傍らに、CLUÉL hommeやPen onlineでの連載、インタビュー記事・コラム執筆などを手がける。

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北アルプスのふもとで

思い立ったが吉日で、先日、信州・松本へ日帰り小旅行をしてきました。


数年前、あがたの森で開催されるクラフトフェアまつもとに訪れた際に、のびのびとした緑や澄んだ空気にすっかり魅了され、その後気づけば年に2回は必ずといっていいほど、季節を変えては訪れています。

北アルプスのふもとで

いつぞやのクラフトフェアのようす
青空と山、芝生のコントラストが最高です

今回は日帰りで時間に限りがあるということもあり、
松本市内を拠点に、「いつも行くところ」にターゲットを絞ってまわることにしました。


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個人的関心が民藝に注がれている今日この頃、この熱意を原動力にいざ、「松本民芸館」を目指します。

故・丸山太郎さんは、柳宗悦さんらが展開していた民藝運動に深く共鳴し、1962年に市内郊外に同館を創設。初代館長に就任しました。

彼の愛蔵品でもあった民藝の品々が今もなお受け継がれ、季節の変化にあわせて展示替えをされています。

あたりを田畑に囲まれたのどかな空気がただようこの民芸館も、わたしにとって大切な場所のひとつ。
短い滞在にはなりましたが、3度目の再訪が叶いました。

その日はガラスにまつわる企画展が催されていました。
透き通った質感に里山の風があいまって、曇った心も晴れやかになるような清涼感をもたらしてくれます。

北アルプスのふもとで

世界各地の櫛コレクション

展示室に入って一番最初に出逢うのが、額に収められた彼のことば。
皆さんにもぜひご紹介させてください。


美しいものが美しい
では何が美しいかと申しますと
色とか模様とか型とか材料とかいろいろあります
その説明があって物を見るより無言で語りかけてくる物の美を
感じることの方が大切です
何時何処で何んに使ったかと云うことでなく
その物の持つ美を直感で見てください
これはほとんど無名の職人達の手仕事で日常品です
美には国境はありません


このことばの対峙こそ、何よりも大切なひととき。
まるで禊のように心が洗われ、まっさらな気持ちで民藝品と向き合う準備が整います。

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帰り道、バス停に向かう途中に見かけた稲穂の海。
日に日に実っていく頃合いなのでしょう。
風に吹かれて気持ちよさそうでした。


つい工芸や民藝の話が尽きないのですが…このへんで食の話題に移ります。


お昼には、もとは地元の方からおすすめいただいて知ることとなった「滿」さんへ。

市街地を抜けた川沿いから一本裏手に入ったその場所は、門前から厳かで凛とした空気がただよっています。
少々緊張しながら、いざ引き戸を開けて中へ入ると…いつも変わらぬ穏やかで温かな笑顔が出迎えてくれました。

丹念に腕をふるう料理人のご主人と、客席での応対を担う奥さまとで営むこのお店に伺うことが、いつしか松本に訪れるなによりの理由になりました。

お料理にあわせて見立てたうつわ。
はっと息を呑むような、美しいたたずまいの調度品やしつらえ。
床の間に飾られた一輪の草花や、中庭から見やる四季折々の風景。
彼らが慈しみを感じたものが選ばれ、そこに在るのです。
ひとつひとつ丁寧に心を添えられていらっしゃるようすに毎度ながら感銘を受け、感性を研ぎ澄ませるきっかけをもらいます。

コースで用意される料理には、ときに狩猟によってしとめた獣肉や、野山に分け入って採取したきのこや山菜といった旬のものが並びます。
食するという行為はすなわち、いのちをいただくということ。
生きるうえで忘れてはならない、本質的なことを思い起こさせてくれる。
かけがえのないひとときです。


今回もおふたりの真心を受け取り、想像以上に素晴らしい昼餉となりました。



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実はもうひとつ、楽しみにしていたことがあるのです。

昨秋、こよなく愛するヴァン・ナチュール(自然派ワイン)を扱うお店がオープンしたと聞きつけてやってきました。
前回は年末年始でお店を閉めていらしたので、念願の初来店…!

夜の営業スタートを待ち、いざ店内へ。
ウォークインできる大きなワインセラーと、自ら仕込まれた自家製腸詰が出迎えてくれました。

テントを張るときに欠かせない「peg(ペグ)」という名を授かったこのお店は、アウトドアを愛するご夫妻が切り盛りしています。
ご主人がワイン担当、奥さまがスペシャルティコーヒー担当。
下北沢で互いにワインとコーヒーの道をつきつめたのち、昨年ふたりの故郷である松本へと移住されました。

北アルプスのふもとで

昨日仕込んだソーセージと長野産野菜のはさみ焼き
おいしいうえに彩りや盛り付けも美しく、目の保養にもなりました

信州の澄んだ空気や水の恩恵を受けて、野菜もみずみずしく育ちます。
お店で調理されるお野菜は、地元で農耕に勤しむ同世代のSASAKI SEEDSさんから直接仕入れているのだそう。
固定種・在来種、自然栽培といった、より自然なお野菜を使われることに重点をおいていらっしゃいます。
健やかなお野菜本来の味はとても濃厚で、身体が喜んでいるのを感じます。

都会からやってきたわたしたちにも、新鮮な農作物をその土地で食べさせてもらえる機会をもたらしてくれること。
そのありがたさと素晴らしさを実感しながら、おいしくいただきました。


カウンター席に座ってご夫妻やいらしたお客さまと、食を通じてたわいもない会話をしているとき、
その場でしか生まれない、心のかよったコミュニケーションが生まれます。

流れに身を任せてその瞬間を愉しんでいくと、こうした思いがけないめぐり逢わせが重なるものですね。
この偶然の奇跡を味わいたくて、ついつい旅にでてしまうのです。

北アルプスのふもとで

そうそう、日中には夏らしい青空が広がっていたにもかかわらず、夕方には大きな虹がでました。
何を隠そう、山の日はわたしの誕生日。
まるで空から祝福されているようで、とびきりのギフトに幸せな気持ちになりました。

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