Takahiko Ishizaki

Takahiko Ishizaki / Writer / Kannushi
石﨑 貴比古/神主ライター

1978年生まれ。東京外国語大学大学院博士前期課程修了。「週刊新潮」、「Pen」の編集部を経てフリー。茨城県石岡市にある常陸國總社宮(ひたちのくにそうしゃぐう)という神社の禰宜(ねぎ)。お祭りやお祓いをしたり、原稿を書いたり書かなかったりして暮らす。趣味は料理と禊。インドでの「ガンジス禊」を計画中だが胃腸に不安が残る。
神社公式facebookページ:http://www.facebook.com/sosyagu

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神職の学び舎に響く、観月の調べ。

神職の学び舎に響く、観月の調べ。

神主さんになるのには免許があるんですか?

たまに訊かれる質問です。

あります。


全国の神社の多くが所属する神社本庁では神職に「階位」と呼ばれるライセンスを発行している。階位とはいわゆる階級で上から浄階、明階、正階、権正階、直階と5段階。


階位を取得するにはいくつかの手立てがあるが、そのうちの一つが神職養成課程のある大学に進学する、というもの。東は東京・渋谷の國學院大學、西は三重県・伊勢の皇學館大學がそれである。


今回、國學院大學神道文化学部の学生達が毎年実施している「観月祭」にご招待いただいた。


代官山からほど近い渋谷キャンパスは近年校舎が一新され、現代的な都市型大学として整備された。

明治15年に創設された皇典講究所に端を発する由緒ある歴史を基礎に、日々進化を続けているのだ。今回取材した観月祭もその進化の一つ。長年、学生たちに受け継がれていた想いが結実し、平成22年から始められた「古くて新しい祭り」である。


観月祭とはその名の通り「月を観る祭り」。旧暦8月は大気の状態がよく、緯度の関係もあってちょうどよい高さに月が昇る。唐代の中国の月見の風習が平安貴族に伝わり、月を愛でつつ管弦や美酒を楽しむ風雅な文化として育まれた。各地の神社でもこの時期観月祭を行うところがある。


國學院大學の観月祭は約150名もの学生有志が参加する一大行事。5月から稽古が行われ当日の設営や装束の着装も教授陣の指導の下、学生自らが行う。


10月21日の当日はあいにくの雨だったが観客は満員御礼。年を追うごとに世間の耳目を集め、近隣の住民や学生の父母はもちろん、祭り見たさに遠方から訪れる人もある。


神職の学び舎に響く、観月の調べ。

16時。純白の浄衣を身にまとった茂木貞純教授の司会のもと、舞台の前に月の神さまへの供物として酒、月見だんご、里芋、栗など秋の作物が献じられるといよいよ演奏がスタート。


まずは雅楽器の演奏のみを楽しむ「管弦」。笙、篳篥、龍笛の三管に琵琶と筝の両弦、そして楽太鼓、鉦鼓、羯鼓から成る三鼓によって構成される雅楽のオーケストラだ。

「双調」と呼ばれる調子の音合わせに当たる「音取(ねとり)」に続いて「武徳楽」「陵王」が、海松色の直垂に引立烏帽子姿で揃えた総勢60名もの学生によって演じられる音色はなかなかの迫力だ。

神職の学び舎に響く、観月の調べ。

鞨鼓と鳳笙

雅楽の演奏は書道や装束の着装と並び、神職が実務上体得していると重宝されるスキルの1つ。


私がお仕えする常陸国総社宮でも地区の神職が集って雅楽の練習を定期的に行っており、自分も子供の頃に竜笛を習っていたが、体得というレベルには到っていないから学生たちがちょっとうらやましい。

続いて演じられたのは朝日舞、浦安の舞という二種の「祭祀舞」。

朝日舞は神職が衣冠の正服のまま榊の枝を持って舞うもので、一社の宮司が舞えたりするとなかなか貫禄のあるもの。

一方の浦安の舞はいわゆる巫女舞の一つで、普段神社の授与所で見かける巫女さんの衣装が数倍グレードアップした「大装束」を纏った4名によって行われた。装束が非常に高価なこともあり、大規模な神社でなければ正装した複数人での舞いはなかなかお目にかかれない。



神職の学び舎に響く、観月の調べ。

4名の女学生による「浦安の舞」。

最後の「舞楽」は舞台を清める意味もある「振鉾」に続いて「迦陵頻(かりょうびん)」と「抜頭」が舞われた。


祭祀舞が神職、巫女の装束のまま舞われるのに対し、舞楽のほうはもっと大掛かりな装束が用いられる。

迦陵頻は極楽浄土に住む鳥の身体を持つ美少女の姿を模した童女が舞うもの。鮮やかな翼と胸当てを身につけた4名が銅拍手と呼ばれる小型のシンバルのような楽器を手に、可憐な舞を見せてくれた。

一方の抜頭は赤色で鼻が高く、長い髪の異形の面を被った一人が舞うもので前者の舞とは好対照。親を殺した猛獣を倒して歓喜する姿であるとか、狂った妃が髪をかきむしる姿であるとか由来は諸説あるが、グロテスクななかにも荘厳な雰囲気を持つ、趣のある舞楽である。

神職の学び舎に響く、観月の調べ。

振鉾

神職の学び舎に響く、観月の調べ。

迦陵頻

総じて見ると全員学生というのが信じがたいほど、高いレベルの演奏だった。

一般企業と同様、就職戦線は厳しい業界だけれど、それぞれの想いを胸に立派な神職になってくれればと思う。


國學院大學の観月祭についてもっと詳しく知りたい方は、こちらをどうぞ。

https://www.kokugakuin.ac.jp/education/fd/shinto/about/moonlight_index

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