Takahiko Ishizaki

Takahiko Ishizaki / Writer / Kannushi
石﨑 貴比古/神主ライター

1978年生まれ。東京外国語大学大学院博士前期課程修了。「週刊新潮」、「Pen」の編集部を経てフリー。茨城県石岡市にある常陸國總社宮(ひたちのくにそうしゃぐう)という神社の禰宜(ねぎ)。お祭りやお祓いをしたり、原稿を書いたり書かなかったりして暮らす。趣味は料理と禊。インドでの「ガンジス禊」を計画中だが胃腸に不安が残る。
神社公式facebookページ:http://www.facebook.com/sosyagu

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常陸国の手仕事2~小佐畑孝雄の雛人形~

常陸国の手仕事2~小佐畑孝雄の雛人形~

男雛の衣装は正絹の西陣織、黄櫨染(こうろぜん)、桐竹鳳凰麒麟文錦(きりたけほうおうきりんもんにしき)。

男兄弟しかいない家庭に育ったので雛人形に特段の思い入れはなかったと言っていいと思う。しかし数年前、ある男性に出会ってから「雛人形というもの」に対して自分なりの考えというか、意見めいたものを表明しなければいけないような気がしてきた。


男性の名は小佐畑孝雄。現代の常陸国(茨城県)で活躍する人形アーティストだ。


昭和47年、城里町(旧桂村)に生まれた小佐畑さんは、現在社長を務める「桂雛」の創始者である祖父・喜士さんに人形作りの手ほどきを受けた。その後静岡県での修行を経て三代目を襲名した。彼は雛人形に対する想いをこう語る。


「雛人形は一般的に“かわいい”と称されるものなのかもしれません。しかし私が思う雛人形は工芸品であり“かっこよくて、セックスアピールがあるもの”です。私は日本一の人形師になりたいと思っていますが、同時に人形たちが人形であることに留まって欲しくないという想いもあります。自分が目指している雛人形は“インテリア・アート”です。360度どこから見ても美しい姿態。世に言う“四十八茶百鼠(しじゅうはっちゃひゃくねずみ)”のような奥深い色彩感覚や、文様文化の限りない象徴性。絵画のように壁に飾ってもいい。書斎の座右で日々眺めてもいい。所有者の望みのままに、彼らに相応しい居場所を探して欲しいと思っているんです」


インテリアとしての雛人形?と脳内に疑問符が生じた方は、彼のアトリエを兼ねたショップを訪ねてみるといい。小佐畑さんが敬愛するミース・ファン・デル・ローエやハンス・J・ウェグナーといったデザイナーによるインテリアが配された室内には、節句品という枠を超えた形で存在する人形たちの姿を目にすることが出来るだろう。

常陸国の手仕事2~小佐畑孝雄の雛人形~

常陸国の手仕事2~小佐畑孝雄の雛人形~

今回娘の初節句のために親王飾り、つまりお内裏様とお雛様が対になったシンプルな雛人形を購入した。当然ながら手作りの人形たちの表情は、一体ずつ異なる。その中で最も表情や衣装の意匠が気に入ったものを選んだ。


男雛が身に纏っている装束は黄櫨染(こうろぜん)の袍(ほう)と言う。実はこの言葉、神主なら必ず知っているはずのキーワードだ。袍とは衣冠束帯と呼ばれるスタイルの上衣として着るもので、簡単に言えば皇族・貴族のフォーマルウェア。黄櫨染(こうろぜん)の袍は中でも天皇が現在でも宮中祭祀に用いる最高位の衣装だ。光の当たり具合により赤や黄色味を帯びた茶色へ変化し、最も高貴な色とも称される。


また、文様に描かれている鳳凰は「桐に宿して、竹の実を食す」と言われているため、桐と竹が一緒に描かれることが多い。鳳は雄を、凰は雌を表し、麒麟などと同様に空想上の生き物であり、桐竹鳳凰麒麟文もまた高貴な意匠として名高い。今年の干支は酉年だし、縁起も良い。


物事には数奇なめぐり合わせがあるもので、小佐畑さんは天皇皇后両陛下が第56回全国植樹祭に際して茨城県においでになった平成17年に、県からのご指名を受けて投宿先のホテルに雛人形を展示したことがある。僕がこの雛人形を選んだのは小佐畑さんにとっては偶然だったかもしれないが、祭祀を生業とする自分がこういった衣装の雛人形を選んだのは、必然と言えば必然だったのかもしれない。


一方の女雛の唐衣と表着には同柄の裂地が着せられている。この小葵文は銭葵という植物がモチーフ。生命力が強いことから「子孫繁栄」を意味するという。そして金糸で織り上げた浮線の丸文は唐花を円形の中に割り付けた有職文様だ。いわゆる十二単で「紫村濃(むらさきむらご)」という呼び名の色使いだと教えてもららった。「実りや豊かさを象徴しているのではないかと思われます」と小佐畑さん。


常陸国の手仕事2~小佐畑孝雄の雛人形~

女雛の一番上の唐衣(からぎぬ)は朱地小葵地浮線(しゅじこあおいじふせん)の丸文錦(まるもんにしき)。二番目の「表着(うわぎ)」は濃紫地小葵地浮線(こきむらさきじこあおいじふせん)の丸文錦(まるもんにしき)、三番目から七番目の「五ッ衣(いつつぎぬ)」は武田菱(たけだびし)、八番目の単衣(ひとえ)は紅地三重襷(べにじみえだすき)、いずれも正絹、西陣織。五ッ衣から単衣に見られる古典の色使い「襲(かさ)ねの色目」は「紫村濃(むらさきむらご)」と呼ばれる。

「人形の顔を作る時に目指しているのは観音菩薩の表情です。師匠である祖父は言いました。“雛人形の顔は無表情でなくてはならない。見る人が楽しい時には楽しい顔に、悲しい時には悲しい顔になる。雛人形は鏡のような存在なんだ”。だからこそ私は持つ人の物語を人形たちに託して、この世に1つだけの人形を作り出したいと思っているんです」


そう語る小佐畑さんは近年オリジナルかつオーダーメイドの雛人形という新たな取り組みを始めている。TAKAO Kosahata BESPOKEは小佐畑さんが提案するパターンオーダー型の雛人形ブランド。ユーザーの想いのままに装束を自由に誂えることが出来る。例えば母親がかつて身に着けた思い出の着物や、あるいは舶来物のエキゾチックなファブリックなど自由な発想で人形を彩ることで彼が目指す「インテリア・アート」が実現するのだ。裂地の色身や紋様を一から考案することも可能だ。

「企業のブランドイメージを具象化したり、古典の一場面を再現したりと、一人一人のストーリーを職人の技術と感性によって芸術へと昇華させるコンシェルジュ型の人形作りを目指しています」


数年前にユネスコ無形文化遺産に登録された高級絹織物「結城紬」を用いたブランド「雪華(SEKKA)」にも注目したい。古くは『常陸国風土記』の時代にまで遡ると言われ、江戸の粋人たちを魅了した柔らかな風合いの紬を人形の装束のためだけに織り上げ、一点一点丹精を込めて作っている。

常陸国の手仕事2~小佐畑孝雄の雛人形~

購入した人形たちは当宮の参集殿エントランスに飾っている。後ろの屏風は別の人形とセットになっていたものだったのだが、気に入ったのでこちらを選ばせていただいた。12号の本装屏風で「日の出」の銘が付いている。中の骨組は襖のような仕組みになっており、裏打ちには手漉き和紙を、そして屏風の曲げのところには「紙丁番」という伝統的な技法を用いているという。四季折々で環境が異なる日本の風土を考慮した、通気性に長けた製作技法である。ちなみに黄櫨染は日の出を表す色とも言われているので、この屏風とは相性がいいみたいだ。


この屏風を見てピンと来たのは、昨年リニューアルした当宮のウェブサイトと似ているからかもしれない。以前少しだけ紹介したTRUNKさんのデザインなのだが、常陸国の日の出をイメージしている。

http://sosyagu.jp/

常陸国の手仕事2~小佐畑孝雄の雛人形~

小佐畑さんの言葉はいつも誠実だ。

「雛人形は宮中の婚礼の儀を模していると言われています。日本で最も格式の高い、そして最も長い歴史に育まれてきた文化を如実に表しているんです。職人たちはその中で技術を磨き、風土に合わせて“用の美”というデザイン力の知恵を育みました。大変おこがましいのですが、私の大好きな日本の文化を雛人形に託し、少しでも伝えていくことが出来たら嬉しく思います。お子様の目に雛人形が触れたとき、目には映らない感受性というものを育むお手伝いが出来たら、作り手冥利に尽きます」

常陸国の手仕事2~小佐畑孝雄の雛人形~ 常陸国の手仕事2~小佐畑孝雄の雛人形~

桂雛 小佐畑人形店

住所:茨城県東茨城郡城里町阿波山1186
電話:029-289-3246
営業時間:10:00~18:00
不定休

http://www.katsurabina.jp/

http://takaokosahata.jp/

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