Takahiko Ishizaki

Takahiko Ishizaki / Writer / Kannushi
石﨑 貴比古/神主ライター

1978年生まれ。東京外国語大学大学院博士前期課程修了。「週刊新潮」、「Pen」の編集部を経てフリー。茨城県石岡市にある常陸國總社宮(ひたちのくにそうしゃぐう)という神社の禰宜(ねぎ)。お祭りやお祓いをしたり、原稿を書いたり書かなかったりして暮らす。趣味は料理と禊。インドでの「ガンジス禊」を計画中だが胃腸に不安が残る。
神社公式facebookページ:http://www.facebook.com/sosyagu

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神主さんの珍しい仕事~その2~

神主さんの珍しい仕事~その2~
先日紹介した新しい菊花祭である「總社園遊会」。
その最終日には地元食材と地酒を楽しむディナー「食~Mike-Miki~」が行われました。

私が暮らす茨城県石岡市は素晴らしい野菜や果物が収穫される場所。
そして水がよいことでも知られ、古来醸造業が盛んでした。
そのため現在でも4つの蔵元が地酒を作っていて「関東の灘」などとも呼ばれます。
今回はこの両者を共に楽しんでもらうため、
神社を一夜限りのレストランにしてしまおうという企画。
食事はずばり、フレンチのコース料理をご用意いたしました。

シェフ役をお願いしたのは料理家で農家の田中久美子さん。
ビストロやカフェ文化のパイオニアとして知られるパトリス・ジュリアン氏のもとでスタッフとして働き、現在は石岡市の農村部でご主人とともに有機栽培の「田中農園」を営み、
週に一度同地のカフェ「kikusa」内で自家製パンの店「ペトラン」を開いているとても素敵な女性です。
神主さんの珍しい仕事~その2~
これまで田中さんとは面識がなかったのですが、
石岡市役所のスタッフで、コミカルながらも実は出来る女・Mちゃんの
橋渡しで今回の企画にご協力いただけることになりました。
田中さんやMちゃんにはおんぶに抱っこ、果ては肩車までしていただいた勢いでお世話になりっぱなしでした。

食材やメニューは田中さんにすべてお任せ。あとで紹介するように滋味溢れた食材による洗練されたフレンチのコースをご用意いただけました。
Mちゃんには「一日レストラン」を仕立てるためのあらゆることで奔走していただきました。食器や什器、クロス類はもとより、職場の仲間に声をかけてくれて当日のウェイターまでアレンジ。連日深夜までうんうん唸って詳細を詰めてくれました。

で、一体かくいう私は何をしていたのか?
主にカーディガンを肩から掛けるくらいのことしかしなかったのですが、
神戸を拠点に活動するピアニスト&バンドマンの大津真人さんに生演奏の依頼をしたり、
酒蔵さんへお話を持ちかけたりもいたしました。

4つの蔵元さんたちは石岡清酒協議会という連合を組織しており、その代表は私が勤める常陸國總社宮の総代さん。総代さんとは氏子の総代表、ということで神社の伝統を神職とともに担って下さる地域の名士なのです。
この総代さんを通じ、他の3社にもご相談を持ちかけ、各社とびっきりのお酒をご用意していただきました。
神主さんの珍しい仕事~その2~
さて、本番にいたるまでにはMちゃんはさらに苦悩の日々の連続だったのですが、そこはさっくり割愛して11月16日、本番のお話をいたします。
ここからが「珍しいお仕事」の話なのですが、今回は進行役&給仕長とでも言いましょうか、お料理の紹介をしつつサービススタッフの統括的なことをいたしました。フレンチで言えば「メーテルドテル(maitre d’hotel)」ですか?そういうことにしておきましょう。
もっちろん未経験です!

未経験ですから出来ることは限られます。なので主に笑顔を振りまいておりました。
結婚式のときに誂えて以来、初登場したタキシードでしたが、
使い道があったのと、やや膨張した腹部にも耐えうる素材だったことに安堵&安堵。
神主さんの珍しい仕事~その2~
一方同じく未経験にも関わらず、ウェイター役を買って出て下さった方々は本当によくがんばってくれました。もちろん飲食業の経験者もいるにはいましたが、ほぼ未経験という人もおり、しかもこじゃれたフレンチを神社的なレストランというかレストラン的な神社でサーヴィスするなんざ、そうそう出来ることではありません。みんなすごいなあ。

せっかくなのでお料理とお酒のメニューを紹介しておきましょう。

乾杯 大吟醸 筑波 紫の峰 (石岡酒造

アミューズ 総社宮・竹の器 菊のお野菜の盛り合わせ
                &
        虎の子富士泉 (藤田酒造

アントレ 鈴木牧場のモッツァレラチーズと長葱のタルト
      八郷産イワナとごぼうのハーブコンフィー
      福来みかんドレッシング添え
                &
      白菊特別純米生原酒 (白菊酒造

スープ 石岡酒造の酒粕 × 八郷産大地のめぐみ ビストゥウスープ

お口なおし 柚子しらぎく × しょうがのグラニテ

メイン 八郷産豚肩ロースのハーブロースト味噌タプナードソース×渡舟の酒米添え
                &
     渡舟純米吟醸原酒 (府中誉
神主さんの珍しい仕事~その2~ 神主さんの珍しい仕事~その2~
どうです?食べたいでしょう。そして飲みたいでしょう?

僕は試食会でいただきましたが、口幸とはこのことですね。
試食会の際に蔵元さんにそれぞれの料理にマリアージュさせる
お酒を選んでいただいたので、組合せもばっちり。
さらに各蔵元さんがお酒の説明までしてくれるという、いたれりつくせりぶりです。

30名限定の完全予約制だったのですが、
席はすぐに満席。来場されたお客様は口を揃えてお料理もお酒もすばらしい!と
お褒めのお言葉を下さいました。
菊花祭にちなんでお野菜に菊科のものを取り入れたりと
小技も効いておりました。

そして全てが終わって若干放心状態かつ残った地酒をちびちびやっているときに思ったことがあります。

「なんだか全く初めての経験だったのに初めての気がしない・・・。なぜだ・・・?」

と、ハタと膝を打って気づいたのはこういうことでした。

「あれ?よく考えてみると俺たち神主はいつも神様にお食事を提供しているんだな」

神社において日々行われる祭り=神事とは実は「神様のお食事」。
御本殿の神様に向かって米や酒、野菜や果物、水や塩といった食物を「三方」と呼ばれる木製のお膳のようなものに載せ神前にお供えする。
食事中、舞楽などを奏して五感でお楽しみいただき、祝詞という型式で言葉をお伝えする。
これが実は祭りの正体なのですね。
今はやりのおもてなし、です。

祭りにはきっちりとした式次第があって、いずれこの場でも紹介したいと思っているのですが、その中に「献饌(けんせん)」というのがあります。
これは祭りを行っている神職がほぼ総出で神様のお食事を次々にお運びするもの。大きな神社では10人以上もの神主さんが一斉に立ち上がり、つぎつぎに三方を受け渡し、神前へと供えていきます。その様子は結構圧巻だったりします。

常陸國總社宮の例大祭における献饌はこんな感じ。
(私は階上、本殿内にいるので写っていません)
神主さんの珍しい仕事~その2~
神様の一番近くでお供えする役目は「陪膳(はいぜん)」と言い、通常は禰宜か権宮司、つまり神社のナンバー2が務めます。つまり常陸國總社宮で言うと私です。陪膳は直接神様の目の前にお食事をお供えするとともに、献饌する神職たちの動きを統括するコンダクター的な立場でもあります。

そうです。今回私が務めた給仕長という役割は、普段私が祭りにおいて担っている役目と非常に近しい関係にあるように思うのです。
いつもは神様をお相手にしていることを、今回は人間のお客様に行ったようなもの。
道理でなんだか特に緊張するわけでもなく、落ち着いて役目を果たせた訳です。

「食」とは神社神道にとって非常に重要なもの。
大地を神と崇める神道において、食物はまさに神の恵み。
これを神前に供えて感謝を捧げてから、人間である我々も食すのです。
今回のイベントの副題である「Mike-Miki」とは「御食(みけ)」と「御酒(みき)」のこと。
つまり神様のお食事を皆さんにも楽しんでもらおうという趣向で名づけたものです。
ファッションショー同様に初めてのことばかりでしたが、皆さんのおかげで大成功となりました。
今後のことはまだ分かりませんが、またきっとこういう催しが出来ればいいなと思っています。

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