「霧の抵抗 中谷芙二子」展@水戸芸術館
Naoko Aono

Naoko Aono / Writer
青野 尚子/ライター

アート、建築関係を中心に活動しています。趣味は旅行と美術鑑賞と建築ウォッチング。ときどきドボクも。共著に「新・美術空間散歩」(日東書院本社)。

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「霧の抵抗 中谷芙二子」展@水戸芸術館

「霧の抵抗 中谷芙二子」展@水戸芸術館

中庭の噴水から出てくる霧の前に立つ中谷さん。

「霧の抵抗 中谷芙二子」展@水戸芸術館

あっという間に見えなくなってしまいました。霧の威力を思い知ります。

水戸芸術館の現代美術ギャラリーで開かれている「霧の抵抗 中谷芙二子」展は霧のアーティスト、中谷芙二子さんの個展。1970年に初めて「霧の彫刻」を発表して以来、半世紀近くにわたって活動している中谷さんのこれまでを振り返ります。もちろん最新作も展示。その一つが、中庭の噴水から噴き出す霧です。外からは見えないところにノズルがあり、風向きなどを考慮しながらノズルの位置や向きを綿密に調整しているのだそう。その甲斐あって、あっという間に中谷さんが見えなくなってしまうぐらい霧が出ました。

「霧の抵抗 中谷芙二子」展@水戸芸術館 「霧の抵抗 中谷芙二子」展@水戸芸術館

展示室内でも新作の「霧の彫刻」を見せてくれます。この作品は部屋の中に入ると紗幕がかかった向こうの空間から霧が出てくるというもの。幕には飛び交うカラスが投影されます。この作品のテーマは「崩壊」。最後に幕が落ちて、霧が崩壊していきます。

「霧や地球は崩壊してもいいけれど、誰かは宇宙に残っていて欲しい」と中谷さんは言います。

「霧の抵抗 中谷芙二子」展@水戸芸術館

フランス、イギリスなど世界各地でのドキュメント映像。みんな楽しそうです。

「霧の抵抗 中谷芙二子」展@水戸芸術館

森の中に、霧のカーテンを出現させたことも。

展示の始まりは過去のドキュメントからです。展示室いっぱいに世界各地で中谷さんが見せてきた「霧の彫刻」の映像が流れます。映像ですが、ここでも霧に包まれる気持ちが味わえます。

「霧の抵抗 中谷芙二子」展@水戸芸術館

ドキュメントのコーナー。アンモニアを使わない霧を初めて作るまでの試行錯誤が並びます。

「霧の抵抗 中谷芙二子」展@水戸芸術館

1970年の大阪万博ペプシ館の様子。角張ったドームが霧に包まれていきます。

中谷さんは1970年の大阪万博ペプシ館で初めて、人が中に入ることができる霧を発表しました。それまでの人工霧はアンモニアを使っていたため、中に入ることができなかったのです。「みんなが霧に包まれて遊べるようなものにしたい」。そんな思いから中谷さんはエンジニアと協働して、自然の霧と同じ、安全な霧を発明しました。

「中に入れる、全身で体感できる霧が他の感覚を呼び覚ましてくれるんです」

会場にはまるで科学者のように克明にデータを記録したノートなども並びます。中谷さんのお父さんは雪の結晶の研究で知られる中谷宇吉郎。自然現象を几帳面に追いかける態度はお父さん譲りなのかもしれません。

そのお父さんの時代には、霧は邪魔者とされて消す研究がされていました。中谷さんは霧を作る研究をしてきたわけですが、「サイエンスとしては同じもの」なのだそうです。

「地球の構造のルールを研究しているという点では同じなのです」

「霧の抵抗 中谷芙二子」展@水戸芸術館

1975年に提案したポンピドゥー・センターでのプロジェクト。このプランは40年以上たった2017年になって実現しました。

「霧の抵抗 中谷芙二子」展@水戸芸術館

1971年にストックホルム近代美術館で開かれた「ユートピアとビジョンズ 1871-1981展」のドキュメント。世界初の労働者政権、パリ・コミューン100年を記念して開かれました。

「ユートピアとビジョンズ 1871-1981展」という展示は1971年にE.A.T(Experiments in Art and Technology=芸術と技術の実験)というグループの一員として参加したもの。東京、ストックホルム、ニューヨーク、アーメダバードをテレックスで結び、「10年後の未来はどうなる?」というテーマでディスカッションをした記録です。LGBT、フェミニズム、世界共通の通貨など、今見てもスリリングなトピックが並びます。

「霧の抵抗 中谷芙二子」展@水戸芸術館

「ビデオギャラリーSCAN」ドキュメントが並ぶ展示室。

最後の展示室には中谷さんが1980年に開設した「ビデオギャラリーSCAN」についての資料が並びます。当時は個人で映像作品を制作・発表する場が少なく、テレビなどのマスカルチャーではなく、個人が発信できる場が必要だと感じて自宅にこのギャラリーを設けました。ここではビル・ヴィオラが日本で最初の個展を開いています。また若手を発掘する公募展も行っており、宮島達男らが紹介されていました。

「霧の抵抗 中谷芙二子」展@水戸芸術館

普段は霧の奥に岩が吊されていて、水がかけられています。

展覧会にはタイトルの「抵抗」がいろいろなところに現れています。霧で隠れてしまった中庭の岩には、普段は両側からホースで水をかけたような噴水が当てられています。中谷さんはこれを「暴力的だ」と感じ、設計者の磯崎新に尋ねたところ、磯崎さんは「学園紛争時の機動隊による東大安田講堂をイメージした」と答えたそう。また展示室内の霧の中を飛び回るカラスは「都市の中で一番虐待されている動物」だと中谷さんは言います。が、最近その姿を見ないのが気になっているそう。中谷さんのインスタレーションでは、カラスはどこへともなく飛び去って行きます。「自由になって地球にさようなら、と言って飛んで行くんです」。

「霧の抵抗 中谷芙二子」展@水戸芸術館

いつでも「霧の彫刻」を楽しめる昭和記念公園「霧の森」。

中谷さんはまた、会場にあるビデオで、自作を「ネガティブな彫刻」と表現しています。中谷さんの作品は風や天候など、外的な要因で形が変わる彫刻なのです。

「霧には形がないけれど、彫刻には必ず形があるものだと思われています。霧は常に変化しているけれど、彫刻は永遠に固定されている。彫刻には触ることができるけれど、霧に触ることはできない。霧はいろんな事柄を逆転させるマテリアルなのです」

いずれは消えてしまう霧ですが、常に形を変え続けているということは、常に再生し続けている、ということでもあります。

「霧を見た人の心の中で『ああ、霧が美しかったな』と思ったら、その人の心の中で霧が再生するのです。変われる、という勇気を与えてくれる」

常に変わり続ける霧の中では「生まれること、死ぬことが同時に起きている」とも言います。


「霧の抵抗 中谷芙二子」展は水戸芸術館で2019年1月20日まで。中庭の霧はときどきお休みするので、ウェブをチェックしてください。

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