松平不昧公のコレクター魂を見よ!
Naoko Aono

Naoko Aono / Writer
青野 尚子/ライター

アート、建築関係を中心に活動しています。趣味は旅行と美術鑑賞と建築ウォッチング。ときどきドボクも。共著に「新・美術空間散歩」(日東書院本社)。

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松平不昧公のコレクター魂を見よ!

松平不昧公のコレクター魂を見よ!

重要文化財『油滴天目』。中国 南宋時代・12世紀。九州国立博物館蔵。

若い頃から千利休に傾倒し、茶の湯道具や書跡を蒐集していた松江藩主、松平不昧。『雲州蔵帳』というコレクション目録には700件あまりの品々が記載されています。今では日本各地の美術館や個人コレクターの所蔵となっている美術品の中から選りすぐった名品が三井記念美術館で公開されています。

会場の最初を飾るのがこの『油滴天目』。油の滴が散っているように見えることからこの名で呼ばれています。この油滴天目は斑点が細かく、日本にいくつか残る油滴天目の中でも際だって美しいもの。見る角度によっては青みがかって見えることもある不思議な茶碗です。

松平不昧公のコレクター魂を見よ!

重要文化財『赤楽兎文香合』本阿弥光悦作 江戸時代・17世紀 出光美術館蔵。

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『桐茶箱』小林如泥作 江戸時代・19世紀 「雪」の字は不昧によるもの。

会場には他にもコレクションの数々が並びます。不昧は茶道具を宝物、大名物、中興名物、名物並、上之部の5ランクに分類・格付けしていました。茶道具を護る箱や布にも気を使い、そこから不昧旧蔵であることがわかるようになっています。彼は美術品を集めるだけでなく、それらを最良のコンディションで後世に残るよう心を砕いていました。

松平不昧公のコレクター魂を見よ!

『大崎御屋敷分間惣御絵図面』(部分)天保9年(1838)松江資料館蔵。今の品川にあった広大な屋敷の図面の一部。左に7つ並んでいるのが蔵、右の一番大きな部屋が「御虫干所」です。

彼がどれだけコレクションを大切にしていたかは、屋敷の一角に蔵だけでなく「御虫干所」、つまり虫干しをするための部屋を設けていたことからもわかります。美術館の修復室のように、コレクションの手入れをするスペースです。私もちまちまとアート作品を買っていますが、蔵はもちろん、お手入れ部屋なんてありません。これはかなり羨ましいです……。

松平不昧公のコレクター魂を見よ!

不昧が書いた『円相の偈(えんそうのげ)』。文化14年(1817)、東京・天真寺蔵。(展示は5月20日まで)

松平不昧公のコレクター魂を見よ!

円相についての不昧の手紙。文化14年(1817)頃、東京・天真寺蔵。(展示は5月20日まで)

不昧は名品を蒐集するだけでなく、自ら書などもしたためていました。これは不昧が書いた円相ですが、円の中に自分の名を書いています。これを書くにあたり、不昧は高僧に「円の中に自分の名を書いてもいいだろうか」と手紙で相談していました。この書や手紙は不昧の最晩年、66歳のときに書かれたもの。人生の先輩と言われるような年になっても謙虚に教えを乞う姿勢に我々も学ばなくては、と思わされます。

松平不昧公のコレクター魂を見よ!

『原羊遊斎蒔絵下絵帖』江戸時代・19世紀 出光美術館蔵。

松平不昧公のコレクター魂を見よ!

左が原羊遊斎作『菊蒔絵大棗』文化14年(1817)。

数多くの茶道具の名品を愛でることで審美眼を磨いた松平不昧公は腕利きの職人を見出し、育てることにも長けていました。原羊遊斎は不昧がとくに育成に力を注いだ蒔絵師です。上の写真は羊遊斎の下絵帖、つまりスケッチブックですが、右ページは不昧公のスケッチです。「こんなデザインで作ってくれないかな」という感じでさらさらっと書いたのでしょうか。それに応えて羊遊斎は下絵を描き、その線を漆でなぞって木地に転写するという方法で30個あまりの棗を作りました。下絵帖の左ページの上がその型紙、下の写真の左側が完成品です。こういった活動には地場産業の育成という、地方を治める大名としての役割もあったのですが、デザインもできるお殿様はなかなかいなかったのではないでしょうか。

いろいろな意味でお殿様がうらやましくなる「没後200年|特別展 大名茶人・松平不昧」は6月17日まで三井記念美術館で開催中です。その後、9月21日〜11月4日に島根県立美術館へ巡回します。(写真は主催者の許可のもとに撮影しています)

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