Naoko Aono

Naoko Aono / Writer
青野 尚子/ライター

アート、建築関係を中心に活動しています。趣味は旅行と美術鑑賞と建築ウォッチング。ときどきドボクも。共著に「新・美術空間散歩」(日東書院本社)。

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ヨコハマトリエンナーレ 横浜赤レンガ倉庫1号館・横浜開港記念会館編

ヨコハマトリエンナーレ 横浜赤レンガ倉庫1号館・横浜開港記念会館編

小沢剛《帰って来たK.T.O》。横浜赤レンガ倉庫1号館での展示。絵は小沢が描いた下絵をもとに、インドの看板描き職人に描いてもらいました。

今年は芸術祭が多いですが、6回目になる「ヨコハマトリエンナーレ2017」はその中でもベテランの領域。力のこもった作品が並びます。

横浜赤レンガ倉庫1号館、小沢剛の展示は「帰って来た」シリーズの第4弾にあたるもの。物故者がこの世に帰って来て、あり得たかもしれない別の人生を送ります。今回の主人公は横浜出身の「K.T.O.」という男。明治・大正期に美術史家として活躍し、今の東京藝術大学のもとになった学校を設立した人物です。彼は2度、インドに渡り、1度目はインドを代表する詩人、タゴールの家に寄宿していました。その後彼は茨城県五浦に「六角堂」と呼ばれる東屋と住宅を建て、そこを拠点とします。《帰って来たK.T.O》はアメリカと日本を往復しながら日本画の近代化に尽力したその人物の、もう一つの人生を追うもの。映像で歌われる「K.T.O.の歌」の歌詞に注目してみてください。

ヨコハマトリエンナーレ 横浜赤レンガ倉庫1号館・横浜開港記念会館編

宇治野宗輝《プライウッド新地》。ブラックボードに会場の地図?が描かれています。

ヨコハマトリエンナーレ 横浜赤レンガ倉庫1号館・横浜開港記念会館編

宇治野宗輝《プライウッド新地》のインスタレーション。

宇治野宗輝は自らが育った20世紀後半の日本の都市を題材にしています。美術品を運送するのに使う木箱を街並に見立てた空間はときどき、賑やかな音と光を発します。映像では戦後日本とアメリカとの関わりが語られます。私たちが近代史を踏まえたうえでアメリカに対して抱く複雑な感情を思い起こさせます。

インスタレーションでは”回転するもの”が目立ちます。自転車の車輪、ジューサー、ミキサーなどなど。人類が移動手段として四つ足の模倣ではなく、車輪を発明したことが進歩の鍵になった、という説を昔聞いたことがあります。回転させることでさまざまなものをスピードアップさせ、物質社会・消費社会へと加速させていったように思います。

ヨコハマトリエンナーレ 横浜赤レンガ倉庫1号館・横浜開港記念会館編

クリスチャン・ヤンコフスキー《重量級の歴史》。ルドヴィック・ワリンスキー像は持ち上げるのに成功。

ヨコハマトリエンナーレ 横浜赤レンガ倉庫1号館・横浜開港記念会館編

クリスチャン・ヤンコフスキー《重量級の歴史》。レーガンの銅像はびくともしませんでした。

クリスチャン・ヤンコフスキーはドイツ・ゲッティンゲン生まれのアーティスト。彼のインスターション「公共の身体から人間的彫刻へ」には近代史における身体のとらえ方について考察する作品が並びます。映像と写真による《重量級の歴史》は重量挙げの選手がよってたかって、ポーランドの街角にあるいかにも重そうな彫刻を持ち上げるというもの。

こういった彫刻は、たいていは歴史的人物であり、その評価によって処遇が変わったりします。たとえばルドヴィック・ワリンスキーはポーランド労働者の星と目された人物ですが、冷戦終結後、銅像は撤去されてしまっていました。一方、元アメリカ大統領、ロナルド・レーガンは当時のソ連共産党書記長、ゴルバチョフとの会談によってベルリンの壁崩壊への道を開いたとして、在ポーランド・アメリカ大使館の前に銅像が堂々と立っています。

映像はスポーツ中継仕立てになっていて、かなり笑えます。「果たしてこの重い歴史を持ち上げることができるのでしょうか!?(絶叫)」という具合。他に、公共彫刻を使って体を鍛える《アーティスティック・ジムナスティック》、公共彫刻にマッサージを施す新作が出展されています。どれもアーティストが近代史に向ける皮肉な視線に思わず苦笑させられる作品です。

ヨコハマトリエンナーレ 横浜赤レンガ倉庫1号館・横浜開港記念会館編

中国出身のドン・ユアン《おばあちゃんの家》。

ヨコハマトリエンナーレ 横浜赤レンガ倉庫1号館・横浜開港記念会館編

ドン・ユアン《おばあちゃんの家》。

にぎやかでかわいい室内が再現されているのはドン・ユアンの作品。これすべて「絵」でできています。大きなものから小さなものまで、キャンバスに描いた絵を組み合わせているのです。これは作者が幼い頃から通ったおばあちゃんの家なのですが、区画整理のため、解体されてしまいました。思い出の詰まった空間はもうない、そんなセンチメンタルな思いと、それを根こそぎ解体していってしまった暴力的な社会制度とがせめぎ合います。

ヨコハマトリエンナーレ 横浜赤レンガ倉庫1号館・横浜開港記念会館編

プロジェクト「Don't Follow the Wind」展示風景。

何かに洗脳されそうな風景ですが、これはプロジェクト「Don't Follow the Wind」の展示です。写真は観客が360度のVRゴーグルをつけて作品を鑑賞しているところです。これは東京電力福島第一原発の事故によって帰還困難区域に指定されたエリアに、元住民の方の協力を得て12組のアーティストが作品を設置するというプロジェクト。封鎖が解除されるまで、誰も見学することができないアートです。実際に見られるのはいつになるのか、そのときに作品はどのように変化しているのか、想像力を喚起させられるプロジェクトです。

ヨコハマトリエンナーレ 横浜赤レンガ倉庫1号館・横浜開港記念会館編

小西紀行《孤独の集団》。大小の絵画がちょっとした迷路のような空間を作っています。

ヨコハマトリエンナーレ 横浜赤レンガ倉庫1号館・横浜開港記念会館編

「象の鼻テラス」の象さんソフトクリーム。

さてここまでが横浜赤レンガ倉庫1号館での展示です。ここからもう一つの会場である横浜開港記念会館へは徒歩で8〜9分。その間にある「象の鼻テラス」に寄り道しましょう。これは「象の鼻防波堤」の対岸にある施設。開港時に作られた突堤を延長した際、波の影響を避けるため、突端部を曲げた形が象の鼻のよう、とのことでこの名前がつきました。というわけで「象の鼻テラス」にも象さんグッズやフードが満載です。ソフトクリームも象さんです。昔は鼻の先が尖っていたのですが、最近はちゃんとみかんがつかめるような形に変更されたようです。

ヨコハマトリエンナーレ 横浜赤レンガ倉庫1号館・横浜開港記念会館編

横浜開港記念会館 地下の柳幸典作品。瓦礫の中でゴジラの目が光ります。

ヨコハマトリエンナーレ 横浜赤レンガ倉庫1号館・横浜開港記念会館編

柳幸典《アーティクル9》。憲法第9条がLEDで表現されます。

横浜開港記念会館の地下では闇の中、柳幸典の大型インスタレーションが身を潜めています。憲法や核実験などをストレートにモチーフにした作品はアーティストとしての姿勢を示すもの。砂絵で描いた日の丸に蟻を放ち、旗のイメージが崩れていく「フラッグ・アンド・ファーム」シリーズの作品も。難しい世の中だからこそ、ものごとの行く末を見て行かなければ、という思いが見えてきます。

「ヨコハマトリエンナーレ2017」は上記2会場と横浜美術館で11月5日まで開催。横浜美術館での展示はこちらをご覧下さい。

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