
私の最新作『熱海の路地の子』を含む、オムニバス映画『プレイルーム』ですが、いよいよ明日21日(金)でシネマート新宿(20時50分〜の回)での公開を終了いたします。
http://www.cinemart.co.jp/theater/shinjuku/lineup/20181214_15215.html
初日以降まさかの全日満員御礼で、昨日はついにシネマート新宿2の動員記録を更新しました。
一時期、映画サイト「シネマトゥデイ」さんのアクセスランキングで、まさかの『ボヘミアン・ラプソディ』に続き3位でした(ちなみに『ファンタスティック・ビースト』は5位!)。。
なぜこんなに多くの方が、単館のレイトショー、アングラ大爆発なこの作品に足を運んでくださっているのか全くわかりませんが、ありがたいことです。。
連日、上映後にトークイベントも行なっているのですが、その中で反響が大きく、入れなかった方からリクエストが多かったので、12月15日(土)上映後トークを採録したものを掲載します。
『熱海の路地の子』の原作である映像作家の帯谷有理さん、その弟子で話題の映画監督、加賀賢三さん、そして、『熱海の路地の子』出演者の須森隆文さんが後半飛び入りで参加してくれました。
司会は『プレイルーム』参加監督でもあるナリオさんです。
よかったら是非!
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『プレイルーム』12月15日(土)上映後、『熱海の路地の子』特集トークイベント。
出演:帯谷有理(映像作家/『路地の子』原作者)
加賀賢三(映画監督)
須森隆文(俳優/『熱海の路地の子』出演)
佐々木誠(映画監督/『熱海の路地の子』監督)
司会:ナリオ(映画監督・東京想舎ディレクター/『などわ』監督)
採録:熊野雅恵
佐々木誠監督(以下、佐々木) ―とても爽やかなラブファンタジー『熱海の路地の子』(笑)の監督を担当しました佐々木誠です。今日はありがとうございました。
帯谷有理さん(以下、帯谷) ―『路地の子』の原作者の帯谷有理です。今日はよろしくお願い申し上げます。
加賀賢三監督(以下、加賀) ―『熱海の路地の子』とは直接関係は
ないのですが、帯谷さんの弟子で、佐々木監督は兄弟子にあたります。よろしくお願いします。
ナリオ監督(以下、ナリオ) ―『熱海の路地子』はTwitter等を検索すると一番人気ですよ。僕が呼んだお客さんでも、「『などわ』も良かったけど『熱海の路地の子』が一番良かった」という声がかなりの数、出ています。
佐々木 ―『熱海の路地の子』と『などわ』は対極にある作品ですが、ハートフル、という点では共通していますね(笑)。
ナリオ ―大人気の『熱海の路地の子』ですが、原作があったということはみなさん知らなかったと思います。今日は原作『路地の子』と『熱海の路地の子』の関係性などについてお話を伺います。
佐々木 ―『路地の子』は20年前UPLINK FACTORYで特集上映も行ったことがある連作映画シリーズで、複数の監督さんが帯谷さんが書いた同じプロットを撮っています。帯谷さんの実験映画は『路地の子』シリーズ以外にも20代前半の時に拝見して、本当に痺れる経験をしていて、ここにいる加賀君も影響を受けていると思います。


左からナリオさん、加賀賢三さん、帯谷有理さん、私。
帯谷 ―『路地の子』について説明しますと、映画というのは撮影して編集して音楽を付けて、そして当時は一本のフィルムにプリントして、いう流れを経て一つのメディアとして出来上がったものを再現してお客さんに観せる、ということで成立している芸術形式です。
クラシック音楽の作曲家が楽譜のみを書いて様々な時代の人が様々な解釈をして演奏するように、映画において、一つのプロットで様々な監督が様々な解釈をして作品制作をすると面白いのではないかと思い付いて、やってみよう、ということになったのです。
具体的には、自分が簡単なプロットを書いて、自主映画の仲間や監督志願の人たちにそのプロットだけを渡して作品を制作してもらい様々なバージョンのものを並べて上映する、というものでした。
それが1995年に企画した『路地の子』で、佐々木さんが観に来たのは出来上がった15作品を一挙に集めて上映したイベントだった、という訳です。
ナリオ ―『路地の子』のイベントは、全て違う監督さんが撮ったものだったのですか?
佐々木 ―そうです。高円寺南3丁目の路地の子、百人町の路地の子、(高知県の)中須賀の路地の子というように、様々な土地の路地で撮った作品でした。
ナリオ ―今回は、オムニバスアルバムの中にカバー曲で参加した、というような感じですね。カバーするにあたり、共通の約束事などはあったのでしょうか?
帯谷 ―全編監督の主観映像で撮ること。そして、男でも女でも、同時録音できる手持ちカメラを持った撮影者が、うらぶれた路地を歩いて来た人に惹かれ誘われるままに自宅まで着いて行く、というストーリーですね。
普通に撮ったら10分ぐらいで終わってしまいますが、出来上がった作品は15分ぐらいから60分ぐらいのものまであります。
ナリオ ―長編のものもあるのですか?
帯谷 ―あります。大木裕之さんが作った作品です。
ナリオ ―佐々木さんはなぜ撮影場所として熱海を選んだのでしょうか。
佐々木 ―熱海は好きで良く遊びに行っていました。淫靡な、昭和の怪しげな空気が残る中で、若い人たちが戻ってきて面白いことをやろう、という狭間のような雰囲気もあって、熱海に行く度に何か撮りたい、と思っていました。その「何か」というのを聞かれたら『路地の子』というのは自分の中では実は決まっていて、『プレイルーム』のお話を頂いた時に「熱海で『路地の子』を撮ろう」と即決しました。
ナリオ ―加賀さんは『路地の子』は既に撮ったのですか?

加賀賢三さん。
加賀 ―いえ、まだなのですが、いずれ撮りたいと思っています。
帯谷 ―僕はあらゆる監督さんに『路地の子』は撮って欲しいと思っています(笑)。
加賀 ―ちなみに、作中の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に出てくる写真は自分で持って来たのですか?
佐々木 ―そうです。僕は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が大好きなので、毎回自分の作品にはオマージュを入れています。今回もいくつか入れてあるので好きな方は気が付くと思います。今作においては、テーマの根幹に関わる必要な小道具でもあります。
加賀 ―僕は帯谷さん監督の『京島3丁目2番地の路地の子』を観たのですが、あのバージョンも2階に行きますよね。あの様子がいわゆるちょんの間といった感じがして、『プレイルーム』というタイトルにマッチしていると思いました。「2階に行く」という設定は原作にはあったのでしょうか。
帯谷 ―いえ、なかったですね。
佐々木 ―今回の作品はかなり僕の解釈が入っていますね。
帯谷 ―全くの佐々木作品です。
ナリオ ―帯谷さんが初めてご覧になった時の感想はいかがでしたか?歴代の様々な『路地の子』を観て来られたと思いますが。
帯谷 ―佐々木作品だなぁ、立派だなぁと思って、ただただ唖然としました。
ナリオ ―佐々木作品と他の『路地の子』は違うのでしょうか。
帯谷 ―全て違っているので何とも言えないのですが、『プレイルーム』の他の作品と並べて観るとやはり自主制作映画、という雰囲気はしますよね。自主制作の画だな、と思いながら観ていました。
佐々木― 一人で作っていますしね。
ナリオ ―今日は『路地の子』の主演俳優の須森隆文さんにお越し頂いております。誰よりも何よりもインパクトを残している、と話題です(笑)。

須森隆文さんが登場、初対面の帯谷さんと握手。
帯谷 ―やっと会えましたね。
須森隆文さん(以下、須森) ―帯谷さんの作品『毛髪歌劇』の大ファンです。
ナリオ ―佐々木さんが須森さんを起用した理由を教えてください。
佐々木 ―前から友人だったのですが、自分の描いた「この役」を誰がやったら一番面白いのか、と考えていて。最初はある黒人の俳優さんで考えていたのですが、違う意味が出てきてしまう可能性があるな、と思い始めてやめました。
その頃、昨年公開された須森さんの主演映画を観ていい俳優だな、と感じました。変な意味ではなく「彼の裸を撮りたい」という気持ちになりまして(笑)。面白い映画になるのではと思って声を掛けたのがきっかけです。
ナリオ ―ビジュアルに惹かれたということでしょうか。
佐々木 ―それもありますが、彼の純粋な、少年のようなマインドがいいな、思いまして。帯谷さんが作品を観て「お母さんと息子のようだ」とおっしゃっていましたが、流石良く気が付かれたな、と。
「母性と少年性」というような関係性は狙っていたので、そのニュアンスで撮りました。
ナリオ ―須森さんは非常に映画愛の強い方なのですが、『路地の子』の世界に喜んで入って行ったのでしょうか?
須森 ―喜んで、というよりは、それが必然でしたので裸になることに抵抗はありませんでした。若林美保さんとは初めて共演させて頂いたのですが、何とも不思議な魅力のある女優さんで、「お母さん」ではないのですが、母性のようなものも感じました。
ナリオ ―若林さんは5作品とも異なる「若林美保」で、本当に変幻自在でしたね。
加賀 ―僕も若林さんを写真で撮ったことがあるのですが、作品を観て、以前から抱いていたのとは異なる印象を持ちました。『プレイルーム』は、作品がそれぞれ異なる方向へ行っていて、いい意味でやばくてフリーキーな作品が多かったと思います。
佐々木 ―ちなみに、加賀さんはユーロスペースで行われた『龍VS虎』という短編映画6本のコンテストで『にんげんにうまれてしまった』という作品で優勝したのですが、ものすごく面白かったです。
ナリオ ―今回はオムニバス映画でしたが他の監督さんも参加する、ということについて意識したことはありましたか?
佐々木 ―それはありませんでした。何も意識せずやりたいように撮った、という感じです。作品が出来上がって、それぞれ違う作風になったのは良かったと思います。違う作風の作家さんを集めたというのが大きいのですが。
ナリオ ―帯谷さんは5本ご覧になってどのように感じましたか?
帯谷 ―被写体としても女優としても若林さんが凄いです。彼女にはインテリジェンスを感じました。
アホな女性から賢い女性まで演じ分けているというか。
ナリオ ―アホな女性ってどの女性ですか?
帯谷 ―もちろん、『などわ』の女性ですよ(笑)。ああいう女性、僕も好きです。
佐々木 ―『などわ』のヒロインは帯谷さんの初期の作品に出てくる女性キャラと近いですよね。僕は『などわ』と『熱海の路地の子」は共通点があるのでは、と思っています。
帯谷 ―『などわ』の雰囲気自体に僕の作品と同じ匂いを感じました。
ナリオ ―光栄なお言葉、ありがとうございます。そろそろお時間ですので、最後に一言お願いします。

須森隆文さん。
須森 ―先日初めてスクリーンで拝見して、大丈夫かな、、と思いました。自分の見た目を含めて生理的に受け付けない方がいるのだろう、と心配していますが、そういう方も含めてとにかく笑って欲しいです。連日たくさんのお客さんにお越し頂いて本当にありがたいことだと思っています。上映はまだ続きますので引き続きよろしくお願いします。
加賀 ―『プレイルーム』は全体的にとても良かったです。
佐々木さんの作品は、足音、衣擦れの音、息遣いの音を入れることによって、撮影者の身体性を作品に反映するものが多く今回もそうでしたが、一方、帯谷さんの作品は芝居掛かった演出というか、例えば、映像と音が乖離することによって身体性が際立つ、そのプレゼンスが生じる、という作風であると思っています。
ただ、全体的にデジタルスタビライズを掛けていますが、ラストカットでは上手く機能していますが、他は何故そのようなことをしたのだろう、という気もしていて。
ナリオ ―この点について原作者の帯谷さんはいかがですか?
帯谷 ―そこについては完全に監督の裁量です。原作には書いてありません(笑)。
佐々木 ―デジタルスタビライズについては映像編集したことがある人間でないと多分わからないし、話が長くなるので、後ほど個人的に話します(笑)。
デジタルスタビライズや先程の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の話もそうですけど、ざっくり撮っているようでいて様々な仕掛けのある映画です。劇中に出てくる本棚にどのような本を並べて何を撮っているか、などいちいち細かく意味を付けて『熱海の路地の子』を形作っています。
その辺りに気を付けてもう一度観て頂くと別の見方ができると思います。
ご興味ある方はぜひもう一度観に来て頂けたら嬉しいです。
今日はどうもありがとうございました。
*2019年1月10日(木)[19:15~開場/19:15~開演]には、「龍VS虎」優勝作品の加賀賢三監督『にんげんにうまれてしまった』の上映があります。
また、2019年1月22日(火)[19:30開場/20:00~開演]には、帯谷有理さんが加賀賢三さんをゲストに迎えた弾き語りライブがあります。もちろん『熱海の路地の子』で流れる『頽廃ジュネ』の演奏もあり、とのことです。
場所はどちらも田園都市線駒沢大学駅のM’s Cantina www.facebook.com/MsCantina/ にて。
なお、須森隆文さんは現在公開中の塚本晋也監督『斬、』、来年春ごろから放送のテレビ朝日開局60周年記念作品『やすらぎの刻(とき)~道』にも出演しています。

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というわけで明日21日(金)で『プレイルーム』シネマート新宿での公開は終了です。
明日は、私、ナリオ監督、福島拓哉監督、若林美保さんで上映後トークいたします。
この後、全国様々な場所で公開する予定なのでご興味ある方は以下の公式サイトなどチェックいただけると嬉しいです。
また『プレイルーム』全監督+若林美保さんのロングインタビューをINTROさんに掲載していただいたのですが、こちらもご興味ある方は是非!
<若林美保さん×ナリオ監督×福島拓哉監督×佐々木誠監督/「Play Room」インタビュー>
http://intro.ne.jp/contents/2018/12/16_0901.html
<中村真夕監督×松蔭浩之監督/「Play Room」インタビュー>
http://intro.ne.jp/contents/2018/12/16_0911.html
よろしくお願いいたします!