ロバート・ハリス『JJ 横浜ダイアリーズ』
Makoto Sasaki

Makoto Sasaki / video director/ movie director
佐々木 誠/映像ディレクター/映画監督

98年より音楽プロモーション映像やテレビ番組などを演出。ドキュメンタリー映画とドキュメンタリー風のフィクション映画も監督している。今まで撮影で訪れた場所で好きなのはケニアとインド、そしてハワイ。
http://sasaki-makoto.com

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ロバート・ハリス『JJ 横浜ダイアリーズ』

ロバート・ハリス『JJ 横浜ダイアリーズ』
作家でありDJとしても知られるロバート・ハリス氏の新作『JJ 横浜ダイアリーズ』は、自身初の長編小説だ。


これまで多くの著作で自分の生き様をノンフィクションとして描いてきたハリス氏が今回はフィクションに挑む、ということで読む前から楽しみにしていた。


舞台は、1964年、横浜。
主人公のJJ高原は、インターナショナルスクールに通う、英国と日本のハーフの父と日本人の母を両親に持つクォーターの17歳。


・・・って、これはほとんどハリス氏の高校時代の話じゃないか!



と、ご存知ない方もいるかもしれないのでご説明しますと、
ロバート・ハリスは、1948年横浜生まれ。「百万人の英語」等の英語講師として知られるJ・B・ハリスと日本人眼科医の母・富美子との間に生まれたクォーター。セント・ジョセフ・インターナショナル・カレッジを経て上智大学卒業後、1971年に東南アジアを放浪。バリ島に1年間滞在後、オーストラリアに渡り、延べ16年間滞在。シドニーにてブックショップ兼画廊「EXILES」を経営。帰国後FMラジオ・J-WAVEのナビゲーターや作家としても活躍、デビュー作『エグザイルス』はベストセラーとなる。



しかし本作は、その現実と虚構のバランスが心地良い、メタ構造でありながら、瑞々しく熱い傑作青春小説だった。


物語は、JJのインターナショナルカレッジでの日々——魅力的な不良仲間との友情、敵対するグループとの抗争、年上の謎の女性との恋愛を軸に描かれるのだが、特筆するべきは、その文体の生々しさだ。
まるでJJの生活に入り込み、憑依するような既視感が凄い。


大晦日の伊勢崎町に転がっている浮浪者の死体、電信柱に設置されたスピーカーから繰り返される流される三波春夫の「東京五輪音頭」、「USA」という横断幕が掲げられた店の中でトランジスタ・ラジオから大音量でかかるFENのアメリカンポップス、スタッド入りの革ジャンを着たリーゼントのダサい“川崎野郎”との一触即発———


その1ページ目で否応なく64年の横浜にタイムスリップさせられ、当時のカルチャーをリアルタイムで浴びる感覚がラストまで続く。
それは当然ハリス氏の実体験が色濃く反映されているからなのだが、今まで「情報」としてしか知らなかった時代や文化を、その空気に直接触れるように体感できるのが楽しい。


実際のハリス氏もそうだが、JJは一般的観点からいえば生まれた時から非常に恵まれている、いわゆるセレブだ。
家は横浜の高級住宅地、父親は大学教授、母親は医者、お手伝いさんまでいる(そのうちの一人と初体験までする!)。美形で身長が180センチ近くあり、喧嘩もそこそこ強く、同じように裕福なハーフの友人たち(こいつらもみんな最高に面白い)がいるインターナショナルカレッジに通い、女の子にモテて、好きな映画、音楽、文学を楽しむ毎日。


私のようなザ・庶民に生まれた者には想像もつかなかない、浮世離れした日常だ。
しかし、JJに嫉妬するかといえば全くそうではなく、前出したように彼に憑依して物語に入り込めるので、その青春の疑似体験は非常に痛快だった。
そして、読めば読むほど、フェアでユーモアがある彼のことを好きになっていった。
だが、痛快なだけではない。
私は本作をあえて例えると、生まれながらの超セレブリティであるソフィア・コッポラの映画作品に近いと思ったのだが、彼女が自身を反映させた自作の主人公のほとんどがそうであるように、選ばれた人間には選ばれた人間にしかわからない葛藤や苦悩がある。
私は、そのJJの底なしに深い苦しみさえも共有した(ザ・庶民のくせに!)。


また本作で重要なのは、温厚な大学教授の父親の存在だ。
前半、JJの日常と並行して父親が自伝を書いている様子が描かれるのだが、その綴られた「若き日の物語」が終盤、軸になってくる。
ハーフである父親の非情な日常、第二次世界大戦での陰惨な体験。
そして、その父親、イギリスから日本に渡ってきたJJの祖父との対立。
それを通して見えてくる若き日の祖父の冒険と葛藤。


人生は続き、血で紡がれ、死んだ後も物語は続く。
本作は、JJの物語であり、その父の物語であり、そして、祖父の物語——その紡がれていく「青春」を描いた小説だった。


それを、現在70歳のロバート・ハリスが、17歳の自分をモデルに、虚実織り交ぜ、綴る。
その多層構造がいわゆる「自伝的な青春小説」だけで終わらない、この作品の凄みだ。


我々が生きている「今」は、一瞬で歴史になる。
それを何度も繰り返し、いつかは朽ちていなくなる。
でも、物語は、「青春」は終わらない。


そのどこまでも熱く瑞々しいメッセージが時を超えて、私の心に刻まれた。


ハリス氏は長年の友人なのだが、次会う時までに読み終えようと思って、買ったその足でなんとなくカフェで読み始めたらどんどん夢中になってしまい、そのままほとんど丸一日ずっとその店に居座って一気に最後まで読んでしまった。笑


いや、読書の醍醐味を存分に味わいました!

是非多くの方に読んでいただきたい小説です!!



実は私とハリス氏は、8年前から「アレアレシネマトーク」という映画のトークイベントを毎月一回行っています。
先週開催された第90回は、私が『JJ』にハマっているということで「JJ特集。60年代の映画と音楽」というテーマで行いました。

ご興味ある方は、アーカイブがありますのでこちらも良かったら是非!


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