
ハリー・ディーン・スタントンは、特別な「愛される俳優」だった。
"だった"と書くだけで涙が出そうになる。
昨年、彼は天国へ旅立ってしまった。
「愛される俳優」というのは、必ずしも世界的に名の知られているスターということではなく、主役脇役、作品のジャンル、規模の大小関わらず長年活躍し、製作者からの人望が厚く、映画ファンの心に残り続ける演者、だと思う。
ハリーはまさにそういう男だった。
ちなみに私の持っているDVDでハリーが出演しているのは、以下の作品だ。
『レポマン』『パリ、テキサス』『エイリアン』『ニューヨーク1997』『ゴッドファーザー PART II』『ツインピークス』『ストレイト・ストーリー』『ワイルド・アット・ハート』『インランド・エンパイア』『暴力脱獄』『ビリー・ザ・キッド 21歳の生涯』『断絶』『最後の誘惑』『きっとここが帰る場所』『シーズ・ソー・ラヴリー』、そして『アベンジャーズ』!
・・・全作品、めちゃくちゃ好きだ。
こうしてあらためて彼のフィルモグラフィーを確認すると、本当に長い俳優人生だったことがわかるし、ジャンルは見事にバラバラだが傑作揃いだとしみじみ。
俳優にとって、自分が演じる前提の自身の人生を反映させた役、それも主役というのは滅多にないと思う。
さらにその作品が「死生観」について描かれた遺作となると、もう本当にないんじゃないんだろうか。
ハリー・ディーン・スタントン最後の主演作『ラッキー』はそういう奇跡のような映画だ。
彼ははやはり「特別」だった。
http://www.uplink.co.jp/lucky/
90歳、生涯独り身の男ラッキーがある日「終わり」を意識し、いつもの日常の中から〈死〉というものを悟っていく。
その姿を静かに、包み込むように描いたハリー渾身の最終作。
冒頭からハリー演じるラッキーの一挙手一投足に釘付けになる。
90歳の偏屈なじーさんの日常を追っているだけなのに、だ。
この作品は「生の中にある死」と対峙して浮き彫りになる"生き様”そのもの。
盟友デヴィッド・リンチが友人役で出演、『エイリアン』で共演したトム・スケリットも「らしい役」で顔を出し、シニカルなジョークと愛に溢れたエピソード、散りばめられたラッキーの言葉の数々、音楽、エンドロール、その全てがハリーの90年の人生を滲み出していて、全編グッと来っぱなしだった。
こんな贅沢な主演作が遺作なんて、ハリー・ディーン・スタントンは映画に愛された本当にラッキーな男だ!
3月17日(土)公開!
ぜひ劇場で観ていただきたい作品です。
※新宿シネマカリテでの初日、私と作家の戌井昭人さんでトークイベントを行いました。
http://www.webdice.jp/topics/detail/5586/