写真集の作り方(全4回)・第1回 「ドキュメンタリープロジェクト -『Ib...
Kosuke Okahara

Kosuke Okahara / Documentary Photographer
岡原 功祐/ドキュメンタリー写真家

1980年東京都出身。早稲田大学卒。南アフリカWITS大学大学院中退。人の居場所を主なテーマに撮影を続け、これまでに『Contact #1』『消逝的世界』『Almost Paradise』『Fukushima Fragments』の4冊の写真集を上梓。2008年度文化庁新進芸術家海外研修制度研修員。2009年には世界報道写真財団が世界中の若手写真家から12人を選ぶJoop Swart Masterclassに日本人として初選出。Photo District News が選ぶ世界の若手写真家30人にも選ばれる。また2010年には、IbasyoでW.ユージン・スミス・フェローシップを受賞。2012年、原発事故後の福島を撮影した作品でゲッティー・グラント、2014年にはコロンビアの作品でピエール&アレクサンドラ・ブーラ賞を受賞。同作品は、ライカ社100周年記念巡回展にも選出された。これまでに東京都写真美術館、クンスタール(ロッテルダム)、ケブランリー美術館(パリ)、C/Oベルリン(ベルリン)、ダイヒトールハーレン(ハンブルク)、バイエルン州立図書館(ミュンヘン)、アネンベルク写真センター(ロサンゼルス)、アパーチャー(ニューヨーク)など、各国の美術館やギャラリーでも作品が展示されている。

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写真集の作り方(全4回)・第1回 「ドキュメンタリープロジェクト -『Ibasyo』-」

写真集の作り方(全4回)・第1回 「ドキュメンタリープロジェクト -『Ibasyo』-」

これから4回に分けて、『写真集の作り方』と題して、3月30日に発売予定の『Ibasyo』を例にとって、ドキュメンタリー写真の写真集がどうやってできるのかを書いてみようと思います。ドキュメンタリーというのは超マイナージャンルの写真です。撮影・取材を始める前段階から、どうやって本になっていったのか。失敗したこと、うまくいったこと、などなど、その制作プロセスをシェアしたいと思います。



第1回・ドキュメンタリー写真プロジェクト『Ibasyo』について


「居場所がない」

3月末に出版されるこの本、撮影を始めたのは2004年のことでした。ある日、自分の卒業した大学の後輩がつぶやいたこの言葉から、プロジェクトは始まりました。


当時、僕は大学を出て間もない頃で、なんとか写真で身を立てたいと考えていました。とは言え、アシスタントをしたこともなく(今までも一度もアシスタントをしたことがありません)、カメラを買ったばかりで、右も左も分からない素人に仕事などあるはずもありません。海外に撮影に出かけてフォトストーリーを撮って帰ってきてもそれがすぐ売れるわけでもありません。ようやく載ったかなりマイナーな雑誌を大学の恩師に届けると

「おかちゃん、これに載っても誰も見ないわよ」

と厳しく返されました。当時のバイト先にいたパートの人にも

「写真家なんて言ってないで、さっさと就職しなさい」

と言われる始末。

夢を追いかけたはいいけれど、食べていけない。そんな状況に所在なさを感じていた頃でした。


その頃僕は清水博先生という、科学者のオフィスで書籍整理のアルバイトをしていました。そんな清水先生はその道では大家で、何十年も後になってから他の人が考えることをすでに考えていた天才のような人なのですが、まだ誰にも相手にしてもらえていなかった僕の写真を興味深そうに見てくれる優しい人でした。

「岡原くん、自分にとって大切なことは、人目にさらして育てないとダメですよ。最初は山が小さければバカにされるでしょうけど、がんばっていればその山は少しずつでも大きくなりますから。そしたらきっと共感してくれる人も、応援してくれる人も増えていきますから」と言ってくれ、とても救われたのを今でも良く覚えています。


そんな時に出会った後輩が言ったのが「居場所がない」という言葉でした。

僕の中ではっきりしていなかったものが、すべてこの一言に集約されていると感じました。僕が感じていた所在なさも、僕が日本で撮りたいと思えることも、当時コロンビアで取材していた、ある殺し屋についても、初めて言葉として自分の中に落ちてきました。彼女が言ったこの言葉は、僕に撮る理由を与えました。

そして「居場所がない」大学の後輩が苦しんでいたのが、自傷という行為でした。


「居場所」というと、去年くらいからテレビでもその言葉を多く目にするようになりましたが、2004年当時も、その言葉はつかわれていたものの、今ほどメジャーではなかったように思います。すでに14年も前の話ですが、僕にとっては現代の日本を表すキーワードのように感じました。実際に取材・撮影を進めていくと、よりこの言葉と自傷が結びついていきました。


撮影をさせてもらった人達の多くが、うつやパニック障害のため、まともに働くことができない状態に自らの価値を認識することができず、自分は役に立たない存在と思いこんでいました。「価値がない(と思い込んでいる)自分」を傷つけることで、自らの存在を肯定しようとする。しかし、その傷を見ては「してはいけないことをしてしまった」と自己嫌悪に陥ってしまう。自己否定をする自傷という行為が、自らの存在を証明する手段となってしまう悪循環。まるでメビウスの輪のような、そんな状態で居場所を感じることはとても難しいと感じました。


取材・撮影をさせてもらう人は、SNSを通して知り合いました。当時、フェイスブックはまだ日本ではメジャーではありませんでしたし、SNSというのはまだまだこれからの状態でした。僕は自分の個人情報、取材の目的など長々と書いてオンラインに投稿しました。そこで知り合った人を最終的には6人、取材させてもらうことになりました。2004年から始めた撮影ですが、実際に撮り始めるまでには数ヶ月を要しました。最後まで取材をすることができるのか。途中で難しくなり、投げ出すことにならないか。傷を負った人たちに「あなたたちのことを知りたい」と言いに行くのに、もし途中で終わってしまったら協力してくれた人たちの時間も労力も無駄になってしまう。そんな格好つけたような心配もしていましたが、日本で取材をするのが怖かったというのも正直な気持ちです。住んでいる場所で取材をするということは、自らの生活に直接関わってきます。結局、決心するまでに数か月かかってしまいました。


決心したものの、取材を始めた当初は、被写体になってくれた人達とどう向き合っていいのか分かりませんでした。彼女たちの体に残った傷は痛々しく、その体験もまた辛いものでした。しかし、腫れ物に触れるような態度で接することはしたくないとも思っていました。それは写真を撮ることにも影響しました。どのように彼女たちを撮ればよいのか迷っていました。

しかし、一緒に過ごす時間が増えるにつれ、彼女たちは友達のような存在へと変わっていきました。自然にその場にいられるようになり、それは写真の撮り方にも影響を与えました。傷だけではなく、彼女たちの存在をいかに写すか。そこに集中できるようになっていきました。撮影対象の彼女たちの部屋で何日も何回も撮影させてもらいました。特に何もない時間も多くありました。そんな時でもシャッターを切り続けました。何気ない日常をちゃんと切り取ること、そこから何か写真に写るものがあるのではないかと感じました。


そんな撮影を8年ほど、2011年ころまで続けました。この頃すでに僕は日本を離れていたので、徐々に撮影の頻度は低くなっていきました。と同時に、これをどうやって世に出すかを考えるようになりました。


(第2回につづく)


3月24日[土]『Ibasyo (居場所)』(工作舎)刊行記念 

写真家 岡原功祐「写真家にとっての居場所」※予約受付中 

「人の居場所」を主なテーマに撮影を続け、これまでに『Contact #1』『消逝的世界』『Almost Paradise』『 Fukushima Fragments』などを出版しているドキュメンタリー写真家、岡原功祐さん。2018年2月工作舎より、自傷行為への衝動に苦しむ女性5人に密着した写真集とノンフィクションのハイブリッド本『Ibasyo』が発売されます。場所や国籍にとらわれず活躍する岡原功祐さんに新作『Ibasyo』の取材秘話から、写真家としての居場所の見つけかたまで詳しくお話を伺います。


出演:岡原功祐(写真家)、宮城安総(工作舎アートディレクター)

聞き手:ナカムラクニオ(6次元)


日時:3月24日(土)18:00~20:00(17:30開場)

料金:1500円

会場:6次元 (http://www.6jigen.com)

予約:件名を「居場所トーク」とし名前、人数を明記し、

rokujigen_ogikubo@yahoo.co.jp ナカムラまで。



書籍情報こちらからamazon.co.jpで、ご予約頂けます。

5人の女性の自傷行為をめぐるフォト・ドキュメンタリー。
「 居場所 」を求めながら、
自らを傷つけずにはいられなかった彼女たちの細やかな心性に、
世界で活躍する気鋭の写真家・岡原功祐が光をあてる。
写真60点余と文章ドキュメント約280頁。
読み、見る者を圧倒する一書。

【目次より】
プロローグ
木部ちゃん ――耳をふさぎ、安らぎをさがす
ゆか ―――――トンネルの先に見える薄日
凪(なぎ)ちゃん ――繰り返す日々の営み
さゆり ――――自尊心のゆくえ
ミリ ―――――期待される自分、なりたい自分
エピローグ


  • 単行本: 370ページ(写真88ページ+ノンフィクション文章270ページ)
  • 出版社: 工作舎 (2018/3/30)
  • 言語: 日本語
  • ISBN-10: 4875024908
  • ISBN-13: 978-4875024903
  • 発売日: 2018年3月30日
  • 寸法: 18.5 x 11.8 x 2.5 cm

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