有機ガラスの筒が空間を一変させる、音と光の魔法。

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    青野 豊・写真photographs by Yutaka Aono

    有機ガラスの筒が空間を一変させる、音と光の魔法。

    やわらかなLEDの光と透明感のある音が、洗練された空間をつくりだす。実勢価格¥78,000

    遠目にも近くで見ても、白熱灯の色をしたLEDがこうこうと灯るランタン型のランプだが、実はこれスピーカーなのだ。通常スピーカーは、丸いコーン紙を振動させて音を出す。ところが、このランプは円筒型のガラスそのものが振動して音が出る。発音方法が特別なら、体験できる音も特別だ。コーン紙では、音はストレートに前方に出る。ところがこれは全周に向かって自然に音が湧き出る、もしくは自発的に飛び出す雰囲気なのだ。音が炎のように立ち上り、ある距離に達したら、一気に勢いよく360度に拡散する。耳を近づけても、普通のコーン紙で感じるような圧迫感はまるでない。 

    ボーカルはすべらかな声が魅力。アコースティックギターのソロ演奏では爪弾きが生々しく、クリアに抜ける清涼さ。ソロフルートは音の粒が俊速に、全周に飛び散る。まるで小人がミニフルートを眼前で吹いているような生々しさだ。大編成オーケストラを迫力で鳴らすのは不得意だが、アコースティック系のソロや小編成は、これまで体験したことがないような気持ちよさだ。 

    8年前にソニーは「サウンティーナ」というユニークなスピーカーを発売。円筒ガラスに加振器を取り付けて振動させて音を出し、ライトが光るという風変わりなものだった。この新製品の原型だ。105万円もしてヒットには結びつかなかったが、その後、同じ開発者は技術開発に励み小型化、性能向上を成した。平井一夫社長が、自身が提唱した空間~映像、音楽、光で満たすという“LifeSpaceUX”のコンセプトにぴったりだと試作機に目を付けたのが、今回の復活につながった。 

    音の魅力を再度、書こう。普通のスピーカーは前面に指向性をもつ。なのでエリアから外れると、とたんに生気を失う。ところが、この円筒型ガラススピーカーの指向性は前述したように360度。どの方向で聴いても均一な音圧が得られ、離れても減衰が少なく遠くでも楽しめる。音色はガラスの透明さと歩調を合わせ、クリアそのものだ。オーディオでは、発する音に素材の特徴が悪い意味で反映されることが多いが、本ガラススピーカーは、ガラスで発音と聞いて思い浮かべるような硬質感や不自然な強調感がないのが不思議だ。2本をペアリングし、左用、右用にステレオ仕様で使うとさらにいい。1本だけでも、音の浮遊感や臨場感が味わえるが、左右2本使いだと、余裕のドライブ力が得られ、低域がしっかりとし、音像もきちんと屹立し、音が空気を震わせる感覚がより濃くなる。 

    ガラスの中のLEDは白熱灯のような温かさ。音楽と光はよく似合う。光が音を照らし、音は光を輝かせる。音と光が奏でるデュエットは、目と耳の快感だ。

    操作系のボタンはすべて本革仕用の底面に集められ、立てた時にはすっきりとシンプルな印象に仕上がる。

    麻倉怜士
    デジタルメディア評論家。1950年生まれ。デジタルシーン全般の動向を常に見据え、巧みな感性評価にファンも多い。近著に『高音質保証!麻倉式PCオーディオ』(アスキー新書)『パナソニックの3D大戦略』(日経BP)がある。
    ※Pen本誌より転載