Swimsuit Department 郷古隆洋さんの「不思議の部屋」で、フォーク・アートを冒険しよう。

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    写真:永井泰史 文:佐藤千紗

    #27Swimsuit Department 郷古隆洋さんの「不思議の部屋」で、フォーク・アートを冒険しよう。

    不思議なオブジェも、店主の郷古隆洋さんの話を聞いていると、宝物のように思えてくるから不思議です。フォークアートを中心に、色鮮やかで力強いモノが所狭しと溢れかえります。

    近頃はどうやって買い物をしていますか。ネットで情報を集め、比較しながら吟味を重ね、ものを買うのが当たり前になっていることにはたと気がつきます。衝動買いが良いとは思いませんが、もう少し自分の感性や気持ちに忠実にものを買うのもいいかもしれません。そんな自分の感覚を頼りに、ものを見る体験が味わえるのが、ヴィンテージに魅せられた郷古隆洋さんの店「BATHHOUSE」です。

    Swimsuit Departmentとして輸入代理店やヴィンテージ品のトランクショーを行っている郷古さんが店をオープンしたのは2014年。神宮前の古いマンションの一室というちょっと行きにくい場所、それも基本はアポイント制というなかなかハードルの高い店ですが、隠れ家ショップを訪れるわくわく感もあります。

    店に一歩入ると、圧倒的な物量に驚きます。ショーケースから床、壁まで、モノが溢れていて、どこから見ていいのか迷うほど。それでも、オブジェとしか言いようがない雑多なものをしばらく眺めていると、だんだん気になるものが出てきます。どういうものかを聞いて行くうちに、並べられたものの鮮やかな色艶、豊かなかたちが目に飛び込んできて、楽しい気分になってくるから不思議です。それがここに集められたものたちの持つパワーなのでしょう。

    カウンターや棚、梁の一部など、オブジェたちが店内を埋め尽くします。中央に見える、愛嬌のある木彫りのカメは1970年代のメキシコのフォークアート。¥37,800

    こちらも同じくメキシコのフォークアートたち。コバルトブルーが鮮やかな燭台、ツリーオブライフや丸みが愛らしい鳥のオブジェなど、力強い生命力に満ちた作品が生活に彩りを与えます。

    BATHHOUSEのたのしみは、ジャンルも国もさまざまなものが並んでいる中で自分だけの発見をすること。ひときわシンプルなカップ&ソーサーは森正洋さんによるもの。¥3,240

    こちらはブラジルの先住民族カラジャ族による土人形。アレキサンダー・ジラードもコレクションしていたものです。

    食品サンプルの果物や福助人形などを、市で手にする眼。鮮やかな色や丸みは他のセレクトにも共通する要素です。

    こちらはスペインの高級磁器メーカー、サルガデロスのティーセット。店内で異彩を放つ魅力的な力強いデザインは、スペインの伝統建築に影響を受けたものといいます。

    店内の至るところにアイテムがあるので見逃さないよう、要注意。こちらは梁に設置されたジョージ・ネルソンの「インスパイア・クロック」。すべてのアイテムがフラットに並びます。

    「うちにあるものはほとんど役に立たないもの」と郷古さんは言います。

    置いてあるのは、日本やメキシコなど中南米のフォークアートを中心に、オブジェ、陶磁器、ガラス、テキスタイルなど、年代も国籍もさまざま。選ぶのは「直感で良いと思ったもの」という潔さ。敬愛する染色家の柚木沙弥郎さんも「良いものは良い」と語っていたと、モノ選びの基準に自信をもった様子。有名なデザイナーものも、ジャンクな土産物も、価値や希少性に関係なく平等に扱うのも、普通はなかなかできません。共通するのは、古いものということだけ。その理由を「染料もいまと違って発色が良く、材料を惜しみなく使っている。ものづくりを端折っていないので、ものとして美しい厚みや力強さがある。そういうのは身の回りに置いておいて楽しいですよね」と説明します。

    買い付けは、週1~2回骨董市に通い、アメリカ西海岸のマーケットに出張することも。市の歩き方のコツは2周すること。「まず一周ざっと見て、目に留まったものを買い、2回目は普通のスピードで見ます。初見はそわそわしていることもあるし、2回目はまったく違うように見えるんです。うちの店でもお客さんには2回見てって伝えます」

    目利きが光をあてる、日本や世界の伝統工芸

    ポップな色、ユーモラスな表情のメキシコの木彫りのキツネは、かつてこうしたオブジェを作成していた職人を見つけ、いまに蘇らせたもの。¥32,400

    ここ数年、郷古さんが注目してきたのが、“組木”です。

    「箱根、小田原あたりでつくられる伝統工芸品で、釘を使わない宮大工の技術を使った、パズルのようなオブジェです。いまはもうほとんどつくられていないのですが、昔はブルーノ・ムナーリが注目して、柳宗理がデザインを提供したり、カイ・フランクも工房を訪れるなど、デザイナーに影響を与えたみたいです」

    箱根に通い詰めて土産物屋や工房をまわり、あるもの200個ほどをかき集めたそう。それらを展示販売したところ、これまでにない反響があったと言います。

    「初めて組木を知った驚きでしょうね。たくさんの人が来てくれて、いままでの売り上げ記録をつくったくらい。こうした貴重なものづくりを世の中に知らせて、絶やさないようにしたい。ある種の使命感ですね」

    他に、浜松で染色家・芹沢銈介に師事した山中武志によるテキスタイルも一押しのアイテム。78歳とは思えない、モダンで斬新な感覚の暖簾や風呂敷は、現代のインテリアやファッションにもぴったりです。

    ガラスケースの下段に並ぶのは、無駄のない幾何学的なフォルムが美しい山中組木工房による組木。構造がそのまま形になった美しさがあります。

    ブルーノ・ムナーリらが注目し、来日時には組木の工房を訪れていたといいます。こちらは、清水の舞台を思わせることからカイ・フランクが名付けたという「清水組木」¥8,640

    浜松に工房を構える染色家山中武志さんによるモダンで大胆なプリントの風呂敷各¥9720。店内には幾何学模様がシンプルに染め抜かれたシックな暖簾も並びます。

    フォークアートは海外だけに留まりません。こちらは、大らかで伸びやかな表情が魅力の張り子の郷土玩具。いまはつくられていないものや製造手法が変わったものも。

    こちらはわずかに在庫を残すのみとなった、イヌイットの女性たちが防寒具の端切れを使って制作したフェルトのタペストリー。¥86,400

    身近な動物や風俗をモチーフにし、生活に根差したアートの素朴な温かみがあります。¥75,600

    一度ハマると抜け出せなさそうなディープな店は、探検するように楽しむのがおすすめ。木〜土は予約なしでも入店できます。

    目利きとは、他人が気づかないものごとを発見する人。BATHHOUSEで扱うものは、一般的な趣味の良さや、実用性からは離れていて、子どもが無意識に反応してしまうような、ピュアな明るさや楽しさを持つものたちです。雑多なものを扱いながら、そのセレクトはぶれずに一貫している。骨董市通いで鍛えた郷古さんの眼が見つけたものは、既成の価値を揺さぶり、爽快ですらあります。

    あなたもめくるめくカオスをくぐりぬけ、頭ではなく、感性で買い物をしてみませんか。新年に似合う、郷土玩具や動物のオブジェも豊富に揃っています。よくわからないけど、欲しい。そんないまの自分を照らす、相棒のようなオブジェに巡りあえるなんて、そんな幸運なことはありません。

    BATHHOUSE by Swimsuit Department

    東京都渋谷区神宮前3丁目36-26 ヴィラ内川201
    TEL:03-6804-6288
    営業時間:13時~18時
    営業日:木~土(日曜日は不定休)
    http://swimsuit-department.com/
    bathhouse@swimsuit-department.com

    ※月~水は予約制。