英国から届いた、アートの香り漂う新感覚クラフト

    Share:

    写真:永井泰史 文:佐藤千紗

    #21英国から届いた、アートの香り漂う新感覚クラフト

    樫の木のチップで革をなめす技法を使用したレザーバックのウィンザーチェア。¥594,000

    うつわや木工などといった手工芸品。こうした少数だけどしっかりとつくられたものを望む声が、世界各地で高まっています。いまを暮らすわたしたちは、生活のなかに手仕事の温かみを取り入れることを本能的に欲しているのかもしれません。イギリスの「THE NEW CRAFTSMEN」もそうした、自国の伝統技術を生かしたクラフトをいまのライフスタイルに合ったかたちで提案するギャラリーショップのひとつです。

    インテリアやアート、高級紳士服のバックグラウンドをもつ3人の創設者が、2012年に設立。いまでは80近い作家や職人、工房とネットワークをもち、若手アーティストとのコラボレーションやオリジナル作品を展開します。ロンドンの中心街、メイフェアに店を構える彼らがいま、イデーショップ東京ミッドタウン店でポップアップストアを開催中です。

    革やストローなどの素材を、イギリスの伝統的な手業を使いながら、現代的なデザインで引き立てています。

    セバスチャン・コックスによるキャビネットは、表面を焦がし炭化させたこけら板を張り合わせたもの。

    ガラス作家、マイケル・ルーによるシャンパンフルート各¥17,280、琥珀色が美しいグラス各¥11,800

    伝統的なスリップウェアを、繊細な絵付けとつややかな釉によって味付けしたハナ・マクアンドリュー。

    シルヴィア・ケイ・セラミックスによるテラコッタの器。泥漿による鮮やかな絵付けがアーティステック。

    「手仕事のぬくもりがありながら、モダンな要素もあり、オブジェのような佇まいが新鮮」

    THE NEW CRAFTSMENの魅力を、今回のポップアップを企画したバイヤーの大島忠智さんはそう語ります。たとえば思わず触れたくなる、なめらかなレザーの背もたれを持つ椅子は家具デザイナーのガレス・ニールによるものです。これは伝統的なウィンザーチェアに、オークバーク(樫の木)タンニングという技法で1年かけてなめした切りっ放しのレザーを組み合わせたもの。日本のこけら葺きにインスパイアされたキャビネットは、表面の木肌を焼いて炭化させて、力強い存在感を醸し出します。時に過去を引用しながらも洗練されたデザインで、シープスキンやストロー(藁)といった素朴で古くから使われてきた素材の豊かなテクスチャーが引き出されたアイテムの数々。THE NEW CRAFTSMENは、貴重な伝統技術を用いたクラフトをアートのように扱い、キュレーションしていることがわかります。

    「実際、ロンドンのショップはギャラリーのような雰囲気で、週末にはつくり手のワークショップやカクテルイベントが行われます。顧客はアートに触れるような感覚で、生活に取り入れているようです」

    用の美に重きを置いた日本の工芸とはまた違う、希少なアートピースのような個性はクラフトのもつ新たな可能性をかい間見せてくれます。

    スタイルではなく、ストーリーを伝える店へ。

    ケーキの焼き型やザルなど、アンティークのキッチンツールをリメイクしたペンダント照明は商品化予定。

    今回、ポップアップの会場となったイデーショップ東京ミッドタウンは、ちょうどリニューアルしたばかり。その一環として、古物や廃棄されたモノの価値を再発見するプロジェクト「IDÉE GARAGE」も始まりました。併設するカフェの天井に吊るされているのは、食にまつわるヴィンテージツールを使ったユニークな照明。これは、アンティークショップ「リバーサイドファーム」のオーナーである古賀秀幸さんがリメイクしたもの。テラスのカフェにも、リサイクルによって蘇ったユニークな椅子がならびます。その他にも、ヴィンテージのキルトやアートなどの一点ものが店内を彩り、それらが家具とミックスされてスタイリング。店内をめぐると、テイストの異なる印象的なシーンが次々と現れます。

    「いまは北欧やヴィンテージといった特定のスタイルよりも、自分が良いと思ったものを取り入れ、その人らしさがインテリアに表れる時代。そうしたものと出合うきっかけになる、ストーリーを伝えるアイテムやイベントを充実させています」と、大島さんは言います。

    オブジェのようなガラスペンダント。ノマドランプ¥48,600~

    新たにアートスペースを設け、作品に合わせてスタイリング。10/31(月)までカワニシタカヒ展が開催中。

    多様な素材をコラージュして独特の質感をつくりだす作品。気負わずにアートを取り入れる提案を行います。

    テラスにはIDÉE GARAGEのプロダクトが並ぶ。こちらはBouillon(ブイヨン)による籐編みのパイプ椅子。

    企画展や食のワークショップなどのイベントが充実し、足を運ぶたびに新たな発見がありそう。

    暮らしに新しいものを取り入れるなら、機能だけを満たすのではなくて、気持ちが豊かになるものがいい。それがこの連載の趣旨でもありますが、イギリスのクラフトブームを見ると世界に共通した心持ちのようです。けれども、クラフトの新しい価値を生活者に提案するためには、ものの説得力と、気持ちを後押ししてくれる魅力的な語りかけが大切ではないでしょうか。THE NEW CRAFTSMENの提案する、感性に彩られた暮らしから、手仕事のプリミティブな美しさを上質なアートに見立てた審美眼を感じます。

    そうした思いをともにするからこそ、イデーは東京で彼らを紹介します。ミッドタウンのイデーは特にイベントを通じ、新しいインテリアの価値観を紹介し、他店とはまた少し違うユニークな提案や発信を強めているようです。店を訪れるたびに新しい暮らしのインスピレーションを得る。そんな風通しの良いハブのような店にこれからも注目です。

    IDÉE SHOP Midtown

    東京都港区赤坂9-7-4 D-0316東京ミッドタウン Galleria 3F
    TEL:03-5413-3455
    営業時間:11時~21時
    www.idee.co.jp

    ※IDÉE CRAFTS "THE NEW CRAFTSMEN POP-UP STORE"展は10/11まで。
    9月24日(土)17時~18時30分にTHE NEW CRAFTSMENのディレクター、キャサリン・ロックさんのトークショーを開催。定員50人。